052 第二十話 激突!バロンとブルーノ 03


ケンツ視点



― ビシッ、ビキキッ!



「ぐっ……身体強化ブーストアップ2倍の反動か」



瞬間的に身体強化ブーストアップを2倍に上げたせいか、俺の身体が軽く悲鳴をあげた。


アリサの魔式身体強化ブーストアップと違い、俺の身体強化はたった2倍でも反動は出てしまう。


だがこれくらい技量が上がれば反動も減るだろう。



やはり【無限魔法貯蔵ソーサリーストック】【縮地法】【身体強化】の効果は凄いな。バロンとブルーノなんざ相手にもならんぜ。



「嗚呼、愉快愉快♪」



俺は無様に転がっているバロンとブルーノを見て愉悦に浸った。


もっとも、この技とスキルに頼らずとも、バロンとブルーノくらい普通に倒せただろうけどな。


それにしても真正ケンツ様の、初めて戦う相手がこいつらになるとは思わなかったぜ。


俺は無様に転がっているバロンとブルーノをチラリと見て、相変わらず愉悦に浸っていたが、



「せっかくだし、もう少しボコボコにしておこう。ブルーノには全然殴りたらねーし」



― ドカッ!バキッ!メキョッ!グシャッ!



まだまだ晴らし切れていない恨みを拳に乗せて、俺は嬉々としてバロンとブルーノにぶつけた!



「こんにゃろめ、よくも今まで散々ボコボコにしてくれたな!のし付けてお返ししてやるぜ!オラオラオラ!」



こいつらには散々イジメられてきたんだ。たった数発殴る蹴るしただけで誰が許すかい! 倍返し……いや、十倍返しだ!


すでに気を失っているバロンとブルーノに対して無慈悲な追い打ちをかける!



「うわぁ……ケンツさん、今まで散々イジメられたからってそこまでやります?」


「うるせー!俺はこの一年の間、何度もイジメ殺されそうになったんだ!俺の仇を俺が取って何の問題がある!うるあああああああ!」



―ガツッ!バゴッ!バキッ!メキョッ!



無慈悲な俺の様子にドン引きするアリサ。



「いくらなんでも過剰にやりすぎでしょ。小物感が半端ないです。そろそろ治療しとかないとヘタしたら死にますよ!」



そう言ってアリサは俺を制止させ、二人にヒールをかけた。


全快はさせないものの、バロンとブルーノの傷がいくらか癒えた。


ちぇ、余計なことするなよー。俺の恨みはまだまだこんなもんじゃ全然晴れないぜ!


仕方ねぇ、次からはアリサの見ていないところでコッソリやっつけよう。


でも、俺って本当にこいつらより強くなっていたんだなぁ……


…………


いや違うな。


今までは俺の心が死んでいたから芋びいて反撃できなかっただけか……


だがもう大丈夫、全盛期程ではないにしろ、ギルド内市民権が得られる程度には復活したぜ!


これならシャロンを守る事が出来る!


もう俺はゴミムシケンツじゃないぞ!


安心してくれシャロン!


て……そうだ、シャロン!シャロンは!?





「はああああぁぁぁ……ケンツがバロンさんとブルーノさんに完勝だなんて夢のよう……」



シャロンは両の拳を組んで、俺の勇姿に“ぽーっ”と見とれていた。


おお、シャロン!もっと俺に見とれてくれ!俺の勇姿を見てくれ!


思えばこの一年、コイツらを中心としたイジメのせいで、俺のイメージは常にボコボコにされている負け犬だったんだ。


いつも奴らにボロボロにされ、ギルドの隅で気を失って転がっていた俺。


そんな負け犬の俺を、シャロンは何度ヒールを掛けて助けてくれたことか。


そして助けて貰っておきながら、毎度目も合わせず黙って立ち去る……


シャロン、苦労かけてすまなかった。俺はもう大丈夫だからな!


それどころか、これからは俺がシャロンを守ってやるぜ!


だからもっと俺に見とれてくれ!シャロン!シャローン!



「はぁ……ケンツ……素敵……」



わはー♪



しかしそんなシャロンに対してアリサの辛辣な一言。



「聡明な方だと思っていたのに、あの呆けた見とれよう……あの、まさかとは思いますが、シャロンさんって実は残念な美人系ですか?」



ぶっ、


おいアリサ、おまえなんつーことを言うんだ。


そりゃ無慈悲にボコボコにするシーンを見てポーっとするなんて、ちょっと猟奇的で残念に思うかもしれないけどさ……


でも俺達の悲惨な過去も酌んでくれや。


マジでこいつらには酷い目に合わされたんだからな!



「うう……」

「くそ……」



あ、コイツらもう息を吹き返しやがった。よーし、またボコボコにぶん殴って……



「ケンツさん、きりが無いからこの辺にしてください!ほらあなた達もこれ以上痛い思いしたくなかったらさっさと消えて!でないと今度は私が相手になるわよ?」



― ボシュッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………



一瞬にして白銀の鎧姿に様変わりして、バロンとブルーノを威嚇するアリサ!



「「ひぃ!」」



その瞬間、バロンとブルーノは【自分達の腕が斬り落とされた時のこと】を思い出し、恐怖に身を竦ませる!



