第23話 追放侯爵令嬢様は責任をとる3
翌朝早朝に農具を取りに来た村人に驚かれつつも俺達は朝の準備をする。
準備といっても浄化魔法で身体の汚れを取る程度だ。
ちなみに浄化魔法と言うと何か凄い魔法のように聞こえるが。
通称というか半ば公称だが、生活魔法とか呼ばれ広く一般にも使われている魔法だ。
どの程度一般的かというと早いと五歳ぐらいの子供から使っているぐらいだ。
自分の身体や服に付いた汚れなどを綺麗にするだけの魔法ではあるのだが、この魔法のおかげで病気になったりする頻度がずっと下がったというのだから、古代の賢者には感謝しかない。
「それでこれからだが」
俺は村人から買ったパンとベーコンを飲み込んでから言った。
今回は日帰りの予定だったので野営装備は用意していないので地べたに座っての朝食だ。
幸い草地なので痛くはない。
「やる事も無いので村人から目撃情報を訊いてまわろうと思う」
エリカの地べたに座って水筒から水を飲むだけなのに溢れる気品が朝から目に眩しい。
「護衛がてら街まで出る馬車に付いていくというのも考えたけど、あっちからすれば知らないランク1の冒険者に付いてこられる方が心配だろうからやめた」
ボンボ相手なら最悪は荷物を置いて逃げれば逃げ切れるが、人間相手じゃそうもいかない。
村人からすればヨソ者の俺達に付いてこられる方が余程心配だろう。
「だがまぁボンボの群れは片付けたから二、三日すれば村人も魔物は討伐されたと信用するだろ」
それをもって依頼達成とは出来ないが、少なくとも村はギルドに依頼を出し続ける事はやめるだろう。
しばらくすればまた魔物が湧いてくるだろうが、それはまた別の話だ。
信用はされないだろうが、問題自体は時間が解決する、俺はそう考えていた。
*
畑まで含めると大きな村だが、人が住んでいる箇所はずっと小さい。
人口は二百人程と農村としては大きい部類になるが、それでも実際に魔物を目撃したという人間の話を聞くのに然程の時間は必要なかった。
街まで作物を売りに行くのは決まった人間が順番に回しているようで、実際に魔物を目撃した人間は思った以上に少なかったのだ。
太陽が中天を過ぎた所で、俺は最後の一人から話を聞き終えると礼を言ってエリカと二人で例の農具入れへと歩いていた。
「目撃者の話、どう思う?」
「どう、とは?」
俺の漠然とした問いにエリカが問い返してくる。
「何かこう怪しい所は無かったか?」
俺の問いに、怪しい所ですか? と呟くとエリカが少し考える。
「強いて言うのなら、良く観察していたと感じました。そこが気になりましたわ」
そう、それだ。
俺の頷きを見てエリカが続ける。
「魔物に襲われた村人の話はどれも間違いなくボンボに襲われたとハッキリと分かる物でした。特徴も細かく、まるで事前に知っていたかのように詳細な物でした」
エリカが立ち止まって俺を見る。
「わたくしは村人でも魔物の特徴程度はある程度の知識はある物と考えておりましたが、違うのですか?」
エリカの問いに首を横にふる。
「普通は冒険者でもない限り知らない、ましてや襲われているのに詳細に特徴を見て覚えてるなんてのは、無いとは言わないが希だな」
冒険者ギルドに今回のような依頼が出る場合、だいたいがその魔物は曖昧な目撃情報からの類推だ。
あの地域で猿のような魔物なら毛皮の色が何色なら――みたいに。
だが今回は最初からボンボと明示されていたし、更にはその目撃者の話はやたらと詳細だ。
まるで示し合わせて事前に取り決めていたかのように具体的で内容も似通っている。
俺は首の後ろをかく。
何かスッキリしないなぁ。
俺がそう思っていると背後から小さな足音が近づいてくるのに気が付いた。
何だと振り返ると小さな木彫りの人形を持った幼女が俺とエリカをじっと見ていた。
幼女は言った。
「オネーサンは冒険者さんですか?」
俺とエリカは思わず目を合わせた。
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