第10話






「うふふっ、大丈夫かなー?生きてますー?うふふふ」



「「……………」」



ひどい有様だった

食事を終えた皿が何枚も重なり空き瓶とグラスがいくつも綺麗に並んでいる

まだ中身が減っていない瓶もある


「店員さーん!おかわりくださーい!あとこの木苺のハーブ酒とエール六本おねがいします!」




「も、………それぐらいでいいんじゃないかスノー。飲み過ぎはよくなっうぷっ」

ヴァルツは口を押さえ顔を下げ耐える


「スノーちゃん俺が悪かったから、それぐらいにしよ?頼むよ酒に殺されそうてか後が怖い。いや俺はもうおかわりはやめっ!うぷぷっ」

顔を青くして両手で待ったをかけるスイウン

すでに限界を超えている

軽はずみに飲み比べと全種類制覇を提案しあわよくば酔ったスノーかもう飲めないというスノーを見てみたいと思ったのが過ちだった




そうスノーはザルだった



頬は僅かに赤く目が潤んでいて結構が良くなったからか汗ばんな様子はとても目の保養だがあまりにもダメージが大きかった

男として見栄を張る二人はとっくの前に限界だったのだが

スノーにかっこいいところを見せたくて頑張った

その結果の有様だ




「いやーこのお店ほんと種類がたくさんあるね。飲み方やブレンドによっては千二百種類だって。飲めるかな~」




「「ひぃ」」


大のでかい男が震えている


スノーは気分が良さそうに笑って飲んでいる

すごく可愛らしい笑顔だが二人にとって今は何よりも恐ろしかった



「お待たせしましたー!追加の分置かせてもらいますね~。お客さんの見っぷりいいねー。これサービス」

テーブルの上に注文した品を置き皿を下げながら店員さんは言った

金色の蜂蜜酒と生ハムとチーズで硬めの桃を巻いたものだ


「あっ!ありがとうございます!とってもおいしいです」


「へへへっありがとよ!またなんかあったら呼んでくれな!」

がははと笑って他のテーブルに向かった店員


席に座った二人は無言だった



(あれから二時間ノンストップで飲み食いしている。これはどういうことなんだ?最初はよかったキラキラと表情を輝かせて嬉しそうにメニューを見て喜ぶスノーはとても可愛く素晴らしかった。だがなぜ止まることなく二時間も、決して嫌とかじゃ無いんだがもう騎士団での宴の際頼むような量だ飲み食いしたものはいったいどこにいったんだ腹も膨れてないし可愛らしいままだだがもう飲食物は見たくないうぷっ)


(なにぶつぶつ独り言言ってやがるんだお前、いいからスノーちゃん止めろよ一人で大食い選手権開催してんじゃねぇーか俺も預金なくなるじゃねーか!また使いすぎだって怒られたばっかなのにまた叱られるじゃねーかどうしてくれやがるんだコラ)


(知るか!そもそもお前が発破をかけたんだろうが!あの幸せそうなスノーを止めることなんて俺にはできないお前が止めろよ)


(うるせぇ!お前だってカッコつけたくて煽ったろうが!速攻ダウンしたくせにダッセーの!俺が止めれるわけないだろう俺が促したのにああ怒られるー!いやそれで済むのか?お仕置きなのか?俺の命がかかってんだお前が止めろよ早く!)


「意味わからないこと言ってないでお前が悪いんだから早く止めろよお前がもたつくせいでスノーが加速しただろ!」


「俺は悪くねぇ!可愛い子の可愛い姿はみてぇーだろお前だって鼻の下伸ばしてたくせに!ヘタレなんだからこん時ぐらい止めて見せやがれ!」


「関係ないだろバカにするな!」


「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんですかー」


「斬る」


「やってみろガキ」


瞬時に互いが睨み合い武器に手をかける

一触即発の雰囲気に店内が緊張感に包まれる




ドンッ!!!



