第53話 二人は、本当に姉弟?

「そういえばさ……」


 玄関で靴を履きながら、先輩は僕と死神さんに向かって問いかけました。


「二人は、本当に姉弟?」


 突然、頭の上を硬い何かで殴られたような衝撃。僕の背中にジワリと滲む汗。恐れていた事態が、今まさに起きようとしています。


「えっと……ど、どどどういうことですか?」


「だって、あんたのお姉さん、目は赤いし、髪は白銀だし。あんたと全然違うじゃない」


「あ、あの……」


 まずい、まずい、まずい。これは一体どうしたら……。


 よくよく考えれば、僕と死神さんの見た目は全く違います。姉弟という設定には無理がありました。遠い親戚という設定なら説明がしやすいかもしれませんが、今更変更するなんて怪しすぎます。


「その……僕たちは……」


「ふっ。これは、ついに私たちの正体を明かす時が来たようだね」


「しに……姉さん!?」


 焦って横を見る僕。視線の先にいたのは、ドヤ顔の死神さん。この時、僕は悟ったのです。僕の平穏な高校生活の終わりを。


「私たちはね、姉と弟でもあり……」


 ……ん?


「彼女と彼氏でもあり……」


 ……んん?


「妻と夫でもあり……」


 ……んんん?


「えっと…………もう思いつかないや。と、とにかく、私と彼は、簡単には説明できないくらい、すっごく特別な関係なんだよ。そう、それは、運命によって定められたレベルのね!」


 …………


 …………


 僕たちの間に、奇妙な沈黙が広がりました。ドヤ顔を浮かべ続ける死神さん。ポカンと口を開けたまま固まる先輩。ダラダラと脂汗を流す僕。


 やがて、先輩は、僕の肩にポンッと優しく手を置きました。そして、こう告げます。


「……よく分からないけど、これが中二病ってやつね。大丈夫。中二病はいつか治るものらしいから」


 死神さんが中二病扱いされてる!


 どうやら、先輩の中で、死神さんは中二病であるとの結論に至ったようです。


 結局、僕の必死の説明により、死神さんの赤い目はカラーコンタクトで、白銀色の髪は染めたものであるということになりました。死神さんを中二病であると信じ込んだ先輩は、証拠を見せろとも言わず、「うんうん」と終始頷いてくれていました。生暖かい目を僕に向けながら。


 ちなみに、死神さんは、「え? 中二病? え?」と困惑しっぱなしなのでした。


 めでたし、めでたし……なのかな?

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