第115話
明日出掛けるし、と、僕たちは早々に布団に入った。
でも、僕は昼寝をしたせいでなかなか寝つけなくて、そういえば里見は昼間寝たんだろうかと、もう寝たのか、まだ起きているのかと、里見の方に身体を向けた。
夜、トイレに起きたときのためにと、豆電気をつけてある部屋。居間。
里見が僕を見ているのが、薄暗いそこに見えた。
「………起きてたんだ」
「昼寝したからな」
「里見も寝たんだ?」
「少しだけ」
僕たちだけしか居ないから、気を使う必要なんかないのに、里見の声は小さくて聞きとり辛くて、僕は少しだけ、里見の方に身体を寄せた。
寝つけないからと言って起きて電気をつけても何もすることはないし、ますます眠れなくなりそうで、そのまま、布団に入ったまま。
「………ねぇ」
「ん?」
「布団は干した。掃除や洗濯、草むしりも少しだけどした。明日は出掛ける。他に何かしたいことある?」
「………他に、か」
「うん」
「………とりあえず、今の今なら一緒の布団で寝たい、かな」
「え?」
「昼寝のときみたいに」
意外とすぐに出た、すぐにできる里見のやるたいこと、に。
僕は自分が寝ていた布団を出て、里見の布団に入った。
里見はちょっとびっくりしたような顔をしてから、ありがとうって笑った。
「手………いい?」
「いいよ」
そして、遠慮がちに聞いてから、ちゃんと僕の返事を待ってから、そっと冷たい手が僕に触れた。
「他には?」
もう一度聞いた僕に、里見は少し考えるように、迷うように?黙った。そして。
「………絶対無理なことでもいい?」
絶対無理なこと。
どきんって、さすがに。その言葉にはなった。
声も、真剣で。
「………絶対無理なら言うだけ無駄じゃないの?」
絶対無理な、里見のやりたいこと。
その言葉から僕の頭に不安と共に浮かんだことは、ここに、この家に、土曜日以降も居たいとか、七星と別れろとか、そんなことだった。
「無理でも言うだけ言いたい」
「僕は聞きたくない」
「夏目」
無理なら言うだけ無駄。
僕たちには土曜日までしか時間はなくて、僕たちはあの頃とは違うんだ。
できることならやる。こんな風に同じ布団で寝たり手を繋いだり。そういうことなら。
里見と暮らすことを夢見て、里見とこの家でしたかったことの、気持ちが変わった今でもできることなら。
僕は里見の手を離して、里見に背を向けた。
里見はそんな僕を、抱き締めた。そっと。
聞いて、できることならいい。
でも聞いて、やっぱりできないことだったらまた。
また残る。里見が残る。いつまでもいつまでも。
吹っ切るための、終わりにするための時間のはずなのに。
無理なら最初から聞きたくない。聞かせないで。何のために聞かせる?
「………夏目を抱きたい」
「………っ」
聞いた瞬間、身体が警戒で強張った。
身体が瞬間で里見を拒絶した。
「できないことは分かってる。ただ、俺がそう思ってるってだけ」
「………」
「実は、もうずっと………していない。こんな風に人に触れるのも、キスも夏目と最後に会った日以来。あの日が俺の最後。そしてこれからももうない。そう思うとな………って」
あの日。
最後に別れた日が………。
聞いて。驚いて。僕は。
七星に抱かれて、僕はその行為の本当の意味を知った。身体で知って心で知った。
肌を重ねる。身体を繋げるという行為は、コイビト間でできる、最大で最高のスキンシップ。至福でしかない行為。
それを僕は七星で知り、だから今里見がどんなに望もうとイヤで、そんな里見が………。
何故その選択をしたのか。
何故自ら辛い方、辛い方へと。
僕との別れ、『好き』になれない異性との結婚。
進んで罰を受けに行くかのように。
僕は答えなかった。
何も言わなかった。
何も言えなかった。
黙ったまま里見に抱き締められて、目を閉じていた。
そしてしばらくそのままで。
しばらくして、いつの間にか………眠った。
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