第95話 大天使の力


 ミシェルとティッティーの距離はおよそ15m。

あの写真がミシェルの手に渡ることだけは何としてでも阻止しなくてはならない。

俺は内ポケットに大事にしまっておいた黄金に輝くモンスターカードを取り出した。


「ついにこいつを使うときがきたか……。モンスター召喚、発動! 出でよ、SSSR 大天使・ルナディアン!」


 ルナディアンは最上位の天使の一体だ。

攻撃力もさることながら、「瞬間移動」と「浄化の光翼」というスキルも使える。

この力でヤハギ温泉へ飛べば、きっと最悪の事態は防げるはずだ。


 目を開けていられないほどまばゆくカードが光り、薄衣をまとった大天使・ルナディアンが現れた。

しかし……なんてプロポーションをしているんだ。

天使だけあって人間離れした美しさだぞ……。


 おっと、鼻の下を伸ばしている場合じゃなかったな。


「ルナディアン、俺をヤハギ温泉まで運んでくれ!」


 そう頼むと、ルナティーは腕と八枚の翼で俺を包み込み、一瞬のうちにヤハギ温泉へ移動してくれた。



 突如現れた大天使にヤハギ温泉にいた人たちは大混乱だった。

ミシェルや、すぐ横にいるティッティーも目を丸くして驚いている。


「ユウスケ……?」

「ミシェル、そいつから離れろ!」

「ユウスケこそ、その女から離れないさいよっ! 誰なの、その露出狂は!」


 いや、大天使だって。

翼を見ればわかるだろう?


「これは瞬間移動のために召喚した大天使・ルナディアンだよ……」

「知らないわ! ハレンチな格好で私のユウスケに引っ付かないでっ!」

「バカ、攻撃魔法を使うんじゃない! それよりも、その眼鏡の男から離れるんだ。そいつはティッティーだぞ!」

「なんですって!?」


 ティッティーという名前で、ようやくミシェルの思考回路が正常に戻った。


「チッ! もう少しだったのに。まあいいわ。ミシェル、これを見なさい!」


 ティッティーは封筒の中にしまった写真を取り出そうとしている。

そんなことはさせないぞ。


「ルナディアン、ティッティーからあの封筒を奪うんだ!」


 命令を受けて翼を広げたルナディアンがティッティーに迫った。


「く、来るなぁっ!」


 ティッティーは風魔法のウィンドカッターで応戦するけど、ルナディアンのオーラの前に霧散してしまう。

さすがはSSSRのカードだ、とんでもない強さだぜ。


「……」


 ルナディアンが右側の翼を高く上げた。

いったい何をする気だ? 

おお、翼から柔らかな光の波動が満ち溢れているぞ。


「ぎゃあああああああああっ!」


 これが浄化の光翼か、ティッティーが苦しんでいる。

浄化の光翼は人間の心にある悪心をすべて浄化してしまうそうだ。

はたしてティッティーは大丈夫か?


「ルナディアン、こいつは恋人の妹なんだ。殺さないでくれよ」


 ルナディアンはにっこりとほほ笑んで……そのまま消えてしまった。

そうか、召喚時間の三分が経過したんだ。


 ティッティーは気絶したまま倒れている。

俺は即座に日光写真の入った封筒を拾い上げた。


「ミシェル、ティッティーの具合を診てあげて」

「う、うん……」


 ミシェルがティッティーのところへ行った隙に、俺は店を召喚して中に駆け込んだ。

そして、奥の台所の前で封筒の中身を軽く確認する。


 うわ、言葉にはできないほどエグい光景が写っているぞ。

こんなものをミシェルが見たら……、どうなるかは予想もできない。


 即座にコンロに火をつけて、封筒ごと写真を火にくべた。


「灰は灰に、塵は塵に……」


 証拠隠滅完了!


「ユウスケ、なにをしているの? なんだか焦げ臭いわよ」

「ティッティーがまた悪だくみをしていたのかもと思って、ミシェルに渡そうとしていたものを始末しただけだよ」


 うん、嘘はついていない。

よって良心は痛まない。

以上、証明完了。


「そういえば、何かを渡そうとしていたわね。呪いのお札か何かかしら?」

「かもね……」


 ある意味、効果はもっと強烈だっただろう。


「ティッティーは?」

「気を失っているわ。拘束して奥座敷で寝かせておいた」


 そうか、これで一連の事件もようやくケリがつくな……。

そう思ったのだが、荒々しく店の扉を開ける者があった。


「ヤハギさん、ティッティー様を返してください」


 伝説の釘バットを下げたマルコであった。


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