第5話 卒業


そして、月日は流れ卒業式。

式自体は両親も参加してくれて、厳かに、和やかに、私の色々なことがあった4年間の集大成として静かに終わった。

仲の良い友人たちにこれからの予定を聞かれ、

「今日、入籍するの」

と言ったら大変驚かれた。

唯一教えていた親友にはもちろん相手のことも知らせてあるので、落ち着いたら新居に招くことになっている。


 今日、コウちゃんは仕事で8時頃帰宅と聞いていた。

なのでそのまま両親と実家に戻り、妹弟がもじもじしてるのを見ないふり。

「有希姉、卒業おめでとう。これ、プレゼント。その、結婚祝い兼ねて」

「う、嬉しい。智が選んでくれたの!? なんだろ〜、あ、可愛い!」

白い額の写真立て。

これって結婚写真を入れろってことかな。

ああ、うちの弟世界一可愛い。優しい。

「姉さん、私からはこれ」

「ええ! 真由まで! もう、うちの子達可愛すぎ!」

「良いから見てみてよ」

真っ赤になって照れる真由。開けてみたら、オルゴール!

これって好きな曲を入れられるやつ。

「みなと様の曲で姉さんが好きなやつ入れておいたから。あと、横のとこ引き出しがついてて宝石箱になってるの」

指輪ケース入れですね!

嬉しいと涙が出ちゃうものなのね、ポロポロ涙をこぼす私に二人がオロオロしてる。

「これは嬉し涙だから拭わなくて良いのよ。本当にありがとう」


 両親からのプレゼントは、旅行券とスーツケースのカタログ。欲しいのがあったら選びなさいだって。新婚旅行用らしいです。

 母はパーティ料理を作ってくれた。夕飯は相変わらず美味しくて、いつかこの味を出すんだとゆっくり噛み締めながら頂いた。


「姉さん、話があるの。私の部屋で話したい、いいかな?」

「真由、お前また」

智が気にしてくれるけど、私はそれを嬉しく思いながらも真由に向かった。

「大丈夫だよ、うん、真由お話しよ」

もうあの暗い目はしてないし、私への申し訳なさばっかりが立った表情してる。このままの真由をほっとけない。


「ごめんなさい姉さん。みなと様、姉さんしか見てないし、私の入る隙なんて一個もないことがよくわかった」

真由の部屋で並んでベッドに座った途端に謝られちゃった。

「真由、ごめんね。私もコウちゃんじゃないと嫌みたいなの」

「私、姉さんに嫉妬してた。綺麗だし、勉強できるし、料理上手いし、でも姉さんが努力してるのもちゃんと見てたはずなのにね」

「真由、貴方だって、頑張り屋で、負けず嫌いで、可愛い可愛い私の妹」

「ううう、お姉ちゃん…… ごめんなさい」


私の胸で小さな子供のように泣いている真由は、まるで昔に戻ったようで、しばらくの間真由を膝枕しながら二人きりでポツポツと話をして互いの溝を少しづつ埋めていった。

ふと時計を見たら8時。あまり遅くなるとコウちゃんが心配する。

「私、もう帰らないと」

「うん姉さん、たまには遊びにきてね」

ちょっぴり目の縁を赤くした真由は、やっぱり可愛かった。



 マンションに帰り、衣装を解いて箱にしまいクリーニング行きに分けておく。シャワーを浴びて化粧を落とし、すっぴんに寝巻きのワンピースとガウンを羽織ってリビングへ。

「有希、卒業おめでとう。それじゃあ、これ書こうか?」

「もう、せっかちすぎ。ふふ、ちゃんと書きますよー」

 親からのサインは貰い済み、後は私が記入するだけの婚姻届がそこにあった。

躊躇することなんて何もない。

 私は迷うことなくサラサラと記入していった。

 んん? 異様に嬉しそうですね幸二サン。


「これからもよろしくお願いします。愛しの奥さん」

「はい、こちらこそです。旦那様」

くすくす笑いながらコウちゃんに抱きつくと、優しく微笑んで抱き返してくれた。


こうして私とコウちゃんは、幸せな夫婦になったのです。


親が決めた婚約者が大好きな歌手だった、しかも初恋の幼馴染でした。

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親が決めた婚約者が大好きな歌手だった Totto/相模かずさ @nemunyo

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