第19話






「お前か?子供を攫ったのは?スノーはどこにいる!」

剣を構える


前に立っている男は

目を丸くしたあとニッコリと微笑んだ

何なんだこいつ

異様な雰囲気だ

読めない…


人間に擬態か取り憑いているのかまでは判別できないが

俺は警戒をする

目で周囲を見るが

スノーたちの姿はなかった


「今すぐ攫った人間を解放しろ。さもないと貴様を斬る」

剣に魔力を込める

青白く光を放った


さっきを込めて見たが奴は一切動じない

それほど余裕があるのか

なによりも人質の解放を優先しないと

ひっついているカインに小声で言う


「俺が囮になる。その隙にスノー達を見つけて脱出してくれ。…聞いているのか?」

肘で軽く小突くが反応がない

完全に固まっている

なぜだ?もしかして強敵なのか


「あ………」

「あ?」

復唱した


プルプルと震えている

これは、恐怖で震えているのか

そう判断した時

カインは呟いた



「……………アベル」



アベル?最近どこかで聞いたような…

意識が逸れていたら

真横に男がいた

「なっ」

急いで離れる

まずい固まったカインをそのままにしてしまった

男は高身長で淡い金髪のようだ

丸い青い目でカインを見下ろす

「………」

ジーと見つめる

この男、この服装は…神父?


よく見たら黒いキャソックという聖職者の服を着ている

いや悪魔が聖職者に扮装することは稀に聞く

油断はできない


ジー


「あ、あわわわ。あわわ……」

口元に手を当てて震えている

助けたほうがいいのか?

段々と顔が近づいていく

鼻先がふれそうなほど

まるで無垢な少年のような珍しい物を見つけ見つめているような顔だった

暗がりでよく見えないが

垂れ目で柔和そうでイケメンの部類だった

俺よりでかいだと…




男が口を開いた


「……カイ、ン?」

「ひぃ」

「やっぱり!カイン兄様だ!」

もぎゅっと小さいカインを抱きしめた

兄様?


「ふぎゃっ!?し、死ぬっ!」

ギシギシと音を出して大きな体に抱きしめられている

何なんだこれは?

斜め後ろにいるリデレと一緒に困惑する


「会いたかった!会いたかったよ兄様!!」

涙を流して抱擁、出し潰している

身体が空中に浮いてしまって足がついていない


「や!やめろ!アベルやめるんだ!し、死ぬ!」

「照れないでよカイン兄様!何十年ぶりだろう!嬉しいなぁ!これもいと貴き主のお導きがあってこそだよね!あれそういえば何で子供の姿なの?もちろん愛くるしくて可愛いよ!懐かしいね!大好きさ兄様!チュ!」


