第68話 一体、誰と話してるんですか?

 先輩と別れ、僕と死神さんは、アパートへの帰り道を歩いていました。


「帰ったらご飯作らないといけませんね。死神さん、何か食べたいものはありますか?」


「そうだね……じゃあ、お肉料理がいい」


「死神さん、相変わらずお肉好きですね」


 僕が笑いながらそう言った時でした。


 ―――二人とも、今日はお疲れ様。


 突然僕たちの背後から聞こえた声。後ろを振り返りますが、そこには誰もいません。


「……え!?」


 僕の横にいた死神さんが、驚きの声をあげました。大きく見開かれたその目には、一体何が映っているのでしょうか。


 ―――久しぶりね。元気にしてた?


「こんな所で何してるの?」


 ―――仕事よ。あなたが有給を取ったから、私が代わりにこっちへ来たの。


「あ、なるほど」


 傍から見れば、死神さんは、ただの頭のおかしい人でしょう。何もない空間に向かって話しかけているわけですからね。ですが、その空間からは、はっきりとした女性の声が聞こえます。加えて、その声はどこかで聞いたような覚えが……。


 この状況に、僕の頭は混乱しっぱなしでした。


「えっと……死神さん。一体誰と話してるんですか?」


「誰って、それは……あ、そっか、君には見えてないんだ」


 ―――あらあら。すっかり忘れてたわ。


 そんな声が聞こえたかと思うと、瞬きもしないうちに一人の女性が姿を現しました。真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。綺麗な赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。


 その顔は、死神さんによく似ていました。ですが、瓜二つというわけではありません。まるで、死神さんを大人にしたかのような……。


「君、紹介するね。私のマ……お母さん」


「娘がいつもお世話になってます」


 女性は、そう言ってペコリと頭を下げました。

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