第60話 お願い。教えて

「ごちそうさまでした」


 そう言って、死神さんは、再びベッドに横になりました。


 僕は、お皿洗いのためにキッチンへ。お皿洗いを終えて部屋へ戻ると、こちらをじっと見る死神さんと目が合いました。


「どうかしましたか? 死神さん」


 ベッドの傍に腰を下ろす僕。そんな僕を、死神さんはただ黙って見つめます。


「…………」


「…………」


 開いた窓の外から聞こえる車の音。カーテンを優しく押し上げる風。時計の針が、カチカチと確実に時を刻んでいきます。


「あのさ……」


 どれほど時間が経った頃でしょうか。死神さんがゆっくりと口を開きました。


「はい」


「私ってさ……その……」


「何ですか?」


「……君の大切な人に、ちゃんとなれてるのかな?」


 弱々しく告げられたその言葉に、僕の頭は一瞬活動を停止してしまいました。まさか、いきなりそんなことを言われるとは思ってもみなかったのです。風邪をひいたときは弱気になってしまうと言いますが、今の死神さんも同じような状況なのでしょう。


「えっと……」


「お願い。教えて」


 死神さんは、畳み掛けるようにそう告げます。死神さんの綺麗な赤い瞳が、僕を捉えて離しません。


『私、君の大切な人になろうと思う』


 今でも脳裏に焼き付いている言葉。僕に生きる意志を与えてくれた言葉。きっと、死神さんと出会わなければ、僕はすでにこの世にいなかったことでしょう。僕が選択した生きるという道。その先にどんなことが待っているのか、今はまだ分かりません。不安だってまだ残っています。けれど、こうも思うのです。この選択は、間違ってなかったんじゃないかと。だって……。


「……大切に決まってるじゃないですか。もし大切じゃなかったら、学校休んでまで看病なんてしませんよ」


 僕の傍に、死神さんがいてくれるのですから。

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