ペラペラと喋りながら捲し立て

合間にキスをしている


「い、いい加減にしろ愚弟が!」

身体を小さな蝙蝠にして脱出し

俺の後ろに現れ隠れる

やめてくれないか


「もう相変わらず照れ屋さんだね。あれ?君たちは?」

丸い大きな青い目が俺たちをみる

なぜか背筋に悪寒がした


「俺は、ヴァルツと言います」

「俺は、リデレ、です」

名乗ると嬉しそうに笑顔になり

まとめて抱きしめてきた


「おおっ!」

「わぁ!」

「ぎゃは!」


三者三様に反応する

最後のは勿論カインだ


「君だね!兄様を見つけてくれて仲良くしてくれてたのは!嬉しいな!僕はアベル!アベル・クリストファー!よろしくね!チュー…」

解放されて今度は握手をした

左手は俺で右手はリデレ

キスは回避した

リデレはかわせなくキスを受け入れるしかなかった


「フフフ嬉しいなぁ兄様と再会できて、お友達ができるなんて幸福だよ。我が主よ貴方様のお導きとご慈悲に心から感謝します」


跪いて祈りをし始めた



「おい!!いつまでやってんだよ!!」

キレた声が聞こえた

スイウンのことを忘れていた


「あっ!ヒ、じゃなかったスイウン君だね!久しぶりだ!」


「今はやめてくれよアベル!お前の抱擁はいらねぇ!てか、それどころじゃねぇ!」


村人を殺さないように体術で応戦しているようだ

「あはは!大変そうだねぇ」

「他人事みてーにいってんな!はよ誰か手伝えよ」


困ったように眉を下げたアベル

「ごめんなさいスイウン君。僕はお仕事できてるからお手伝いはできないんだ。辛いけど、また後でね」


「くっちゃべる、暇が、あんなら手伝えや!」


「あはは!器用だねぇ」

「クソッ!話が通じねー!」

スイウンが初めて可哀想に見えた

天然なのかアベルはニコニコと笑っている


「てことはあなたは悪魔ではないのか。では本物はどこに…そして仕事って…」

疑問だらけだった

スノーたちはどこにいるんだ


「ごめんなさい僕は悪魔じゃないんです。あと仕事は….」

腰にぶら下げてあったブックホルダーから分厚い黒い本を取り出した

それはきっと聖書だ



「神父といったら、悪魔祓いでしょ?」

朗らかに笑った





≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫





「我輩が小猿を手伝ってやろう」

そう言って明らかにアベルから逃げた



「カイン兄様!後でゆっくり話しましょうね!大好きだよ!」

カインが何もないところで転んだ


「さて、僕はお仕事に戻りますね」

お辞儀をして離れていった

「待ってくれ。アベルさんも悪魔を追っているなら居場所を知らないか?仲間が捕まっているかもしれないんだ」

慌てて引き止める


「アベルでいいよ。僕もよかったらヴァルツって呼んでもいいかな?」

頬を染めて人差し指同士で捏ねている

なんだか大きな少年と話しているようで気恥ずかしくなる


「好きにしてもらっていいです。それで居場所は…」


「じゃあヴァルツって呼ぶね!嬉しいなぁ親友ができるなんて!敬語もいらないよ!フフフ、あの交換ノート?っていうのやってみたいんだぁ。団のみんなはなんだかんだ言って断られちゃってさ。主様しか交換してくれないんだ」

青い瞳を潤ませながら話す

純粋なんだなこの人

流石に俺も交換ノートはちょっと…

あとさりげなく友達から親友にアップグレードしてる


「そ、それより仕事しないか?俺も目的は一緒だし共にやろう!」

「本当に!!う、嬉しいよ!ううっ、僕は君のことが大好きになったよ。大好きヴァルツ」

ぎゅっと抱きしめられて頬擦りされる

うぅ、なるほど、悪意がない分たちが悪い……

俺よりでかい男に大好きと言われ抱きしめられる日が来るなんて

スノーとチェンジお願いします


「し、仕事しないと!!」

「あ!そうだね!主様を困らせちゃうところだったよ。ヴァルツは偉いですね!立派な騎士様だよ。かっこいいね!」

「…うん。ありがとう。もういいから悪魔倒そう」

「そうだね!」

満面の笑みである

既に疲れた


ふんふんとリズムを歌って歩くアベル

「どこに向かっているんだ?」

「ん?ここだよ」

指差した先は祭壇台だ

俺は困惑する

「何を言って」

「よいしょ」

ドゴンッ!

「…」

「さぁ行こうか!」

アベルが蹴り壊した台の下に隠し通路があった

俺は後を追う


「危ないから足元を気をつけてね。手を繋ごうか?」

「いや大丈夫だ」

「そっかぁ残念。光よ」

小さな光の球が現れ道を照らす

いちいちペースを乱されるが

悪人でもないしちゃんと案内してくれるので信じよう


「ねぇ知ってるヴァルツ?南の森には動くカボチャがいてそれがとっても美味しいんだって。主様に食べてほしくて行ったんだけど魔物しか現れなくて残念だったよ」

道中一人でペラペラと話す

俺は警戒しつつ頷く


通路は薄暗く下に降りるほど瘴気が濃くなった


「光の加護よ」

俺たちの体が光に包まれる

瞬時に保護魔法をかけてくれたようだ

「リデレ、俺たちから離れるなよ」

「…うん」

緊張した面立ちで着いてくるリデレ

きっと弟が心配なのだろう

恐怖で震えながらも足を止めないのは勇敢な証拠だ



「…扉がある」

鉄扉がある

罠はなさそうだ

アベルたちと顔を見合わせ

扉を開ける


一瞬何か空気が変わった気がした


「ッ!」

凄まじい魔の気配がする

この地下室には穢れが溢れている

常人では発狂して死ぬだろう濃度だ

血と、なんだこのすえた匂い…

鼻と口を手で覆う

暗い赤に近いピンクの炎が部屋をわずかに照らしている


「何なんだこの部屋」

振り返る

「….?」

後ろに二人はいなかった

いつのまに!既に術中なのか?

