死の土地 -3-



 千切れた雲間から、太陽が何も知らない顔で光を落とす。殺伐さつばつと眠りに就いている荒野が再び目覚める時。追悼師協会の情報によれば、冬の57日にまた開戦するという。


「出だしが良いと、後に引けないのかね」


 勝利の味に酔いしれて。



 この世界は、遥か昔は魔物と人とが分断されずに同じ土地で暮らしていた。王も主導者もいない、混濁した禍乱からんの時代だ。当然人は魔物にしいたげられていた。


 そんな時、魔物に反旗はんきを翻した英雄がいた。ライランという男だ。ライランは七人の友と、魔物を世界の半分に押し込めた。人々は魔物の脅威から解き放たれ、平穏を手にしたのだ。



 ライランは皇帝として人の国に即位し、国もまたライランと呼ばれた。七人の友は神より祝福されしエリビオをたまわり、国の発展と皇帝の守護に力を尽くし、賢者と呼ばれた。ライランの民は国をおこしたライランの子孫である皇帝と賢者を崇拝した。


 反対に魔物の国はダルワッドと呼ばれ、秩序は皆無、魔物が巣食う禁足地きんそくちとなった。


 前皇帝の生前は戦争もなく、ダルワッドからはみ出した魔物だけを討伐していた。今思えば、本当に平和な世の中だった。



 ――エルナ10前。


 前皇帝が薨去し、よわい十六の新皇帝が即位した。前皇帝は公には病死と伝えられている。けれど……チコリは思うのだ。


 人ならざるエリビオを宿した賢者。ライランにおいてエリビオは強大なものだ。その力は人知を超え、ダルワッドの魔物を遥かに凌駕すると言われていた。



 その七賢者ななけんじゃが、一晩で殲滅せんめつされた。


 後に新皇帝のツガより『謀反むほんを企んだ為』と掲示がされ、民は驚愕した。聡明で皇帝を守護する七賢者が謀反など。あり得ない話なのだ。だからチコリは、前皇帝の死も七賢者の死も、ツガの力が働いた気がして止まないのだった。


「せめて戦争が終わればいいのに。諫言かんげんする賢者もいないのでは難しいでしょうけど」


「追悼師さん。思っても言ってはいけないよ」


 村長は苦笑いで、荒むチコリをいさめる。



 起きてはいけなかった。痛ましい事件は民の間で、七賢者の災厄と呼ばれた。賢者がエリビオを譲渡する前に亡くなってしまったのだ。故に、神に祝福されたエリビオはもう、この世には存在しない。ライランの民の信仰対象も血に塗れた新皇帝のみとなってしまい、人々は誰を崇めるべきかも分からないまま、エルナは過ぎた。



 ツガはダルワッドを侵略せよと命じた。最初のエルナ1はライランが勝っていた。ダルワッドが王を迎えたのはエルナ9前、ほんの最近だ。それまで無秩序だったダルワッドも変わり、魔物は統制され、四方八方に散っていた力が集結されてライランは歯が立たなくなった。


 それでもライランは、ツガは戦争を続けた。

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