第140話

 それから日が暮れるまで車の中で待って、日が暮れてから夜空観察をした。

 

 

 

 

 

 里見とこうして星を見るのも、明日で終わり。

 

 

 そう思ったら、もう記録はしたのに動けなくて、しばらくふたりでそのまま星を眺めていた。

 

 

 僕のくしゃみで行こうってなって、夜ご飯の食材を買いに行こうとスーパーに寄った。

 

 

 

 

 

「何にする?」

「鍋」

 

 

 

 

 

 聞いたら里見は即答だった。

 

 

 じゃあって野菜をカートに乗せたカゴに入れる。

 

 

 

 

 

「何鍋?」

「キムチ」

「そんなに冷えた?」

「いや、何となく」

「里見からいの好きだっけ?」

「結構好きだな。夏目は?からいのいけたっけ?」

「うん。普通に食べられるよ」

「好きではない?」

「冬に何回かやるぐらいには好きかな」

「他のにする?」

「ううん、いいよ。キムチ鍋にしよう」

 

 

 

 

 

 他愛もない会話。

 

 

 スーパーで、食材を見ながら。

 

 

 

 

 

 こういうのも、夢見てた。

 

 

 ひとりでスーパーに来ては、まわりのカップルや家族連れを見て、いいなあって。

 

 

 

 

 

 その夢は七星と叶えられた

 

 

 でも、里見とも………したかった。

 

 

 

 

 

 カートを押す里見を見ていたら、里見が気づいて首を傾げた。

 

 

 僕は目を伏せて、首をふって誤魔化した。

 

 

 

 

 

 ………ひとつ、また、ひとつ。

 

 

 

 

 

「あれ?真澄くん?」

 

 

 

 

 

 今日ぐらい夜更かしして映画でも観ようかって、お菓子コーナーを見ているときだった。

 

 

 ふいに後ろから声をかけられて、この呼び方はって振り向いたら。

 

 

 

 

 

「美夜さん」

 

 

 

 

 

 やっぱり七星のお姉さんの、美夜さんだった。

 

 

 ここのスーパーは七星のお母さんも、よく実家に遊びに来ている美夜さんも来ると言っていた。

 

 

 でももう夜と言えるこの時間に、まだ小さな理奈ちゃんがいる美夜さんに会うとは思っていなくて、驚いた。

 

 

 

 

 

「こんばんは。こんな時間にここで会うなんてびっくりね」

「こんばんは。はい、びっくりしました。どうしたんですか?」

「えっとね、実家に来てたんだけど、明日理奈がお弁当っていうのをすっかり忘れてて、慌てて買い出し」

「そうなんですね。でも美夜さん」

「何かしら、真澄くん」

「ここお菓子コーナーですよ?」

「はい、それは言っちゃダメですよ?真澄くん」

 

 

 

 

 

 言われると思ったのか、わざと変な答え方をしてふふふって美夜さんが七星と似た目を細めて笑って、僕も一緒に笑った。

 

 

 

 

 

 実家。七星の実家。

 

 

 今日は七星も居るんだろうか。

 

 

 

 

 

「美夜さん、先日はご飯ありがとうございました。美味しかったです。ケーキも」

 

 

 

 

 

 里見と1週間過ごすって決めた初日。

 

 

 でも、一緒に居ることに耐えられなかった初日。

 

 

 僕は泣きながら七星に電話して、そして。

 

 

 

 

 

「どういたしまして。真澄くんの一大事は久保家の一大事だからね」

「………ありがとうございます」

「あ、今度ケーキ買いに行くときは真澄くんも一緒だからね」

「それは全然いいですけど………もしかしてそれはもうすでに久保家の決定事項ですか?」

「もちろん、久保家の決定事項です。じゃないとゴリゴリロマンチスト親父がうるさいんです」

 

 

 

 

 

 ゴリゴリロマンチスト親父。

 

 

 

 

 

 美夜さんの言葉に、お父さんがぽんって思い浮かんで、思わず笑った。笑ったわねって言われて、余計に笑った。

 

 

 

 

 

「で、真澄くん。こちらのイケメンさんは………」

「小中学校時代のクラスメイトです。先週の同窓会で久しぶりに会って、今うちに」

「え?同級生?」

「里見です、こんばんは」

 

 

 

 

 

 里見がすぐ後ろに居たから、いつ聞かれるだろうと思っていた。

 

 

 やっぱり聞かれた。

 

 

 だから言える範囲で説明した。

 

 

 これだって嘘、ではない。里見が小中学校時代のクラスメイトっていうのも、同窓会で久しぶりに会ってっていうのも。

 





 僕と里見が同級生には見えなかったらしく、驚く美夜さんに胸がずきんってなった。

 





 白髪まじりの黒髪。痩せた頬。




 


 里見は実年齢よりも上に見える。僕もそう思う。

 

 



 

 里見の何かを七星から聞いているということは、きっと、ない。

 

 

 七星が僕の家に行かない理由は、僕が七星の実家に行かない理由は、何か聞いている可能性はあるかもしれないけれど、里見が僕のかつてのコイビトということは。

 

 

 

 

 

 変に、思われるか。

 

 

 

 

 

 里見が頭を下げたのを見て、美夜さんも頭を下げた。

 

 

 でも、美夜さんはどう名乗ったらいいのか悩んでいるらしく、えーとって、視線を泳がせている。

 

 

 

 

 

「里見、こちら七星のお姉さん。公園で会ったよね?」

「あ、はい。七星のお姉さんの美夜です。こんばんは」

「うん、会ってる」

「あら、あの時の?やだわぁ、お顔の記憶がまったくないわぁ」

 

 

 

 


 ぼやく美夜さんに、里見と笑った。

 

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