第6章-4
庭に出た蓮實淳は伸びをしたまま固まってしまった。さっき
「って、なにしてんの? まさかあなたまで取り
走り寄ってきたカンナは
「そっちこそなんだよ。どうしたんだ?」
「だって、大変だったのよ。なにしゃべっても反応薄いし、ほんと悪霊が憑いてるとしか思えないわ」
「で、どうかした? なんで変な格好のまま固まってたのよ」
「ああ、ちょっと変だったっていうかさ、ほら、接客してっとたまにあるだろ?
手を後ろに組みつつ、カンナは顔をあげた。風が出てきたようで庭木は葉をざわつかせている。
「まあ、そういうのわからないでもないけど、もうちょっと具体的に言ってよ」
「なんていうかな、――そう、
「そういう感じって、どういう感じよ。わからないわ」
「わからないか? えっと、そうだな、どこかしら嘘が
「いや、とりあえずこれは
「それで、あっちの方はどうなったのよ。悪霊の方は」
「ん、そっちは九割がた解決したよ。ただな、」
「ただ? ただ、なに?」
鼻に指をあてながら彼は歩き出した。カンナもついてまわり、たまに
「ね、いたんでしょ。やっぱりそうだったのね。あのお婆さんに取り憑いてたんでしょ。で、なんかした? 戦ったりしたの? お婆さんは緑色の
ほんと、うるさいな。歩きまわりつつ彼はどう決着させるべきか考えてる。――うーん、どうすりゃいいんだ?
「あのな、俺は考え中なの。そう横で、」
「なあ、カンナ」
「はい?」
「さっき、『エクソシスト特集』がどうのって言ってたよな? それ、ちゃんと見たのか?」
「うん、見たけど、それが?」
ふたたび鼻に指をあて、彼は目をつむった。この無駄にこんがらがった問題を解決するのにうってつけの方法を思いついたのだ。これなら暗い話ばかり聴かされてうんざりしてたのも吹っ切れるし、
「カンナ、なんか適当に
「踊る? なんの話よ、それ」
「ほら、ここに来るとき話してたろ?
「ああ――、でも、それは
首を引き、カンナは口をすぼめてる。――なにニヤニヤしてんのよ、私がこんなに怖がってるってのに。
「いや、実は冗談じゃないんだ。踊ってもらう必要がある」
「踊ってもらう必要? それって、どんな必要よ」
客間の方を見て、彼は小声になった。
「いいか? さっきも言ったけど、この問題は九割がた解決したんだ。あとはパッパッと
「うんうん、そうなのね」
「そうなんだ。俺の力をもってすれば、この程度の悪霊なんてすぐ祓える。ただ、ちょっとだけ
っていうか、キツくつかみ過ぎだって。固く
「で?」
「ん? ああ、あまり簡単に終わっちまうとつまらないだろ? なんだ、その、――うん、納得感ってのが薄くなっちまうんだよ」
「よくわからないわ。どういうこと?」
「だからさ、俺の力が強すぎて悪霊はあっという間にいなくなるんだ。でも、それじゃ祓われた方は納得できない可能性もある。
「ああ、なるほど。なんとなくわかってきた」
「だから、君は踊らなきゃならない。それに悪霊に取り憑かれる必要もある」
「はあ? なんで私が取り憑かれなきゃならないのよ」
「しっ、声がでかいよ」
彼もカンナの腕をつかんだ。二人はそうして――
「そこは
「うん、やってたけど。――ね、ってことはインチキなの?」
「いや、インチキじゃない。だって、悪霊はいなくなるんだ。これはそうだな、ほれ、猫頭の像と一緒だ。わかりやすい
そう言われるとカンナは
「どうだ? できそうか?」
「え? うん、必要なら」
顔は
「必要なんだよ。ってことで、練習だ。そうだな、『ふはははは! そうだ! 俺はこの家に憑く悪霊だ!』って言ってみ。太い声を出すんだぞ」
一瞬にしてカンナは冷めた。絡まりあったのを
「ほら、言えって。ま、『エクソシスト特集』を見てるのは君だからな。もっといい
もっといい台詞ってなによ。そう思いはしたものの、カンナは
「ふはははは! そうだ! 俺はこの家に憑く悪霊だ!」
「おっ、いいぞ。そういう感じだ。カンナ、そっち系の才能あるな」
そんな才能なんて要らない。っていうか、それってどんな才能?
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