テーブルからジョッキを叩きつける轟音が響く

その衝撃に店の一同が一瞬浮いた



「おまえらさぁ………うるせぇ」




「「「「「ごめんなさい」」」」」




一番うるさい音を出したのはスノーだったが目が据わった美人は迫力がすごく怖かった

二人は身を縮こませて席で震える


ゴクゴクゴクッ


スノーが酒を飲む音が店内に響く




スッ



ビクッ



スノーが静かに手を挙げた

一同の視線が集まる

まるで神へ告げる宣誓の言葉を告げるように



「お会計おねがいします」




その言葉でこの修羅場は静かに幕を下ろした






「あーおいしかったね。ちょっと飲みすぎちゃったかねーうふふ」

ご機嫌なスノーは借りた宿の部屋でベッドで大きく手足を伸ばしてはしゃいでいる


(ちょっと?)

疑問は残ったけど触れないことにした俺は賢明な男だ

俺は何とか吐き気を抑えスノーと一緒に部屋に戻った

スイウンは何かにビクビクと怯えながら外へ出て行ってしまった

自衛はできるだろう気にしないことにした


だがどうだろうか今の状況は

酔った?スノーと部屋で二人っきり

これは由緒正しきスエゼンと呼ばれるものじゃないか?

だが騎士道歩を志す俺はそんなふしだらで不埒で不誠実なことは決して断じてしない!

……だけどスノーがいいって俺を求めてくれているならそれは男としては恥をかせるわけにはいけない…

よな?


酒のせいだけではなく緊張と興奮で手汗をかく

ついに男になるのかヴァルツ!

初恋からの急展開大丈夫か俺!

何度か町で飲んだ時にも仲間の誘いでそういった店や女性にアプローチをされたが純潔を守ってきた

初めては愛した人と

なんて絶対知り合いには口が裂けても言えなかった

だがついに俺にも幸運がきたのか

ロイが隣でぺちゃくちゃと言ってた口説き方とテクニック話をちゃんと聞いとけばよかったくだらないと聞き流していた



「ス、スノー…俺は」

意を決して振り返るとスノーは丸くなって眠っていた

その姿を見て気が抜けて、残念なような安心したような気持になる

俺は寝ているスノーに近づいてみてみる

枕を抱きしめて丸くなっている

呼吸は落ち着いているし問題はなさそうだ

顔にかかっている髪を指に引っ掛け耳にかけてやる

長いまつげと白くわずかに光が当たると青くなる髪が綺麗だ

指の背で頬を撫で髪に触れ頭を撫でる

わずかに身動いたが僅かに笑みを浮かべて寝ている

ランプの中の蝋燭の明かりと窓から差し込む静かな夜の月光が二人を夜が覆う

その幸福感に俺は浸っていた










翌朝よく晴れていて朝日がまぶしかった

昨日の暴飲暴食の影響かだいぶしんどい

先に起きていてベッドを片付けて魔道具でお湯を沸かせ胃に二日酔いに効くハーブティーの頂いた

すっきりしていて甘い香りが優しく香り楽になった

小さなテーブルの前にはぼさぼさ頭で顔に馬蹄の跡がくっきりついているスイウンが同じようにお茶を飲んでいる

昨晩は結局馬小屋で寝てしまったらしい匂うぞこいつ

俺の視線を感じて舌打ちの後風呂に行ってくるといってスノーに礼をいって大浴場に向かっていった


スノーは昨日何もなかったかのように元気だった

髪を馬の尾のように結い上げて掃除をしてくれていた

嫁なのか?

一瞬幻想に取り込まれたが舞い戻る





「今日はいい天気だなー二日酔いは大丈夫そう?」


「まぁなんとか大丈夫かな。お茶のおかげで支障はない。今日はどうするんだ?」


「んー昨日は宿と酒場とギルド周辺しか見れなかったし市場とか雑貨とかに行きたいかな。ぬらではどんなものが流行っているか知りたいし、ヴァルツまだ調子が悪いなら俺だけで行ってくるけど?」


