春の川、甘い花

 春の小川はさやさや流れる。泥で濁った汚い水も、投げ捨てられた芥屑が打ち上げられた川岸も、暖かな陽光にくるまれて、ふんわりと穏やかで美しい。すくすく伸びる草は緑色。肌をくすぐるやわい風。静かな川沿いを歩いていると、頭の中身が残らずこぼれて心が透明になるような気がする。


 雛子の世話役はいつまで続くかと、最近はそればかりを考えている。


 もう辞めたい。辞めたくない。会いたくない。傍にいたい。理性と欲の間で引き裂かれそうだというのに、あの顔でにっこりと微笑まれると、微笑み返さずにいられない。あの子の肌は甘い匂いがする。あの子の目玉は甘い味がしそうだ。甘い菓子ばかり際限なく食べるから、血の代わりに砂糖水が流れていてもおかしくない。氷すいが溶けたようにさらさらの、つめたく甘い水だろう。


――そういえばこの前、水あめを食べたいと言っていた。


 果物を一口大に切って串に刺したのに、水あめをからめて食べたいと言っていた。路上で子供が食べていたのを見たのだそうだ。あの家には季節の果物なら大抵あるが、水あめは置いていなかった。今度おみやげに持ってきますよと約束すると、雛子は嬉しそうに笑った。きちんと並んだ小さな白い歯。光を吸い込む真っ黒な目。あの子はきれいな部品を寄せ集めてできている。細かなところまで磨きがかけられ、誘いかけるように輝いている。


「雛ちゃんに水あめをかけて食べたい」


 独り言を言うと口から涎が垂れた。

 私は締まりのない笑みを浮かべ、温かな川沿いの道を歩いた。どこからか花の匂いがしていた。

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