塔伐科高校、入学試験-3
三時間後。
三教科のペーパーテストを終えた竜秋は、グループFの控え室にあてがわれた教室で、背骨を抜かれたように机に突っ伏していた。
「おい、あいつ……悲壮なほど落ち込んでるぞ……」
「誰か声かけてやりなよ……」
「きっとテストできなかったんだな……かなり難しかったし無理もない。第一試験でも
弁当を食べながら、同じグループFの連中が同情的な視線を向けてくる。竜秋はたまらない悔しさにぎゅっと拳を握った。
――なんだよあのテスト……クソ簡単じゃねえかナメてんのか……!?
この一年あまり、竜秋はペーパーテストの方も抜かりなく対策していた。名門と名高い塔伐科高校のことだから、と各教科最低大学四年までの修了範囲を網羅し、それでも足らずに最新の研究項目にまであれこれ手を出した。
俺の……俺の毎晩の苦労はなんだったんだよ……!
あとは午後の面接のみ。圧倒的な不安要素だとなぜか家族に散々言われたが、竜秋には心配される意味が分からない。
もう合格する未来しか見えない竜秋は、いっそこの学校のレベルを心配さえしながら弁当の包みを開き始めた。
面接は、グループごとの個人面接だった。受験者は控え室で待ち、隣の会場から放送によって一人ずつ呼び出される。
面接を終えた人間はそのまま帰らされるようで、控え室には戻ってこない。立派な防音壁のためか耳を澄ませても隣の会場の声は聞こえず、控え室で待つ者たちは隣でどんな面接が行われているのか全く予想できなかった。
一人、また一人控え室から受験者が抜けていく。呼ばれるペースはだいたい十五分前後でほぼ一定。ボリューム的には普通の面接と変わらない。
「次、受験番号58、巽くーん。どうぞー」
控え室が残り三人と随分寂しくなったところで、教室内のスピーカーから、間延びした呑気な女の声が響いて竜秋を呼んだ。
「やっとか」
待ちわびたご指名に立ち上がって伸びをして、手荷物のリュックを背負って隣の教室まで歩いていくと、ドアを勢いよく開けて言い放った。
「邪魔するぜ」
中で長机に座って待っていた鬼瓦が、竜秋の尊大な態度を見て早速なにやら手元の書類に書き込んでいる。
「受験番号、出身中学、名前をお願いしまーす」
鬼瓦の隣には、もう一人、審査役と思わしき人物が座っていた。女――それも竜秋とそう変わらない年代の少女である。巨漢と並んでいるからなのか、随分と小さく見える。その間延びした声の感じ、竜秋たちを読んでいた放送の声の主に違いなかった。
「受験番号58,三葉中学出身、巽竜秋」
不遜にふんぞり返る竜秋に、鬼瓦がまた凄まじい筆圧で手元の書類に書き殴る。
「はい、どうぞ座ってくださー……あ、もう座ってますね。じゃあこれから個人面接を始めます。その前に、自己紹介しておいたほうがよさそうですね」
品定めするような竜秋の視線に気づいてか、少女は胸に手を当て、上品な仕草で小さく頭を下げた。
「私は当校在校生、新三年生の
終盤からは素の喋り方らしいそれに戻って、伊都と名乗った少女はにこやかに笑った。
「どうせなら、男の制服を見たかったな」
興味なさげに横を向いた竜秋に、ガリガリガリガリッ、と修羅の剣幕で鬼瓦の筆が躍動する。まだ質問の始まらぬ内から書類が暗黒面だ。
「あはははっ、それは申し訳ありません。ご所望の紳士でなくて恐縮ですが、私からいくつか質問させていただきますね。まず――」
にっこりと笑ったまま、伊都は言った。
「こちらの書類にはあなたが
段階を飛び越えて飛来したド直球に、竜秋は。
「事実だ」
顔色一つ変えず肯定した。睨むような視線を見つめて、「なるほどなるほど」と伊都はにこやかに頷く。
「嘘をつくメリットが思いつかないので、そうなのでしょう。役所からの登録催促を逃げ続けるのは至難ですしね。にわかには信じがたいことですが。今日までさぞ、苦しい日々を過ごされたのでは?」
「同情はいらねぇ。もうとっくに、腹ん中おさめた」
「分かりました。では次、というより、もう最後です」
「あん?」
「――残念ですが、あなたは塔伐者にはなれません。まだ前途有望な今のうちから、別の道を模索されてはいかがでしょうか」
塔伐科高校の制服に身を包んだ少女の、真顔の宣告に、血が凍った。
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