2-1 異世界にて

 いつ異世界に着いたのだろうか。


 ゼウスに腹パンを喰らわさせられて、頭から落ちて行ったことまでは憶えている。

 が、その先の記憶が全くと言っていいほど憶えていない。


 そして今の俺には疑問が三つほどある。


 一つ目、俺はなぜうつ伏せなのか。


 頭から落ちたことは事実。記憶無く綺麗に着地する事の方が至難の業。

 あと、結構な高さから落ちてたけど頭で地面に刺さるなんてマジックみたいなことしてないで欲しい。


 二つ目、そもそもここは異世界なのかどうか。


 あのゼウスのことだ。

「あ!変なとこに送り込んじゃった!ま、あいつなら何とかなるだろ。」 とか思うからな。


 不安でしかない。


 三つ目、天界でゼウスから貰ったインドラはどこにいるのだろうか。


 とりあえず状況確認のために仰向けになる。


「まぁなんとかなるか。」


 空は青一色。


 周りは芝生。おそらく天然芝だろう。というかこれで人工芝だった時のショックデカイから天然芝であってくれ。


 それにしてもここはいいな。静かだし景色も空気も綺麗で。


 俺の生まれ故郷は鉄の棒達が上から見下ろして来たり、鉄の塊が時速40キロ越えで臭い息を吐きながら走っていた。


 でもここは空気も美味い。

 空は広い。

 エンジンの音すら聞こえない。


 最高か?


 ・・・目を閉じる。芝生が身体全体を包む感じがした。








 少し寝てしまった。


 しかしここは異世界。怒る人もいなければ…というか人の声すら聞こえない。


 モンスターの声も気配も無いからとりあえず安心。だと思う。


 まだ寒くも無いしもう一眠りするためにも目は開けないでおこう。


 二度寝とラーメンのスープ全飲みほど最高なことはない。


ツンツン。


 ん?なんだ?まさかモンスター?

 待って、そう考えたら俺結構ヤバい状況…だよな?

 今から目開けたくねぇなぁ。くっそこえぇじゃねえか。

 いや、気のせいだ。大丈夫大丈夫。


ツンツン。


 やっぱいる!待って。心の準備が。いや、モンスターなら心の準備ができた所で何されるんだ?

 転生して速攻『死』だけは辞めてくれ。


ツンツン。


「誰だー!」


 目の前には女の子が1人いた。


 とりあえずモンスターじゃ無くて良かった。

 目が覚めてゴブリンと見つめ合う。なんてはっきり言って気まずい事にならなくて良かった。


 女の子は金髪ロング。髪は腰近くまで伸びている。

 瞳は緑色。地球では約2%の人しか持ってないとも言われるグリーンアイ。こんな所で観れるとは。

 身長は俺よりは小さそうだから170〜173ってところか。

 腕や足はスラっとしているからこそ付いてるところが付いていてハッキリしている。


 背中にはお相撲さんの腕2本分くらいの太さの栗色の鞘に収まっている大剣を装備している。いくら何でもこの女の子に持てないと思うのだが…。


 それにしても可愛い顔をしている。


 が、俺は知っている。


 人間とは悲しい生き物であり、残酷な生き物である。


 顔がいい人は中身がダメだった。俺の学校生活上、美人は性格が悪い人しか居なかった。

 そう!俺の心の教科書には美人+可愛い=性格悪い。の方程式が出来上がっているのだ!


