051 第二十話 激突!バロンとブルーノ 02


ケンツ視点



身体強化ブーストアップ1.5倍! はあああああああああ!!!」



― ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



身体に熱が入り、ミチミチと力が漲り充実していく!



「な、なんだぁ、そりゃあああ!?」



明らかに気配が変わった俺に対し、バロンが過敏に反応した。



「ちぃ、この変態野郎め!ぶっ殺してやる!」



― ブオッ!ブオッ!ブンッ!



ジャブッ!ジャブッ!ストレート!


先手必勝とばかりに拳を繰り出すバロンだが、俺には全くかすりもしない。


バロンの繰り出す拳は決して遅くない。


むしろ拳闘士並に速くパワーもある。



「ち、ちくしょう。なんで当たらねえんだ!」



しかしバロンの拳は俺を捉えられない!


身体強化で動体視力も向上している俺には、あくびが出そうなほど遅く感じるぜ。


なるほど、これが身体強化か。ヒドラと戦っている時は気が付かなかったぜ!


俺はバロンの繰り出すパンチを難なく躱し続ける。



「くそっ!このやろっ!」


「ふふん、遅い、遅いこぶしだぜ。そんなハエが止まりそうな拳など、俺に通用するものか!」


「な、なんだと!!!」



顔を真赤にしてピッチを上げるバロン!


しかし、バロンはただの一度も俺に当てる事はできなかった。


やがてバロンは疲れたのか拳を繰り出すのをやめた。


ふひひひ、バロンよ、パンチの空振りは殴られるより遥かにスタミナを消費するんだぜ。


テメーもうヘロヘロのヨロヨロじゃねーか。ぷぷぷっ。



「ぜぇ……ぜぇ……」



完全に息が上がるバロン。大きく肩で息をしている。



「はぁはぁ、バ、バカめ……素直に殴られておけばいいものを。俺を本気にさせやがって!」



バロンは、全身バチバチと放電させながら両の手を広げて突き出した!



「おいケンツ、俺の雷撃魔法を受け止める自信はあるか!ねえよなぁ、テメーはインチキ野郎の臆病者だからなぁ!

だが残念だったな、俺のギガボルトからは絶対に逃げられんぞ!」



バロンが挑発する!


たしかに雷撃魔法の命中率は非常に高い。


しかし全く避けられないかと言えばそれは否!


それに1.5倍に身体強化した俺ならば、避けるくらいは出来るはずだ!いや、余裕で対処出来る!


というか、そもそも身体強化などかけなくても俺の方が確実に強い!


身体強化を知る前にアリサから俺の方が強いと指摘されていたが、今日奴らの動きを見てそれは正しいと確信した。


身体強化せずとも、力もスピードも俺の方が勝っているぜ!



― バチッ!バチバチバチ!



お、バロンの周りの放電がさらに激しくなりやがった。


あー、なるほど、そういうことか。


こいつ強烈な一撃を放つために、魔力を溜める時間稼ぎしてんだな。


そしてあわよくば、俺が挑発に乗って来るのを期待してるわけだ。


だが残念だったな。俺には全てお見通しだぜ!



「ぐふふふ、どうしたケンツ、ビビったか!このチキン野郎!」



ふふん、バカめ、そんな安っぽい挑発に乗って雷撃魔法をまともに食らいに行くわけ……行くわけ……いや、食らってやるぜ、バロン!



「撃ってみろや、オラー!」



―どんっ!



俺はどんと胸を張り、全身を大の字に広げバロンの雷撃魔法に備えた!



「ケンツ、何やってるの!逃げてーーーー!!!!」



シャロンの絹を引き裂くかのような悲鳴!


うぉおおおおおおおおおおお!


シャロンが必死で俺の心配をしてくれているぜ!


俺は幸せ者だぁああああああ!!!!


シャロン、心配するな!今からケンツ様の凄いところを見せてやるからな!



「よっしゃ、こいいいいいいいいいい!!!!」


「ふはははは、まさか本当に受け止めるつもりかよ!ケンツ、テメーは大馬鹿野郎の愚か者だ!ド底辺ドクズのゴミムシだ! 食らえ、必殺のギガボルト中級雷撃!」



― カッ……バチバチバチ、ガラガラガラ!!!!



バロンの手の平から放たれるいかずち


轟音が決して広くない裏路地に響き、眩しい閃光が走る!


だが――



「ふ、無駄だ……ふんっ!」



俺はチョイとばかし大物ぶった感じの態度で胸を張った。



― ガラガラガラ!…………ぽん♪



バロンの放ったギガボルト中級雷撃は、俺に直撃する瞬間に無限魔法貯蔵ソーサリーストックに吸収されてしまった。


よしよし、また雷撃魔法をゲットだぜ。


しっかしバロンのギガボルト中級雷撃だが、アリサのギガボルト中級雷撃に比べると随分威力が弱いな。本当に同じ魔法か?


今までの魔力の溜めは何だったんだ?



一方、目を丸くして固まるバロン。



「げ、今なにが起きたんだ!?」


「さあな♪」



雷撃魔法は、本来どんな相手にもダメージを負わすことが出来るハズなのだ。


無抵抗の人間が直撃食らって無事でいられるはずがない!


