第65話

 里見には七星が連絡をしてくれた。

 

 

 夕方の4時に美浜公園って。

 

 

 

 

 

 それまでの間、僕はずっと七星と居た。

 

 

 何をするわけでもなく、ごくごく普通に七星と過ごした。

 

 

 一緒にご飯を食べて、コーヒーを飲んで、庭に出てミモザの木を見上げて、鳥箱の鳥を見て。

 

 

 

 

 

 普通にしていたけど、しているつもりだったけど、内心は、心は、不安でいっぱいだった。

 

 

 里見とふたりになったら、僕はどうなるんだろう。また昨日みたいに感情が吹き荒れるのだろうか。竜巻のように。嵐のように。

 

 

 

 

 

 時間は刻々と迫った。

 

 

 約束の時間が近づくにつれて、僕は無言になり、七星はそんな僕の隣で僕に触れていてくれた。

 

 

 

 

 

 里見をここに連れてきていいよって、七星は言った。

 

 

 

 

 

 1週間、里見さんと暮らしても。本当はそのための家なんだろ?

 

 

 配達の時間に、外に出なくてもいい。まあ、真澄が俺に会いたいなら別だけど。

 

 

 里見さんに言いたかったこと、里見さんとやりたかったこと、全部言って、全部やればいい。

 

 

 ここで1週間一緒に暮らして、キスしても、身体を重ねても、真澄がそうしたいと思うならいい。

 

 

 今日から次の土曜日までのことを、俺は絶対何も言わない。絶対に問いただしたり、責めたりしない。真澄が本当に望むことならな。

 

 

 でもイヤなら。里見さんの方から言われて、何かを求められても、それがイヤなことなら、やりたくないことなら、それははっきり里見さんに言って欲しい。拒んで欲しい。そうしなきゃまた、今度は違う後悔が残るって、俺は思う。

 

 

 病気と命をたてにした強要は脅し。それをやるなら、俺は絶対に許さない。それをやるならこの話は無しだ。それは里見さんに言うつもりだよ。

 

 

 真澄も、そのときはすぐ連絡して。行くから。終わりにしてもらうから。そうじゃないなら全部いい。何をしてもいい。真澄も望むなら。真澄が望むなら。

 

 

 そのかわり、次の土曜日は覚悟しとけよ?こっちは1週間真澄と会えないんだ。昔のオトコと一緒に居るのを許すんだ。1週間とその分、足腰立たなくなるまで抱く。

 

 

 

 

 

 そして言った。

 

 

 約束の時間より1時間早く家を出発して、七星の家から豆太を連れてきて、散歩をしながら七星は言った。

 

 

 ゆっくりと、僕に言い聞かせるように。

 

 

 

 

 

 いつでもいいよ。何時でもいい。辛かったら連絡して。俺に会いたくなったら呼んで。

 

 

 許してもらいたいのに許してもらおうと行動しなかったから、許してもらえなかったことをいつまでも悔やむんだ。

 

 

 許してもらいたいなら許して貰えるよう行動すればいい。結果許されないなら、許されないことだって許せるよ。

 

 

 俺たちがっていうよりその人にはそれがどうしたって受け入れられない人なんだって、思える。じゃあどうするかって思える。

 

 

 今さら真澄と里見さんがどうこうはできないけど、これから。里見さんとのことに決着をつけたら、真澄。俺とのこれからを、そんな風に考えて欲しい。

 

 

 

 

 

「してきた後悔を回収するのための1週間」

「………七星」

「そうだろ?」

「………うん」

 

 

 

 

 

 公園のベンチに座って、豆太を抱っこして撫でていたら、真澄くーんって理奈ちゃんの声が聞こえた。

 

 

 美夜さんと健史さんも居る。

 

 

 

 

 

 豆太の耳がぴくってなって、僕の脚の上で尻尾が左右に動き出す。小さな前足が足踏みをしている。

 

 

 

 

 

「みんなで真澄を待ってる」

「………うん」

 

 

 

 

 

 里見との1週間。

 

 

 

 

 

 僕はどうなってしまうんだろう。

 

 

 

 

 

 不安で、いっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束の時間の5分前に、里見は来た。

 

 

 それまで、美夜さん一家と豆太と遊んだ。

 

 

 また真澄くんのおうちにお泊まりしたいって理奈ちゃんが言って、じゃあ今度はバーベキューしよっかって。

 

 

 七星がバーベキューに食いついて、肉っ‼︎て豆太を抱っこしながら目を輝かせている。

 

 

 

 

 

 じゃあ5月になったらやろうね。

 

 

 

 

 

 ブランコに乗る理奈ちゃんの背中を押しながら、約束をした。

 

 

 

 

 

 そこに、里見が。

 

 

 

 

 

 七星がすぐに動いた。

 

 

 僕に豆太を預けて、里見の方に行って、何かを話している。

 

 

 それは多分、さっき僕に言っていたこと。

 

 

 

 

 

 痛い。

 

 

 

 

 

 日差しの下で見る里見が細くて、白くて。

 

 

 明らかにあの頃とは違って。

 

 

 でも、あの頃を思い出して。胸が。

 

 

 

 

 

 里見が七星に向かって頭を下げている。

 

 

 

 

 

「真澄くん、おしてー」

「え?あ、ごめんごめん」

「こら理奈、押してくださいでしょ」

「おしてくださーい」

「いくよー」

 

 

 

 

 

 里見との時間は次の土曜日まで。

 

 

 

 

 

 七星を思って、胸が痛い。

 

 

 里見を思って、胸が痛い。

 

 

 

 

 

 後悔の回収。

 

 

 

 

 

「真澄」

 

 

 

 

 

 七星に、呼ばれた。

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