「ちくしょう!覚えてやがれケンツ!次は剣を交えてぶっ殺してやる!」

「今日は見逃すが、アリサには必ず娼館に行ってもらうからな!」



バロンとブルーノはアリサに追い払われ、捨て台詞を吐きながら転がるようにその場から去って行った。



「あの、ケンツ……助けに来てくれてありがとう。凄く嬉しかった……」


「なあに、これくらいどうってことないさ。俺はおまえの男なんだ。危ない時にはいつだって駆けつけてやるさ!」


「ケンツが私の男……嬉しい……ケンツ!ケンツ!ケンツー!」


「そしてシャロンは俺の女だ!シャロン!シャロン!シャローン!」



― バッ!ダキッ!



「またベタベタしだしたし……」



アリサに白い目で見られながらも、俺達はまたもやガッシリと抱きしめ合った。





10分後……



「あの、お楽しみ中申し訳ないのですが……シャロンさん、たしかバークさん達と待ち合わせしていたのでは?」


アリサに指摘され、シャロンの顔色がさっと変わる。



「いけない、行かなくっちゃ!」


「あうっ、もう?……仕方ねぇ、途中まで送るぜ」



身体から離れるシャロンに未練たらたらな俺。はぁ、寂しいぜ……


俺達はシャロンを待ち合わせの店前まで見送った後、アリサと一緒に今日泊まるホテル(部屋は別)に向かった。





「でへへ……」



シャロンと抱きしめ合った余韻に浸りながら、俺はてくてくと歩く。


よし、今日は風呂とシャワーはやめておこう、そうしよう。



「ほんの数時間で、シャロンさんと大きく距離が縮みましたね」


「まあな、でへ……でへへへへへ……」


「ケンツさん、顔が大変キモイです。それにヨダレ出てますよ」


「あう……ジュルリ。はぁ、だがこれからが大変だな」



バークとの再戦。自分で決めたとはいえ、高すぎるハードルだぜ。



「でも本当にバークさんに勝つつもりなんですか? 無限魔法貯蔵ソーサリーストックは大会では禁じ手なんでしょう?」


「ああ、あれは大会では使えない。レギュレーション違反になるからな」


「じゃあどうやって……やはり身体強化ですか?さっきケンツさんが身体強化を使ったのには驚きましたが、あの倍数ではバークさんには多分届きませんよ。それにバークさんも自身に何らかのバフを使う可能性も……」



わかっている。1.5倍や2倍なんてチャチな身体強化じゃ勝ち目なんざねぇ。バークとタメを張るならもっと何倍も掛けないと。


だがアリサが言うには、一般的に身体強化術は4倍が限度らしい。


それ以上は身体に負荷がかかり過ぎて肉体が崩壊するそうだ。


いや、限界の4倍ですら負荷は相当なもので、それに耐えられる肉体を練り上げるのも大変なんだ。


俺は無限魔法貯蔵ソーサリーストックにあったアリサの魔式身体強化で4倍まで強化したそうだが、魅了が解け我に戻った瞬間、全身に激痛が走り活動不能になっちまった。


シラフであの激痛に耐えるのは難しいだろうな。



そして……


恐らくバーク自身もなんらかの身体強化を使ってくるのは間違いない。


忌々しいが、俺が4倍の身体強化を入れても本気のバークには届かねぇかもしれねぇ。


それにバークには何かモヤモヤと引っかかるものがある……




「ケンツさん?」



アリサが心配そうに顔を覗きこむ。



「んん?そう心配するな、なんとかなるって」


「別に心配はしてないけど……」


「あーあ、バークの野郎あいつ病気でもかかって弱らねえかなぁ……」


「なんて後ろ向きネガティブな姿勢……こんなので本当に勝てるのかしら?」



俺は頭の中でバークと模擬戦しながら、現時点ではどうやってもヤツに勝てない事を認識しつつ、今日の宿ホテルに着いたのだった。




*




Side バロン&ブルーノ



「ちくしょう、ケンツの野郎……」

「いつの間にあんなに強くなったんだ?」


「いや、あれはケンツの力じゃないな。きっとアリサって女が何かやったんだ」

「ケンツが変わったのはアリサと組んでからだしな。バークみたいなバフの使い手かもしれん」


「だったら、アリサを奪って仲間にしちまえば……」

「俺達も強くなれるってか!?」


「でもどうやって奪う?」

「そこが問題だな、ケンツがあの強さだったんだ。アリサも噂通りゴリラ並かもしれん」



そんな想像をしつつ、治り切っていない傷をさすりながらトボトボと二人して大通りを歩いていると……



「よう、兄弟。こんなところで何をしょぼくれた面をして歩いてんだい?」



突然野太い声をかけられ顔を上げれば、女を両脇に侍らした豪気な男の姿が。


それが誰だか認識した瞬間、バロンとブルーノはビシッと直立不動の姿勢を取った。



「「ユキマサのアニキ!」」


「おうっ!」



バロンとブルーノの前には、召喚勇者ユキマサの姿があった。





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【お知らせ】


2021.11.13

【042 第十六話 ラミアの祠と亜人レイミア 03】

上記エピソードにて、脱文がありましたので小加筆致しました。


加筆内容

【ミヤビの村】と【現人神ミヤビ】のくだり。

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