第144話
里見はすぐに僕に背を向けた。
何かを忘れて取りに来たみたいだった。
『真澄?』
好きだよ以外何も言わない僕に、七星の心配そうな声が聞こえた。どうした?何かあった?って。
「美夜さんに、七星が豆太ヒーリングに来てるって聞いた」
『豆太ヒーリングか。まあ………そうだな。そんな感じ』
「僕に会えなくて寂しい?」
『………やけにはっきり聞くな』
「うん、聞くよ。聞きたい。寂しい?だから豆太に会いに行った?」
『………そうだよ。真澄に会えなくて寂しい。豆太に会ったら少しは紛れると思ったのに、豆太見たら真澄が嬉しそうに豆太抱っこしてるの思い出して逆効果だったんだよ』
笑いながら、冗談っぽく七星は言っている。
でも。
ネックレスに触れようとして、自分の首からぶら下がっているのが七星とお揃いのネックレスじゃなくて、里見がくれた小さな天球儀だと気づいてやめた。
会いたい。
七星に会いたい。
死ではなく生に触れたい。
『頑張れ、真澄』
聞きたいから聞いたのに、それに何も言わず黙った僕に、七星はそう言ってくれた。
それに僕はごめんねって思った。ありがとうって思った。
でも何も言わず、うんって僕は頷いて、またねって言った。
『ちょっと待った、真澄』
「ん?」
『これって結局何の電話?』
「え?何のって………七星が好きって電話」
『………っ』
「七星?」
『………』
「おーい、七星?」
切れちゃった?電波悪い?メールか着信きた?
七星の声が急に聞こえなくなったから、僕はスマホを耳から離して見た。
切れてない。電波も良好。メール受信も着信もない。
「もしもし?」
『………聞こえてる』
「聞こえてる?どうしたの?」
『もう一回聞くけど』
「うん」
『これって結局何の電話?』
「だから、七星が好きって電話」
『………』
「七星?あ、照れちゃった?」
『………』
図星なのか、答えない七星に僕は笑った。七星かわいいって。
笑ってたら、七星も笑った。………ったくって。
「ごめん、七星。そろそろ切るね」
『ん。頑張れよ』
「うん、ありがとう。頑張る」
『真澄』
「ん?」
俺もまじ好き。
笑った。
最後、低くぼそっとそう言った後即切れた通話に、恥ずかしくて切っちゃったんだなって、バレバレで。
何してるんだろうね。いい年した大の大人が。男が。男同士が。
そう思うよ。気持ち悪いよねって。
でも。
愛しいと思う人に愛しいという気持ちを伝えたいときに伝える。伝えられるときに伝える。
それはすごく大切なことなんだ。大切で、すごく………。
僕はスマホのカバーを閉じて、七星を抱き締めるかわりに、そっとスマホを胸にあてた。
里見がお風呂から出てから、買ってきたお菓子やお茶を用意してテレビをつけた。
何か映画でも観ようって。
映画館に行くことも考えた。デートらしいデートをしたことがほとんどないんだから、それもありだろうって。
でも、外だと。
七星とも映画を観に行ったことはあった。
でも外だとどうしても。
「こうできないでしょ」
隣に座る里見の肩に凭れて言ったら、やっぱり映画館に行けばよくない?って言った里見に僕の意図が伝わった。
外でこんなことは、できる人も居るんだろうけれど、僕にはできない。
七星も、そして里見も。
だからネットで色々調べて、いつでもテレビで映画を観られるようにした。
「何観る?ドラマもあるよ」
「今って色々便利なんだな」
「便利なんだよ」
「あ」
「ん?」
「俺これ観たい」
里見がこれって言ったのは、海外の有名な俳優が主演の映画だった。
そしてそれは実話を元にした話で。
………男同士の悲恋を描いたものだった。
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