「俺も行くよ!荷物持ちがいるだろ?せっかく来たんだし俺も見てみたい」


「あっそう。なら支度をしていこう。スイさんはまだ時間かかるかな」


「風呂ぐらいゆっくり入りたいんだろう。俺たちだけ先に行こうぜ書置きしとけばいいさ」

これで二人っきりだゆっっっくり風呂に入っててくれ



そうして俺たちは簡単に荷物をまとめ外出した

村ではそれなりの人々が外にいて荷運びするものや追いかけっこをする子供たち

洗濯物を干している女性や露店を出して客寄せをしていたりして活気だっていた


宿から少し離れ村中央市場にやってきた

野菜や果物、屋台で砂糖菓子や焼物などが売っていた

スノーは全体を軽く見渡した後小さな露店で薬草や古書などを売っている老人の店主と話しながら商品を吟味している

俺はちゃんと周りを警戒しつつ興味がわいて村の様子を見ている

人々は笑顔で働いていて物も足りている様で比較的裕福な村のようだ

こういった大国から離れた村や町は治安が悪く没交渉なところもあるがここは物流のルートなのか商人や旅人も多そうだった

自国領の村ではなくとも人々が平和を謳歌して安心して住んでいけるのは俺はうれしく思う

かけがえのないものを守るのが騎士だからその思いはいつも胸に抱いている



「はぁー買った買った買わされたー」


「人聞きの悪いこと言わさんなだいぶおまけしただろう」


「ふふそうだったねいい買い物ができたよありがとう」


スノーはここでの買い物が終わったようだ

数冊の本と紐で結ばれた乾燥した薬草と茶色い瓶を四本買ったらしい

俺はすかさず荷物を奪い預かる

スノーはありがとといって軽く笑みを浮かべた

楽しそうで何よりだ


「朝ごはんまだだしお腹すいたろ?何か買って食べようか。スイさんの分も買っておこう」


「おう腹減ったな!どれが食べたい?スノーが好きなの選んでいいぞ!」


「ほんと?ならソーセージを焼いて酢漬けのキャベツと焼いた卵が挟んであるこの屋台のしよう。飲み物は何がいい?」


「俺は氷果実の紅茶かな」


「俺はこのしゅわしゅわしているやつにする」


「わかった。すいませんこのパン三つと氷果実の紅茶と、炭酸ハーブの砂糖漬けドリンクをください」

俺はスノーの前に立って注文した

スノーが目で訴えてくるが笑顔と手で制した

このぐらい奢らせてほしい

昨日のスイウンのありさまが一瞬過ぎったがさすがにここであれはしないだろう

今の俺では装備を売って裸になるしかない

スノーにねだられたら俺は迷わないだろう

こんなところで捕まりたくはないけど



頼んだものを受け取り近くの噴水が見える広場のベンチで食事をすることにした




これって……………デートじゃないか?



幸福感で死にそうだ

て、手なんかつないだりして

まだ早いか?でも一緒に寝た仲なのにいや寝たっていうのは一緒のベッドでそのまま寝ただけで何もみだらなことはしていない

誰に対しての言い訳かわからないが必死で内心でつぶやく



「大丈夫かヴァルツ?別のがよかった?」


「え?ああいやそんなことはないぞ!ちょっと天気が良くて気持ちいいからぼうっとしちゃっただけさ。さぁお腹がすいたから食べよう」


「うん確かに気持ちがいいね」


暖かな日差しに心地よい風が吹いている

同じように家族連れが近くの芝生のところで布を敷きバスケットから食べ物を取り出して食事をしている

隣のベンチでは兄妹が屋台で買ったものを分け合って食べている妹の口が汚れそれを兄が拭いてあげている様で微笑ましい

スノーも同じく見ていて笑みを浮かべていた

なんて幸せな空間だろうかずっとこうしていたい


「むむっ!これおいしい!ソーセージの中にチーズが入っていてトマトソースとマスタードによく合うよ。ヴァルツも食べなよ」


「うん。……確かにおいしいな!これなら手軽だし片手で食べれる」

食べ物を口に含み一緒に買った飲み物を飲む

ひんやり冷えていて果実の甘みと紅茶の味がすっきりしていておいしかった


うぐぅ


「ど、どうしたスノー!苦しいのか?毒なのか?今魔術で解毒するから待ってくれ!」


「ち、ちがう…から、落ち着いてくれヴァルツ。このしゅわしゅわがきつくてむせただけだよ。あー苦しかった」


「そっか…ならよかった。もう大丈夫か?」

心配して窺う

口からわずかにこぼれた雫が下に向かって流れ地面に落ちた

つい目で追って指で口元をぬぐってしまった


「あ、ごめん」


「ん…ありがとう。子供みたいなことをしちゃったね」

照れくさそうに笑うスノーに胸が締め付けられる

だ、抱きしめたい!