精神にはプロテクトをかけているが

いつ異変が起きたのかわからなかった

この部屋に侵入する手前まではいたはずだ

悪魔は人間を惑わし唆す

欲については人間よりも狡猾で恐ろしい

この部屋の瘴気で魔術がうまく起動しない

さらに上位の術を使うしかないな


「悪しきを祓え!清浄なる光よ!」


剣を地面に突き刺す

すると地面から光が溢れ周囲を浄化する

長くは持たないな

早めにスノーたちを助け出して脱出しないと


部屋の中を進む

朽ち果てた椅子や何に使うのか道具が転がっている

昔学術書で見た拷問器具と似ていて

嫌な気持ちになる

はやく、どこにいるんだ

妖しい光と気配が充満する部屋を進むと

何かが見えた


「あれは…」

ビチャ……


足元から水音がした

確認すると足元には血溜まりがあった

嫌な思考がよぎるが振り払う

今助けに行くからな!


浄化の光の範囲を広げるため放ったが掻き消えた

なんだ?

何かに弾かれたようだ

近づいて目を凝らす


近づくほど血の匂いと僅かに肉片まで見える

何が起きていたんだ……


地面に薄暗く発光する魔法陣が見えた

これは、悪魔召喚の陣か

この村の村人の魂を贄に

悪魔を召喚しようとしたのか?

なんて酷いことを…



視界の端に動くものが見えた

あれは……

ッ!?

スノー!!


暗くてもわかる白い髪が床に垂れている

顔は乱れた長い髪が覆っていて見えない

「スノー!」

陣の中を進む

やはりスノーだ!

髪を退けると綺麗な顔がある

寝てしまっているのか?

頭を支え抱き起こす

体は何かに濡れていて服は破かれており

酷い有様だった

「クッ…浄化せよ!」

スノーの体が緑の光に包まれ

体についた汚れが消える

服はダメそうだから鎧を外し上着を着せる

白い肌が露出しギリギリ下半身が見えない程度まで服が裂かれていた

遅くなってごめん、ごめん、ごめんな…

抱きしめる

いつも俺は肝心な時に君を助けられない…


「………ん」

「!スノー!目覚めたんだな!」

肩を支え向かい合う

薄く目を開けたスノーはぼうとし

とろんとした目で俺を見つめる

どうしたんだまだ覚醒はできていないのかもしれない

はやく安全なところに連れて行かないと

その前に

「なぁスノー。あのオプタという子供を見なかったか?色々あってらそいつの兄貴とスイウン達で助けにきたんだが子供はまだで、スノー?…」

俺の言葉を聞いているのかいないのか

寝起きのような状態でぼんやりと俺を見つめる

「…………ヴァルツ?」

「ああ!俺だよスノー」

顔にかかった髪を指で退ける

「…ヴァルツ、ヴァルツヴァルツ…ヴァルツだ!」

「うわ!」

スノーが突然無邪気に俺の首に腕を回し抱きついてきた

どうしんだ!?

俺の腰の上に跨ったスノーが妖艶な笑みを浮かべ

見下ろしていた

ゴクンッ

生唾を飲み込む音が聞こえる

それは俺が発した音だった


「あ、危ないだろスノー。君はまだ弱っているみたいだしはやくここから脱出しないと、ほ、他にも仲間が増えて一緒に助けに来たんだ。早く合流しないとな!あ、ふ、服がずれ落ちそうだ風邪をひいてしまう」

