第81話 ……誰か来てたの?

 午後四時。


「じゃあね。あの子のことをよろしく」


 そう言い残して、お義母さんは姿を消してしまいました。ただ見えなくなっただけなのか。それとも、本当にこの場からいなくなったのか。ただの人間である僕には、死神の力を区別することなんてできません。


「さて、死神さんが帰ってくる前に……」


「ただいまー」


「え!?」


 僕が腰を上げるとほぼ同時。バタンと大きな音を立て、玄関扉が開けられました。真っ黒なローブを揺らしながら中に入ってくるのは一人の女性。そう、死神さんです。


「死神さん。今日は早いですね。いつもは五時くらいなのに」


「まあね。今日は早上がりだったんだよ」


 そう言いながら三角帽子を脱ぎ、ベッドに腰掛ける死神さん。


 ……お義母さん、死神さんがいつ帰って来るか知ってたのかな?


 これはあくまで直感なのですが、お義母さんはただマイペースなだけではないように思うのです。いろいろと見透かした上で、あえてマイペースな感じを装っているような……。いや、まあ、あれが素である可能性もありますけどね。


「ねえ、君……」


 僕が考え事をしていると、不意に、死神さんの声が部屋の中に小さく響きました。


「何ですか?」


「……誰か来てたの?」


 その視線が注がれる先は、テーブルの上。そこにあるのは、先ほどお義母さんに出した来客用のコップ。


「あ……えっと……」


 思わず言葉に詰まってしまう僕。


 言っていいのでしょうか。お義母さんが先ほどまでここに居たことを。娘がいない間に、同棲相手が娘の母親と会っていた。何とも異様な状況に思えて仕方がありません。


 ですが……。


「…………」


 死神さんが、こちらにゆっくりと顔を向けました。その赤い瞳が、まっすぐに僕を捉えます。


「その……」


「…………」


「……実は、さっきまで、お義母さんが来てたんです」

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