「しゅわしゅわきついなー」


「そんなにか?昨日のエールは結構飲めていたじゃないか」

結構どころではなかったが



「んーなんでだろ。飲んでみー?」

眼前にグイっと炭酸ドリンクが差し出された

の、飲んでいいのかこれ

これは伝説のか、かか関節キッスというものではないですか?

つい唾液をゴクッと飲み下す音が鳴る


スノーがはよと言って促す

これは合法なんだ鋼の精神で挑もう騎士の誉れを抱いてさぁ征かん!


震えながら口をつけた

氷が入った木の器にしゅわしゅわと音が鳴った液体が口内に流れる

さわやかな飲み心地とハーブの香り、そして甘く味付けされた液体はおいしかった

俺は平気な飲み物だ

か、かんせつきっす…



「どう?」


「………結構なお手前で」


「?」


「いやなんでもないです。じゃあ飲み物交換するか?」

ごまかすように提案する

俺は何も深く考えていなかった


「いいの?じゃお言葉に甘えちゃおうかなー?」

俺がもう片手に持っていた紅茶をそのまま俺の手を重ね掴み口元に持って行ってストローから飲むスノー

それはとても扇情的で俺は硬直した


「こっちのほうが俺は好きだなおいしい。あっ行儀悪かったよねごめんごめん」

笑いながら俺の手からドリンクを受け取って飲んでいる

朝から俺には刺激が強いです


青い空を見つめながら耐える俺がそこにはいた





会話しながら食事を終えまた村をまわり荷物を置くため宿に戻った

部屋に戻ると服装を変えたスイウンが机で何かを書いていたが俺たちが戻ると紙を巻いてしまった


「ただいまスイさん。遅くなってごめんよこれ食事買ってきたから食べなー」


「おかえり。おっ!気が利くねー!さすがスノーちゃん」


「ははヴァルツの提案だしお金もヴァルツが出したからそれは彼に言ってあげてなー」


「まじかテンション下がる」


「じゃあ食わないんだななら俺が食う」


「いらねーとはいってねーだろ!いただきますぅー」


スノーが手渡したパンを俺が奪い取ろうとしたがかわされた

ムカつく


「今お茶入れるから待っていてねー。ヴァルツも休んでていいから荷物持ちありがとう」


「全然平気さ!また何でも任せてくれよスノー」


「ふふ頼りにしてるさー」



黙ってじーっとスイウンが見ている

その視線がうざったい


「いーないーなデート!人が働いてる間にイチャつくなんていやらしいー」


「べ、別にいだろ!何もいやらしくなんかない!」

さりげなくデートは否定しなかった

刺さる視線は無視だ


「仕事って?」


「あー聞き取り調査してたんだよ。やっぱり二、三か月前から魔物の分布についてと異変を聞いて回ったんだ」


「…それで?」


「モグッ…、やっぱり種類も数も増えているらしい。商人や旅人が襲撃された件が増加しこの辺には生息しない死霊系エネミーも出やがるらしい。どいつも好戦的で荷物より人を襲うらしい。おっ、おちゃありがとな」


「そんなにか。この辺の警備や警備はどうなっているんだ。ありがとういただくよスノー」

俺とスイウンの前のお茶が置かれるスノーも間の席に座った

「ここは停留地点だから山村でも他よりはマシみたいだ。どこぞの大国の従属国に支援の連絡はしたが大量に増えた魔物と盗賊団騒ぎになかなかこっちまでは手が回らないらしい」


「だから品物が少なかったのかな。活気もあまりなかったし」


「そう思うのかスノー?俺は平和に見えたけど」


「中央広場や市場はそこそこだったけどみんな噂してたし店先に出ている商品は加工品が多かったし昨日も酒場では

遅い時間に傭兵や村人の警備隊がいたからね何かあったのかなーとは思ってた」


俺が浮かれている間にちゃんと情報集めと人を見ていたようだ


「一見豊かで平和そうだけど少し外れると結構荒れてたぜ。先日も荷馬車が襲われてたしな盗賊に。村はずれの医療所ではそこそこ怪我人がいた。これは長引けば苦しいだろうなこの村」