動揺しながら頼りなく肩にかかった俺の上着を直そうと手を伸ばすと掴まれる

「スノー?…」

俺は自分の早い動悸が伝わらないことを祈る

俺をじっと見て笑みを浮かべていたスノーは俺の腕から滑らすように指を這わせ

手を握る

「す、スノー?」

声がうわずる

それをきいたからかわからないが笑みをさらに浮かべ

小さく濡れた舌で

俺の指を舐め始めた

「すぅ、スッ、スノー!?」

俺は固まる

ピチャピチャとわざとらしく音を出し

俺の目を見つめながら舌で愛撫する

柔らかくて熱いしたが俺の指や掌、甲を往復するたびに下腹が熱くなり呼吸も忘れるほどの刺激的な絵だった

チュッと指を咥えて吸うようにして離れる

空気にさらされ冷える指先

「……な、なにして」

情けなくもまともに声も出なかった

ニヤリと笑うと

猫のように近づく

「ちょ…だ、ダメだって、スノー…」

自分からも熱い息と掠れる声が出る

長くて冷たいスノー髪が俺の胸や首筋に垂れて触れるたびに甘い刺激が生まれる

「はぁ………だ、ダメだよ。スノー」

説得力のない言葉だ


チュッ…ペロ…‥はむっ

「うぁ……あぅ」

俺の鎖骨にキスし登るように舌を這わせ首筋を辿り

俺の耳を甘噛みし唇で挟む

「あっ…ダメだ、スノー」

虚しく抵抗する

ダメだとわかっているのに手は動かないどころか

スノーの腰に手を添えている

静かな地下室には濡れた音と掠れる声が響く

「……ヴァルツ」

「……スノー」

少し離れたスノーが俺を見つめる

その目はトロンとしながらも欲に濡れていて俺を求めてた

片手は俺の太ももに置かれ撫でるように動き

もう一つは服に侵入し腹を撫で胸を揉む

俺は自分の中で熱く暴れる欲を必死に抑えていたのに

その目を見て箍が外れた

「スノー!」

スノーを押し返し俺の胡座の上に座るスノー

腰を支え後頭部に手を添え柔らかい髪と小さな頭を

押さえる

視線が絡みつく

距離は縮む

呼吸がぶつかる

距離はさらに縮む

互いの鼻先が触れる

唇の温度が伝わるほど近づいた……


「……ン」

甘い震える音がした


「はぁはぁはぁ…」


「…………ヴァルツ?」

「……はぁ、…ごめん。ごめんなスノー」

俺は唇を噛んで欲を抑え

両手でスノーの肩を押し返した


「……」

「本当に、ごめん。でも俺、こんな形でしたくないんだ」

荒い息と汗が流れ落ちる


「………」

「スノー。君が何より大切だから」

力なく笑う

それをとろんと見ていたスノーの目に

光が宿った


「……‥ヴァルツ?」

「…正気に戻ったか」

「正気?」

ハッとした様子で状況を確認した

頬を染めて汗を流し密着する二人

片方はほぼ裸で

俺は、あっ!?

同時に気づいてしまった

スノーが慌てて立ち上がろうしたので倒れそうになり

俺は腰を支えて、頭を守り

まるで押し倒したような姿勢になる

「ご、ごめんなさい」

「お、俺こそごめん、なさい」

俺たちは互いに赤面する

仕方ないだろ俺だって男だ

…好きな子に下半身の昂りがバレて泣きそうな気持ちと

変な気持ちになってしまった


「ふ、服」

「あ、うん….」

俺の上着をかけ直す


「…仕方ないようん。この部屋性欲を駆り立てる呪いがあるから…」

「そうなんだ….」

フォローだろうけど、そっとしておいて欲しかった





「……なに人の餌場で、乳捏ねあっているんだ貴様ら」


「「し、してない!!」」

互いに声のする方を見る

俺は急いでスノーを背に庇い

鎧を装着し武器を構える



そこには片腕を失いそこから血を流し

煙を出している人の形をした黒山羊頭の悪魔がいた


「お前が元凶か!子供はどこにいる?」

「……子供?これか?」

悪魔の横で倒れているオプタがいた

「クッ!降参しろ。そうすれば一瞬で祓ってやる」


「クククッ、勝手に入ってきて偉そうに。どうやって入ってきたかは知りませんが、私に勝てるとでも?」


黒い翼を出して赤い目で俺を睨む

こいつ、戦う気か

剣を構え魔力を流す

「勝つつもりで来たからな。多くの罪を重ねた貴様は俺が倒す!」


「やってみろ人間!」

奴の黒い長爪が武器となる

ガキィンッ

ガンッ!