バロンは自慢のギガボルト中級雷撃が通用しない事に驚いた。



「えーい、だったら連射だ!ギガボルト!ギガボルト!ギガボルト!ギガボルト!

ギガボルトォオオオオオオ!」



バロンはヤケになったのか、今度は数で押し切ろうとしてきた!


が、しかし、



― ガラガラ!…………ぽん♪

― ガラガラ!…………ぽん♪

― ガラガラ!…………ぽん♪

― ガラガラ!…………ぽん♪

― ガラガラ!…………ぽん♪



バロンが放ったギガボルトは、全て俺に吸収されてしまった。


ふはははははは、無駄無駄無駄ぁ!



「ぜぇ……ぜぇ……こ、こんなバカな!?」


「無駄だ。貴様自慢の雷撃魔法は俺には通用せん。さあ覚悟はいいか?」



スタミナを失い、魔力も尽きかけヘロヘロのバロン。


そのバロンに対して、まるで小説のチート主人公のように上から目線で見下す俺。


いやー、実に気分がいいぜ。


ん?


なに?


借り物の力は使わないんじゃなかったのかって?


いーんだよ、これくらい。


バロンの雷撃ラッシュ程度、無限魔法貯蔵ソーサリーストックを使わなくても対処できたしな。


それにシャロンにカッコイイとこ見せたかったんだよ!



「くそ、この奇術師め!」


「ふっ……縮地法!」



バロンはすぐさま腰の剣に手を伸ばし掛けたが、その前に俺が縮地法でヤツの間合に入り込む!



「なっ!?」



一瞬にして間合に入り込まれた事に目を丸くして顔を引き攣らせるバロン!


そのバロンに対して、俺は大きく振りかぶり殴りかける!



「今度は俺の番だ!積年の恨みを込めて、最大の屈辱を味合わせてやる!

食らえ、必殺ケンツパーンチ!!」


「ぐっ!」



抜剣が間に合わず、咄嗟に両腕で顔面をクロスガードするバロン!


だが無駄だぁ!



― ドスゥ!



その顔をガードするバロンに対して、1.5倍に強化された俺のキック・・・鳩尾みぞおちに深々と突き刺さった!?



「ぐふぅ!?……て、てめえ卑怯だぞ……パンチと言いつつ……キックじゃねーか……」


「ああ、卑怯で結構、コケコッコウ♪俺はテメーが痛みと悔しさに悶絶する顔が見れりゃ何でもいいんだよ!」



言ったろ?テメーにゃ最大の屈辱を味合わせてやるってな。で、ゴミムシと蔑んだ俺様からの“知的な一撃・・・・・”を食らった感想はどうよ?



「ぐ、この……このや…ろ……ケンツのクセに……この俺がド底辺ゴミムシのケンツ如きにぃ!!!」



んーんー、実にナイスな感想だ。実に心地よいぜ。



「うっ!?…………オボァアアア!ゲロゲロゲロォオオオオオオオ!」



突如バロンはさらに苦しみだし、ビチャビチャと嘔吐しだした。



今のキックは、駆け出しの頃にシャロンから教えてもらった後からじんわりと効いてくる波蹴りウェブキックだ。


しかも威力1.5倍の強化版。さぞかし苦しいだろうぜ♪





「なんて卑怯な…………」



ボソリとアリサの声が聞こえ、振り返ると……


ん?なんだアリサ、その目は?


これも戦術の一環なんだぜ。頭脳戦ってやつさ。


だから目を細めて嫌そうに【汚物を見るような眼差し】を俺に向けるのはやめなさい!


ここはアドレア連邦リットール、おまえの故郷スラヴ王国とは常識が違うんだよ!


俺は抗議の眼差しを返しをしてから、視線をバロンに戻した。



「バロン、まだまだこれからだぜ!ケンツキック!ケンツパンチ!ケンツラリアット!」


「ひっ!」



―ベシッ!ドコッ!グシャッ!



「えびゃう!たわばっ!ひでぶっ!あぎゃらあああああああああああ!!!!!!」



パワー・スピードともに1.5倍に向上した攻撃ラッシュに、バロンは全く反応できずに全弾被弾!



「オラオラオラオラオラー!トドメの一撃、身体強化ブーストアップ2倍!

でりゃああああああああああああ!!!」



― ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオン!



渾身のジェットアッパーカットに顎を捉えられ、バロンの身体は華麗に空を舞う!



「ぐではぁあああああああああああああああああああああ!!!」



― グシャッ! ドサリ……



顔面から落下するバロン!


この一年、俺をイジメて苦しめ続けたバロン。そのバロンがついに地べたに崩れ落ちた!


ざまーみやがれ!!



「よっしゃあああああああああああああああああ!!!!!」



― バシッ!



地べたに転がるバロンとブルーノを見て、俺は中指を立てて大きくガッツポーズ!ファックポーズ!


そして今この時を持って、冒険者ギルド内における忌々しい【負のスパイラル】から解放されたことを確信したのだった!



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