指についたソースをなめとりお茶を飲んで一息ついたスイウン



「ならこの一帯は大変なんだね。村を出るのは延長したほうがいいかな」


「いや大国ももうすぐ動くだろうしこのままここにいると争いに巻き込まれるかもしれない。物資が減って盗賊の横流し品に手を出す輩も増えたらしい、さっさと目当てのもん手にいれて去ったほうがいいぜスノーちゃん。俺とそこのゴリラがいれば道中は何とかなるだろ」


「でも目的地までは当分かかるしこれから途中向かう町もどうなっているかわからないね。持っていけるものも限られるし立往生したら困る。大国から支援部隊が来るまでおとなしくするのも手なのかもしれないよね」

お茶が入った器を両手で持ち思案するスノー

スノーだけなら俺が守っていけばいいけど情勢がわからないうちに下手に手を出していいのかわからない

俺が下手に手を出して内政干渉なんてなったら大ごとだ

でも、みんなが困っているのに騎士の俺が動かないなんて…



「そりゃそうだなー。でももう旅人狩りをしてる輩までいるあまり楽観的になれねーな。…聞いた話だが盗賊に黒い装束のやつがいてそいつが魔物で襲わせているらしい。それに遭遇して逃げ出した商人が見たらしい。信憑性は薄いがいくつか目撃された話がある」


「なんだって!魔物を操るなんて…しかも盗賊がだと。魔物を使役するなんて召喚師かビーストマスター、魔の眷属にしかできないだろう。これだけの規模となるとしっかりとした討伐隊でないと手に負えない」