互いの武器が交差する

「ハッ!」

「グァ!?」

爪を弾き飛ばし斜めに袈裟斬りする

血を噴出し膝を折る


「….淫魔か。戦闘は不得意なようだな」

「人間風情が…調子に乗るなよ!」

黒い煙を放ち修復される

「クハハ!この部屋は既に魔界化している!時期にこの村全体が魔界化する!さすればあの方が降臨なさる!」

「何を言って、お前まさか上位悪魔を呼ぶつもりなのか?そんなことをしても直ぐに討伐隊が来るぞ」

悪魔は神聖教会の敵で、大物ほど感知がはやくすぐに討伐隊が編成されてやってくる

「フンッ。下等な虫どもがいくら来ようともあの方の指先にも及ばない!」

「それは、つまり上位悪魔以上…貴族か将軍クラスか?」

「クハハ!あやつらよりも更に上に座す方だ!」

この魔法陣に溜め込まれた魂と魔力はそのための贄か

「何を呼ぶつもりなんだ!」

「きいて慄け!地に伏せ涙を流し命乞いしろ人間ども!我が王アスモデウス様のご降臨を見よ!」

地面が震え魔法陣が光る

黒い光が漏れる

これはまずい

「そやつめにあの様な力があるのは誤算だったが力は得られた….あの時殺されていたら危なかったな」


スノーを見ていった

「お、俺が何かしたのか?覚えていない…」

「フン。世界の輪から外れた化け物め。貴様の中身が目覚める前に地上は我が王のものとなる!」


両手を広げ召喚を始める悪魔

「させるか!」

「グフッ!…フハ、フハハハ!」

血を吹き出しながらも止まらない

既に狂っているのか

これは二人を連れて脱出した方がいいのか

判断に迷う



「さぁもうじきだ!楽園が創造される!」

ドゴンッ!!


「「「!?」」」


凄まじい音がして何かが飛んでくる

それは鉄の扉だったものだ



「ふぅ…あ!ヴァルツいた!よかったぁ!迷子で怖かったよね」


土煙の中から現れたのは

片腕でリデレを抱っこしていたアベルだった


「何者だ貴様。神の信徒か」


「よいしょっと」

リデレを降ろしたアベル

リデレは顔が真っ青だった

怖い出来事でもあったのかもしれない


「突然消えちゃったから驚いたよ。扉を開けるとウジャウジャと悪魔の手下がいたからついでに掃除したけど、とても心配だったよ。怪我ない?元気?」

素早く俺の前に来て抱きしめられる

悪魔を無視している


「だ、大丈夫!大丈夫だからな!」

背中を叩いて降参だと伝える

「よかったぁ!ちゅ」

「うひゃ」

頬にキスをされる

さっきはスノーと未遂だったのに

精神的ダメージが…



「えっと、そちらの方は….」

!?

まずい!スノーがロックオンされた!!

「君がスノーだね!!ずっと会いたかったんだ!噂通り可憐で美しいね!僕ドキドキしちゃうよ!あは、なんてね!僕はアベル・クリストファーって言います!よろしくね」

大きな手で握手をせがむ

スノーは驚きながらも握手をする

「うぅ…」

「う?」

ガバッ!

「させるか!!」

後ろから羽交い締めにする

「な、何をするんだい?これじゃあスノーとハグができないよ!?」

あわあわとしながら困惑するアベル

「ほ、ほらスノーは疲れているし服が破けているから風邪ひくかもだし。今はそっとしておこうね!」

しょんぼりとしたアベル

「そうなんだね…。怖かったよね?もう大丈夫だよ僕が守ってあげますからね」

優しくスノーの頬を指で撫でる

こ、こいつぅ

天然の皮を被った狼じゃないのか!?