 にしてもどうしたものか。さっきから女の子は微動だにしない。まるで人形のようだ。

 俺がいきなり大声を出してびっくりしているだけでは無いような…。


 うーん。


・・・この雰囲気どうしよう。何だったらゴブリンと目を合わせてた方が楽だったかもしれない。


 そう考えた途端胃がキリキリ言い始めた。


「………。」


「………。」


 どうしようこれ。困ったな。


 仕方ない。じいじ直伝のコミュ力がクズが使う大技を使う日が来るとは。


「君、名前は?」


 決まったァァァ。とりあえず会話に困ったら無理にでも距離を縮めてくるのが重要ポイントだ。


「ねぇ。知ってる?そういうのはね、まず先に自分が名乗るのが常識ってもんよ。そうでもしないと斬り殺されるよ。私じゃなきゃ。」


 うん。怖い。私じゃなきゃ斬り殺されるよ。なんて言っておきながら手は柄を思いっきり握ってんじゃん。


「お、おう。お、お、俺は浮島優樹だ。君は?」


「ふー。私はヒカリ。職は剣術士。あ、見ての通り大剣使いね。」


 ヒカリと名乗る彼女は大きなため息を吐き、眉間にシワを寄せながら教えてくれた。










「…。ということなの。」


 ふむふむ。あらかたではあるがこの世界について少し教えてもらった。


 まずまずヒカリは今俺がいる野原の近くの町に住んでいるということ。

 ヒカリはその町で2番目に腕が立つということ。

 そしてその町の名前は『セルンド』。


 というかそんな大剣振り回して2番目に強いっておっかねぇ。


「わぁー、あははははははははははは。」


「pdswqbm」


 いきなりの事で何も掴めないまま地面を顔面を叩きつけられ俺はふと、右下に視線を送る。


(ん?)


 右下には小さくではあるがHPバーとLv.の表示が出ていた。

 そして時間が経つごとにHPが減っていく。

 最初は緑色をしていたHPバーは黄色を通り越し警告音とともに赤色になり始めた。


(や、やばい。転生してすぐ死ぬ。ほんとに死んじゃう!)


「私はインドラ。天界で修行を重ねた神の1人よ。よろしく、平凡優樹。」


 み、見つけた。神が1人、軍神と呼ばれるインドラ。主にインド神話に登場する神だ。

 ちなみにゼウスはギリシャ神話の最高神。ローマ神話ではユピテル。


 要するにこの世界には各神話に出てくる神様達が入り混じる世界ってことか。


 って、しっかり解説してる状況じゃなくね?

 え?俺ほんとに死ぬの?


「私はヒカリ。よろしくインドラ。あ、ちなみにユウキはインドラに踏み潰されて今にも死にそうよ。 まるで水がなくて慌てる魚みたいにね。」


「あら、ごめんね。顔面偏差値50君。」










 俺の禁忌に触れた罰として近場にたまたまあった麻紐で縛っておいた。

 会ったばかりだから。とか神様だから。などの理由は受け付けない。

 社会とは理不尽で埋め尽くされている。


「なによ。影が薄いのが悪いんでしょ。」


「ふざけんな。影が薄いのが悪いとかどんな差別だよ。」


 残念だが影が薄いことに関しては否定できない。


 インドラ。某王道異世界転生ラノベに出てくる某ヒロインみたいに思えてくるが性能はずっとガチ。

 何なら今の口論中にも回復魔法を唱えるくらいの余裕はあるようだ。

 茶髪に茶色の目がクリクリである。髪型は男子歓喜なお団子。これまた整った顔立ちである。

 金のアクセサリーを手首や頭につけているがそれが気にならないくらいの圧倒的な存在感。

 はっきり言ってゼウスみたいなしょぼくれた感じじゃ無くて良かった。



・・・ヒカリからの痛い視線が。

 そうだよな話についてけないよな。


 そう思い、下を向いた時に俺は気づいてしまった。


 俺、死んだ時と同じパジャマじゃん。


 天界にいる時は自分の想像で好きなだけ服装を変えられたがそれは肉体が存在しないからということか。


「インドラ。金ある?」


「あるわけないでしょ。ゼウスに緊急の連絡もらって大急ぎで行ったらそのまま異世界行き。あぁ、その見窄らしい服装をどうにかしたいならそのパジャマでも売ればいいのよ。」


 こいつは俺に裸になれというのか?まぁ法には触れないかもしれないけどさ。


「却下。ヒカリはなんかこっちで稼ぐ方法とかないのか?」


「稼ぐなら冒険者になってモンスターを倒すことね。」


 まぁこの世界にアルバイトなんてあるわけもないか。


 期待した俺が馬鹿だったと思い、その野望は折れた。


「近くにある森なら殴って倒せるくらいの弱いモンスターが出てくるし大丈夫でしょ。」


(俺が望んだ自堕落な生活を送るのは無理なのか)


 俺らはそう思いながら森に向かって行った。














「ねぇ、とーっても歩きにくいんだけど。」


 そりゃそうだ。だってここに引き腰になりながらインドラの服の袖を掴み、歩いてる男がいるんだもん。


 勿論理由がある。


 まず、シンプルに暗くて怖い。ほとんどと言っていいほど光が入ってこないのでかなりの暗さだ。


 その次にHP。さっきインドラに踏み潰されたお陰で2割程減っている。インドラのお陰でだいぶ回復した方だがまだ油断しては行けない。

 と言うかMP低くね?MPないからとか言ってたけど神なら全快にしてくれよ。


 なんせ日本にはいないモンスターなんて種族がいるのだから。


(せめて武器があれば戦えたのになぁ。)