「報告には同時多発で襲撃もあったらしいから多数の術者がいるのかもしれねーな。どっちみち情報不足だし調査が必要だ。襲撃ポイントはランダムだが候補は二か所に絞れた」


「じゃあそれを警備隊に伝えれば」


「……」


「それはやめたほーがいいな。警備隊の連中にも盗賊の仲間がいるかもしれねーしバレたらより面倒になる。なら少数精鋭で目標を始末したほうが最善だ」


「それって…」


「俺に協力しろってことか?」


「いやならいいぜ。俺一人でうまくやるし俺の仲間もしばらくしたら来るだろうしな。まぁ準備する間に場所変えられたらまた一からだ。被害は広がるだろうけどなー」

背中を椅子にあずけ後頭部に手をおいていう


「俺は…」

スノーを見る

確かに俺たち二人が動けばこの件は解決するかもしれないしこの事態の解決につながる手がかりが手に入るかもしれない

だが旅のことを…スノーとのことを考えれば無視をして先を急ぐほうが安全だろう

下手に盗賊団や術者と関わるほうがリスクが高い


「スノー、俺は…」


「行きたいんでしょ。行っていいよ」

俺は驚いてスノーを見つめる


「だって騎士様でしょ?今だけ貸してあげるからちゃっちゃと解決しちゃおうよ」


「いいのかい?旅をするだけなら俺達には関係がない」


「関係はあるよ。俺たちはここにいてその事実を知っていて、解決することができる。ならできることをする。当然でしょ?」


当たり前のことのように言って笑顔で見つめてくる

俺は、君のそんなところが大好きなんだ

改めて思う


「ああそうだなそのとおりだ!俺はスノーの騎士として恥じないことをしたい。だから任せてくれ」


「もちろん俺の騎士様。またかっこいい所見せておくれよ」

ふふと笑うスノーを見てさらに決心した

必ず解決して無事に旅をしよう

きみと一緒に




「あのー発案者無視しないでもらえます??目の前でやられると金髪ゴリラの髪燃やしたくなるわまじ」

椅子を後ろにぎりぎりに倒して文句を言うスイウン

忘れてた


「スイさんも一緒に頑張ろうね」


「おいっす!」


「軽いなおい」


そして詳細な打ち合わせをして眠りについた

今夜は風が強く月は見えなかった

明日夕方、俺たちは作戦を開始する

いつの間にか蝋燭の火は消えていた






















「おい、まだ寝ないのか」




闇夜がすべてを暗く覆う

町明かりは少なく静かだった

賑わっていた昼間とは別世界だった




「おうお坊ちゃんお眠の時間はとうに過ぎてるぜ。子守唄をご所望かい?」


くだらないからかいを含んだ言葉が空気に溶ける

スイウンは屋外の屋根にいる

わずかに雲間から月の明かりが差していて

少しだけ姿が見える

いつもは飄々とした態度だったが今は不気味に映る

まるで真実の月を隠す黒雲のようだ


「……何を隠している」


腰にある剣に手を置く

魔力を循環させ最大威力で切り伏せれるように



「お互い様だろ?不可侵で行こうぜ。死にてーか?」

魔力の気配がする

スイウンの周りに濃密な魔素の層が見える

視認できるほど濃密な魔力で洗練された才能と技術だ

今まで出会った人で一番危険な奴だ

やはりスノーの近くにいさせるのは…


「死ぬかもしれないが、俺は死なない」


「はっ意味わかんねーな?そこまで馬鹿じゃねーのに人のために命かけるのかお前?」

いつの間にか持っていたナイフを投げてくるくるとさせ遊んでいる

増した威圧感に体が震えそうになる

油断して目を離すとやられる

緊張感に口の中が乾く


「俺はスノーを守る。そう自分に彼に心に誓ったんだ」


「だから死なない。おまえを倒す」


魔法剣を抜いて魔力を込める

金色に光る神秘の光

俺の魔力の色



「へぇーいいじゃん嫌いじゃないぜそういうの。かっこいいまま殺してやるよ」


魔術刻印が発光した弓をつがえている

右手にもったナイフを逆さに持ったままだ

変わった構えだが隙は感じない

俺もあらかじめ鎧と剣と魔道具に下準備で魔法式を組み込んである


今度は本気の殺し合いだ


必ずどちらかが死ぬ



空気が張り詰める




その時雲間から月がわずかに顔を出した

互いに動き出すことが肌で感じられた







「いっっっっっだぁ!!!あっやめ、そこはあっ、あう、ご、ごめんなさいやめてはひっ」




暗闇から何かがすごい速さで迫ってきてスイウンに刺さってスイウンは吹っ飛ばされて攻撃されている

何事なんだ?!


目に魔力を込めて発動する神眼をもってしても視認できなかった

神眼は選ばれたものが神の祝福で

血で選ばれたものが受け継がれる眼だった

災厄を防ぎ魔を見通し奇跡を起こす

わかりやすく言うと短い間だけ未来を見れて自身に起こる不幸が見えるというものだ

なのに見えなかった



「冗談、冗談っすからマジになんないでいだあぁああ」



「……どうなっているんだ」



「ひでぇよ。ちょっとからかっただけじゃん。あぁはげるいてぇ」


照らされた明かりのとこまでスイウンは戻ってきた

額が真っ赤で殴られたようになっていた


「チッ、まじになんないでくださーい。明日決行する一応仲間に襲うわけないっしょ。生意気だったからからかっただけ」


「冗談にしても本気に感じられたけど」


「そりゃはったりぐらい楽なもんよ。これが大人ってやつひいっ」

また暗闇を見つめて怯えだした


「お、俺だって仕事で来てんだよ。もともと調査だけだったが思ったより深刻そうだったから動いただけ。定時連絡してただけだからほかは内緒でーすわかったか色ボケゴリラ」

ふてくされたように言う


「…嘘はついていないな。俺は神眼もちだ嘘は通用しない。一応は信じるけど何か不穏な動きをしたら斬る」



「はぁ、ご自由にどうぞ~。ったく俺はもう寝るわしんどーまじめに働いてるっつーのにあっちでもこっちでもがみがみいいやがって」


ぶつくさと文句を言いながら下に降りて部屋に戻ったようだ



……



死線には慣れたと思っていたが

俺もまだまだらしい

魔力を抑え落ち着きを取り戻す



俺以外いなくなった屋根に静かだった

また月は黒い雲に覆われていた




先ほど暗闇に落ちたスイウンがいたほうを見ても何も感じなかった

何が起きたかはわからないがあの一瞬で俺たちに気づかれない何かがいたのは確かだった

それを確かめるには俺には衝撃の多い夜だった





俺は闇夜の中で眠れない夜が更けていった








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