「はは!ヴァルツは甘えん坊さんだなぁ!いいよ、いくらでもぎゅってしてあげるさ!僕は君が大好きなんだ!」

「うぐぅ!」

抱きしめ落とされそうだ

「ねぇ君も僕が好きだよね?ねぇ?好きって言ってよ?」

眉根を下げながら犬の様な顔をして強請られる

どんな状況だよ!

だけどこのままでは締め殺される

俺は宙に浮きながら全力で抵抗するが

びくともしなかった

「…す、すきだから!すきだからね!離して!」

スノー以外に言うなんて小癪だが背に腹はかえられない


「ほんと?ほんとに?嬉しい。嬉しいなぁ大好きだよヴァルツ。ちゅ」

「……」

既に精魂尽き果てる

もしやこの攻撃を喰らってリデレは青ざめていたのか?

悪いことをしてしまったな…

トラウマになってないと良いが


「いつまでふざけている!!」

部屋に殺気と瘴気が蔓延する

「うっ…」

「スノー!」

倒れそうになったスノーを抱き止める

疲れている体に堪えたらしい

失神している様だ

俺は抱き上げて結界を張る

見るとアベルは素早くリデレを結界で守ったようだ

よかった実力はあるらしい


「あの方が降臨なさる前に貴様らを料理してやる!」

悪魔がスノーを抱き上げている俺を攻撃してきた

!?


「ダメだよ」

悪魔の腕を掴んだアベル

「なら貴様からアッ!?」

ベキメキッ

激しい音を立てて腕が折られる

片腕でだ

「グッ、馬鹿力が!」

反対の腕の爪でアベルの顔面を狙う

素早い突き攻撃だ

「危ない!」

両手が防がれてて剣が持てない


メキャッ

「グァアッ!?」

「そんなことをしては危ないよ」

子供に言い聞かせるように話す

それがより不気味さを際立たせる

リデレの顔が青褪める

もしや、これで顔が青くなっていたのか?


「き、貴様ァ!」

「うるさいですよ。聞こえてますかね」

爪を砕き指を交差させて繋ぎ

そのまま力を込めて砕いたようだった

怪力なのか


「あなたがこの事態を起こしたんですか?」

優しく尋ねる

「それが、どうした?」

「この村の人は皆魂が食べられ歩く屍となったのも?」

「フフ、そうだ。私がやった!ざまぁみろ人間」

痛みに喘ぎながら唾を吐いて言葉を放つ

「それはなんて恐ろしいことを」

悲しそうな顔をしたアベル

その様は本当に敬虔なる信徒のようだ


「悔しいか?恐ろしいか?グハハハ!!」


「許しましょう」

「….ハッ?」

笑いが止まる

俺たちも固まった


「我が主は慈悲深きお方。きっと心から罪を悔いて懺悔なさり罪を濯げはいずれあなたの魂も救済されるでしょう」

後光が差すような笑みを浮かべた

その純粋さと高潔さが恐ろしいほどだ

量での拘束を解いた

なにを…


「馬鹿め!誰が神如きに従うか!幾らでも穢し犯し喰らってやろう!!」

瞬時に修復された手の爪で攻撃する


「…もう良いのです」

キラリと一雫

涙を流したアベル


「ブヘッ!?」

悪魔が地面に叩きつけられ

頭が潰れ血が床に広がる

…一撃で惨い


それでも煙を出して修復する

「もうそうやって自ら罪を負い傷つく必要はありません。僕が最後まであなたを救いましょう」

金具がついた大きな黒い本を振るう

あれが、武器なのか?