 それにしてもだいぶ深くまで森に入ったものだ。


「あのー、ヒカリさん。ここら辺で宜しいのではないでしょうかー。」


「…。」


 ダメだ。聞いちゃいねぇ。


 その時目の前の茂みから音がした。

 かなりの音の大きさだったのでびっくりしてインドラの袖から手を離してしまった。


「にゃー。」


「…。は?」


 目の前の茂みから出てきたのは「にゃー。」と鳴くケルベロス。


「おい、これは…。」


 このモンスターについて聞こうとして辺りを見渡した時、俺の周りから2人が居なくなっている。


 未知のモンスターに武器無しで一対五の状況。

 この状況って不味くないか?


「シャー!!」


 威嚇と共にケルベロスらしきモンスターが襲いかかってきた。


 俺は反射的に地面に落ちていた木の枝を拾い上げ構える。









 皆は雑魚という言葉を調べたことはあるだろうか。

 雑魚とは商品価値の低い魚、特に小魚の総称。

 または転じて大した人物ではない人をこのように呼ぶ。


 そう。さっきから木の枝を振り回してるのにケルベロスに1回も攻撃が当たってないコイツのような人を雑魚と言うのではないか。


 ケルベロスが突っ込んできたところに合わせて木の枝を振るも華麗に躱され、しっかりとカウンターを貰っている。


 カウンターを貰う度にHPの数字がこれでもかという勢いで減っていく。


 (そろそろ戦闘から離脱したいところなんだが…)


 既に優樹の周りには10を超えるケルベロス達に囲まれていた。


(何で増えてんだよ。いくらなんでもこの量は捌き切れない。あの二人はどこ行ったんだよ…。)


 そのまま優樹の攻撃は当たらずケルベロスの攻撃を受け続け、残りHPが3割。2割。


(終わった。)


  1割。


 ちょうど1割に差し掛かったタイミングで優樹の記憶がアキレス腱が切れた時のようにプツンと言った。










「うっ。 あれ…生きてる。」


「あ、起きた。ユウキ。大丈夫?怪我は無い?」


 目を覚ました途端夢かと思った。

 ヒカリが優しい。そして頭が柔らかい感触で包まれている。


 そう。これはよくある展開のうちの一つ。『膝枕。』

 ラノベやアニメが好きな俺にこの展開を把握出来ないわけが無い。


 ヒカリにペタペタと身体を触られているが夢にしては感触がリアルだな。


(現実か。)


 何となくこのまま夢で幸せハッピーエンドだと思っていたが現実に引き戻されたことでなんとも言えない虚無感が漂う。


「ねぇ、怪我は?大丈夫なの?」


 完全に聞かれていたことを忘れていた。


「あ、あぁ。そこまで大きい怪我はしてないかな。っつ、ちょっとだけ頭痛があるだけだろ。まぁ、大丈夫だろ。」


 俺はそう言い体を起こす。


「あれ?そういえばインドラは?」


「私はあんたよりは影が薄いの?」


 インドラは背後で胡座をかいていた。ガチで気配がしなかった。


 少ししょんぼりした後、インドラはハッとした。


「ねぇねぇ、ユウキ。ヒカリってね、ツンツン系だと思ってたんだけどね、実は凄くしんぱ・・・」


 ヒカリが急に騒ぎ出すのでインドラの話が遮られてしまった。


 いいや、後で詳しく聞こう。


「そ、そ、それにしても陽も落ちる頃だからそろそろ帰らないとだね。」


「そうしたいのは山々なんだが帰るところがないんだよな。」


 インドラに目で合図を出したらはっとしていたのですっかり忘れていたのだろう。


「そうね、宿を借りるにしてはお金がまだ足りないしね…。あ、なら私の家にくる?」


「ぶっちゃけそれが一番助かるが迷惑じゃないのか?」


 しかしヒカリは平気平気 と言って歩き始めた。









 ステータス


 浮島うきじま 優樹ゆうき Lv.1

 能力《アビリティ》 ??

 技能スキル 無し

 剣技 無し

 魔法 【初級】     【中級】

    ファイヤー     ゲイル

    ウォーター     ライジング

    アース

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