ぶたまん

しかまさ

第1話


 壮太がこのコンビニに初めて来たのは、近くの高校に入学してすぐの頃だった。

 毎朝、登校途中に、店に入ってくると、足早に入り口奥の弁当スペースへ向かい、自分の手の中の財布とじっくり相談して、昼用に弁当を物色していく。

 大抵は、スペースにある弁当の中で一番安いのを手に取り、黙って、それをレジまで持ってくる。

 金色に近い茶髪頭で、耳にはリングの三連ピアス、鼻と唇脇にもピアスをつけた絵に描いたような不良姿。

 私の受け持っているレジの方に来るときもあれば、隣のバイトの女の子の方に来るときもある。その子のレジの前に立ったときには、可哀そうにバイトの子、怖がって『いらっしゃいませ』の声も消え入りそう。

 それでも、弁当だから、マニュアルに従って、『あたためましょうか?』と訊きはするけど、声が小さい上に、震えているので、壮太にはよく聞き取れず、


「はぁ? なんだって?」


 凄みのある表情で、不機嫌そうに尋ね返して、ますますバイトの子をビビらせていた。




 結局、毎朝、壮太は特に乱暴を働くでなく、財布からしわくちゃの千円札で代金を支払い、弁当を温めもせず買っていくのだが。

 壮太が毎朝来るようになって、しばらく経ったあるマンガ雑誌の発売日。

 そのマンガ雑誌を目当てに、何人かの高校生たちがすでに店の中に入っていた。

 その日も壮太は弁当スペースの前に立っている。

 でも、壮太の様子がヘンだ。

 いつものように、弁当を物色するでなく、するどく目を細め、じっと雑誌コーナーにたむろっているガラの悪そうな高校生たちのグループをにらんでいる。

 やがて、その高校たちのグループは、何も買うこともなく、お互いに冗談を言い合いながら店を出て行った。

 と、すぐに、その後を追うようにして、壮太が走って外へ出て行った。

 店のガラス越しに、駐車場で壮太が高校生グループに声をかけたのが見えた。


「おい、お前ら! 今、雑誌万引きしただろ!」


 たちまち、冗談を言い合い、ふざけあっていた高校生たち、険悪な顔で壮太を睨み返す。


「ほら、そのお前、カバンの中を見せな!」


 壮太は、構わず、中の一人のカバンを奪おうとするが、その高校生は、奪われまいと、ガッチリカバンを押さえ込み、そのまわりの高校生たちが、壮太を押しとどめる。


「なにすんじゃ、われ!」


 壮太の右の一人が一声ほえ、殴りかかった。

 でも、そのこぶしを後ろにさがって、軽くよけ、左フックをそいつの腹に決めて、地面に沈め、なおもカバンを奪おうとする壮太。

 なかなか勇敢で格好イイ姿だった。

 だが、所詮は、相手が五人で壮太は一人。しばらく揉み合っていても、一人に背後を取られ、押さえ込まれれば、壮太一人ではどうしようもなかった。

 私が慌てて外へ飛び出し、『やめなさい! 警察呼びますよ!』といいながら、助けてやったころには、壮太はすでに二,三発なぐられた後だった。

 ところが、驚いたことに、壮太のヤツ、いつの間にか相手のカバンを奪い、しっかりと抱え込んでいた。

「くそ! 覚えてろよ」とかなんとか、お決まりのセリフを口にして、高校生たちが逃げていった後、


「店長さん、これ」


 頬を腫らしながら、壮太のヤツ、戦利品を私に掲げてみせ、笑って立っていた。




 後で、ビデオを確認すると、確かにあの高校生たち、マンガ雑誌を万引きしていた。しかも六冊。

 カバンの中身には、特に身元が分かるようなものはなかったが、あの高校生たちの制服からすると、壮太と同じ高校。


 さて、どうしたものか?

 高校に連絡して、身元を明らかにしてもらい、罰してもらうか?


 でも、それであの子たちが反省するとはとても思えないし。

 それに、壮太の大活躍もあって、店の方には、なんの被害もなかったわけだし……

 つぎ、あの高校生たちが来ることがあれば、十分に警戒し、なにかあれば迷わず警察を呼ぶことにして、今回だけは、不問にすことにした。

 もっとも、アレ以来、あの高校生たちの姿を、私の店で見かけるなんてことはなかったのだが。




 店の奥で、バイトの女の子に手当てしてもらい、壮太はいつものように弁当をとって、レジの前に立った。


「あ、お代はいいよ。君のおかげで、万引きされずに済んだんだから」

「え、でも……」


 壮太は、困ったような、照れたような表情で頭を掻いた。


「いえ、やっぱり、オレ、カネ払います。オレと同じ高校のヤツがお店に迷惑かけたわけだし、手当てまでしてもらったんだから。ぜひ、オレに払わせてください!」


 見た目はまさに不良だけど、意外に義理堅い。

 何度か、払う受け取らないで押し問答したが、結局、


「わかった。そのお代は受け取る」


 折れたのは、私だった。

 私は、壮太の手から千円札を受け取り、五百円玉と百円玉と十円玉を一枚ずつお釣りとして渡した。

 それから、


「ただし、これは私の気持ちだから、受け取ってくれよな!」


 そういって、蒸し器の扉を開け、トングで肉まんをひとつつまんで袋に入れ、壮太に差し出す。


「ありがとうございます」


 壮太のヤツ、格好に似合わず、素直に、うれしそうに、頬を緩ませ、その肉まんを受け取った。そして、かじりかじり学校へ向かったようだった。




 その日の夕方、壮太は学校の帰りに店にやってきた。

 床を掃除している私を見つけると、近寄って満面の笑顔で声をかけてきた。


「店長さん、朝のぶたまんありがとう。すげー、美味しかったです」

「ああ、それはよかった」


 自然と私の顔もほころぶ。


「それと、店の前の張り紙、まだいけますか?」


 アルバイト募集の張り紙を指差す。真剣な表情で。


「オレ、ここに雇ってもらえませんか? 一生懸命働きますから!」


 そうして、見るからに不良の壮太が私の店でバイトを始めた。

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