「ギャッ!?」

グチャ

「汝の罪を告解せよ」

「ギッ!!」

グチャ

「汝の罪を灌がん」

「グッ!?」

グゴッ

「汝の魂を救済せん」

「…!!」

ボゴッ…


祈りをさ下げるたびに地面に殴打するアベル

返り血が顔と服を濡らす

その光景にアベル以外誰も動けなかった

煙を立てて悪魔が修復される

哀れだった


「もう……やめ」

「残念ながらまだあなたの魂は穢れております。心苦しいですが、耐えてくださいね….」

辛そうな顔をして涙を流すアベル


それはきっと純粋な狂気だと俺は感じた

スノーに見せなくてよかった

離れたところにいるリデレが腰を抜かしていた

あっちも見せないようにすればよかったと後悔した



「……ふう」

「おい。いつまでやってんだよ!」

扉の方から声が聞こえた

疲れた様子のスイウンと肩に担がれたカインもいた


「相変わらずひでぇな」

「….あ、スイウンくん」

返り血で血まみれなアベルがスイウンたちに気付き

笑顔を向ける

ホラーだった


「外はどうなった?」

尋ねた

「お前らがおせーから仕方ねぇしこいつ使って全員気絶させた」

疲れたと言った

カインも目が虚で痩せ細っている


「……に、人間ども、がぁ」

魔法陣が光り魔力が集められる

「そいつ何かする気だ」

キョトンとした顔で見つめる


瞬時に修復され

人の形を捨て異形の姿となる悪魔

アベルよりも倍は大きい悪魔となった


「ゼンイン…コロス」

口から黒い煙を吐き出しながら憤る悪魔


ジーと口を半開きで見つめるアベル

「あぶない!!」

先ほどとは比べ物にならない速度と力で太い爪が迫る

そのままアベルの腹を突き刺して貫通した

「アベル!?」


口から血を吐いて項垂れるアベル

「貴様!」

スノーを離れたところに避難させ戦おうとした時

「やめとけヴァルツ。巻き込まれんぞー」

スイウンがだるそうに言う


「何を言って…」

メキッ

「なっ!?」

突き刺されたままのアベルが爪を掴み握りつぶした

そして刺さった爪を抜いて捨てる

「おい、アベル….」

俺は驚く

「ああ、また服をダメにしてしまったよ。ごめんなさい」

パンパンと服についた汚れを払うが全く変わらない

「け、怪我は?」

「え?あー大丈夫だよヴァルツ」

首を傾けながら笑っていった

「僕、不死だから」

俺は驚愕した

あ、あり得ないだろそれは

そんなの禁忌中の禁忌

人類が到達できない領域だ


まだ服をダメにしたのがショックなのかしょんぼりとしている


「おいアベル!やるなら早くやっちまってくれよ。術の維持も限界近い」


「そっかぁ。仕方ないか」

悪魔に振り返るアベル


「ごめんなさい悪魔さん。本当はちゃんと救済したいんだけど、主様が困っちゃうからさ」

残念そうな顔だ


「何を言っている!たかが爪を壊しくらいで」

修復した爪をかざす

「不死など人間ではあり得ない!死ね人間!」

何か魔術を使おうとする悪魔


「我が主よ」

あの黒い聖書を開き祈りを始める


「ゲッ!?あれ使うのかよ!早く終わらせろって言ったけどここでそれはねーだろ!」

スイウンが慌てる

手招きされ抱き上げたスノーと共に出口に近寄る


「慈悲深き貴方様に全てを捧げます」

悪魔の魔術の詠唱と重なる


「白き世界にて大いなる空をその美しき羽根で飛び立つ日を 私は日々祈っております」

清廉な祈りと違い

なぜかあの本からは禍々しい力を感じた


見るとスイウンがリデレの目を塞ぐ

「久しぶりに見んなー」

口元が引き攣っていた


「血肉を貪れ!!地獄の業火!」

悪魔の口先に魔法陣が浮かび上がり

そこから凄まじい熱量の炎が溢れ

アベルに迫っていた


その光に照らされながら

穏やかな顔で目を開ける


「我が祈りと共に 顕れよ」

地下室が一瞬で魔に染まる



「デーモンパレード」



本から発せられた光の影から

何体もの悪魔が召喚された

姿はよく見えない

「な!なんだこれは!!あり得ないあり得ない!」

召喚された悪魔に炎を喰われ震える色魔の悪魔


「今宵 彷徨える魂に 救いがあらんことを」

目の前でアベルの姿に隠された所で

悪魔は同族である悪魔に絶叫をあげながら蹂躙された



「ふう」

アベルの足元を境に、一面がペンキで塗ったように赤く染まっていた

既にアベルが召喚した悪魔は消えていた



「お待たせ!」

頬に血がついたまま振り返った笑顔に

誰も反応を返せなかった








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