3-a
ふん。久しぶりに面白い奴が来たものだ。
彼はそう思いながら剣作りの材料をカゴに詰めていた。
「あら、あなたどうしたの?とっても楽しそうじゃない。」
妻に言われ頬が緩んでいたことに気づく。
「まぁな、ちょっとばかし面白い客が来たなと思ってな。」
ブキヤにはよく強盗がやってくることもあり妻には接客をさせていなかったが今になって後悔した。
彼が面白いと言っていた客はいかにも人です。と思っているが体の極一部に獣系の血が流れている。
いや、あれは違う。元は人であったが後から獣系の力を混ぜ込んだ。とも言える。
考えれば考えるだけ選択肢が増えている気がして彼はそこで考えるのをやめた。
「さて、店番任せて2日経ってある程度構成は出来たし作る前に一服するか。」
彼はそう言い、裏口から外に行き、葉巻に火を付けた。
そよ風を感じながら葉巻を吸っているとヒカリが歩いていくのが見えた。
(こんな時間にどこに行くんだろうか。普段は夜になったら外に出ないタイプなのに。)
「ヒカリちゃん。こんな時間からどこへ?」
ヒカリは彼の呼びかけに反応し、こちらに歩いてきた。
「あ、マスター。ユウキが剣術を教えてくれと言うので今から平原で練習しに行きます。」
彼はやはり不思議だ。この国、いやこの星では5歳から剣術の稽古をしないとならない。という法律が存在する。
(・・・もしかしてあの小僧、異世界人か?)
もしそうだとしたら辻褄が色々と合って来る。
(なるほどな。やはり面白い奴だ。)
「ヒカリちゃんのことだから上手に教えられると思うよ。」
ヒカリは一礼し、平原に向かって行ってしまった。
さて、気になるし少し見学タイムとしましょうか。
(お、キタキタ。つってもあの小僧ウチの店で一番重い剣を持ってきたか。)
その剣は重心が絶対に剣先に向くようにミスリルやら何やら重い金属をとことん注ぎ込んで出来た剣だがあまりにも重くて実践には不向きだと思いながら一応置いてある剣だ。
剣は重量が大きければ大きいほど威力が大きくなる。さらに重心が剣先、つまり外側に向いていると言うことは遠心力を十分に使いこなせば最大火力が出るのでは。という疑問から生まれた試作品48号であるが気に入った客が居たならば売ることも可能だったがそんな物好きは居なかった。
ヒュン。ヒュン。
(ほほう。筋肉はそれほどついてないが体のどの部位を使えばいいかをしっかり把握しているのか。なら型と色も決まったことだし制作を開始するとしますか。)
「ふう。なんとか完成だな。」
完成した剣は薄緑をメインカラーにした片手剣。
昨日使ってた剣と同じように先端が重いが小僧の素振りを見るに上手く振れるのではないかと期待している。
彼は剣を大きく振りかぶり勢いよくかまどに叩きつけた。
カキン。
彼は剣が完成すると必ずそれなりの強度があるか確認する。
それゆえ今まで数えられないほどの剣を叩き折っている。
彼は工房を後にし、ユウキに剣を渡す。
(小僧にはこれからもっと面白いものを魅せてくれるだろう。)
最後に彼らに秋刀魚を切り落としてもらい、それを見守った彼の仕事はこれにて一段落したのだった。
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