第92話 今からデートするんじゃない?

 赤ちゃんが泣き止み、静かさを取り戻した店内。僕と死神さんは、注文したカフェオレを飲みながら、たわいもない話に花を咲かせていました。


「……あれ?」


 不意に、死神さんが、何かに気が付いたような声をあげました。


「どうかしましたか?」


「あそこに見えるのって、先輩ちゃんじゃない?」


「……本当ですね」


 死神さんが指差す喫茶店の窓の外。そこから見えたのは、いつも学校で顔を合わせる先輩の姿。そう。間違いなく先輩……のはずなんですが……。


「何というか、いつもと雰囲気が違うね」


「……確かに」


 先輩は、真っ白なワンピースを身にまとい、その上からベージュ色のジャケットを羽織っています。普段、制服姿しか見ていないからでしょうか。いや、それでなくても、今の先輩はとてもおしゃれに見えました。


「もしかしてだけど。先輩ちゃん、今からデートするんじゃない?」


 先ほどから先輩は、腕時計をチラチラ見たり、周りをキョロキョロ見渡したりしています。加えて、肩にかけたポシェットから手鏡を取り出し、それを見ながら髪型を整え始めました。明らかに、大切な人を待っているという様子です。


「デート……かもしれませんね」


「…………」


「…………」


「……よし、決めた」


 頷きながらそう告げる死神さん。カフェオレを一気に飲み干し、カップをソーサーに勢いよく置きます。


「何を決めたんですか?」


 首を傾げながら尋ねる僕。死神さんの顔には、いつの間にか、ニヤニヤとした悪い笑みが浮かんでいました。


「フフフ。これから、先輩ちゃんに挨拶しに行こう!」

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