第62話 新店舗
またもや俺のレベルが上がった。
これまでは新商品が増えたり、ゲーム機が出てきたり、冷蔵庫なんかが現れたりしたんだけど、今度のはすごい。
なんと店舗として一軒家が出現したのだ。
今では日本でも珍しい木造住宅である。
トタンの看板には、白地に黒々と『駄菓子のヤハギ』と書いてあった。
「なにこれ……」
大魔法使いと呼ばれるミシェルでさえびっくりしている。
やっぱりこれはすごいことなのか?
「レベルが上がったんだよ」
「いくら特殊系とは言え、ユウスケの魔法は特殊過ぎよ!」
半分呆れられてしまったけど、できるようになってしまったものは仕方がない。
これで最悪土地さえあれば、マイホームのために借金することもなくなったな。
この世界に住宅ローンが存在するのかどうかも知らないけど。
「さっそく中に入ってみようぜ」
動かすとカラカラ音を立てる引き戸をスライドして、俺は店へと入った。
「なんだか不思議な雰囲気のする店舗ね」
ミシェルは珍しそうに周囲を眺めまわしていた。
入り口付近の一階部分は店舗で、見慣れた商品が棚いっぱいに陳列されている。
くじやスーパーオーブなどの台紙が壁に並び、おもちゃもぎっしりと積まれた状態だ。
まさにザ・駄菓子屋といった風情である。
「そっちはどうなっているの?」
店舗の奥は上がり
ちゃぶ台や小さな食器戸棚など、備え付けの家具もいくつかある。
「ここは生活スペースだな。おっと、上がるときは靴を脱いでくれよ」
「靴を?」
「そうさ。俺の生まれ故郷では居住スペースでは靴を脱ぐという習慣があるんだよ」
「ふーん、どうしてそんなことを?」
「家の中を清潔に保てるからさ」
俺が異世界人であるということはミシェルには話してある。
魔法のある世界の住人らしく、ごくあっさりとその事実を受け入れてくれた。
じっさいに魔法召喚されてこの世界へやってきた人の記録もあるそうだ。
「お、こっちにはキッチンもあるじゃないか」
座敷についた襖を開くと通路があって、向かい側に小さな台所があった。
かなり狭いけど、ゴトクが二つだけのコンロ、水の出る小さな流し台、そして小さな調理台もついている。
調理道具も一通り揃っているので、簡単な料理ならできそうだ。
通路の奥にはお風呂とトイレまでついており、階段で二階へ行けるようにもなっている。
ところで、ダンジョンの天井は高くない。
ボロ屋とはいえ、屋根の高さはダンジョンの内部空間を上回る。
一体どうなっているのだろうと上がってみると、天井部分にめり込むように二階は存在していた。
「どうやら、地中であっても店を召喚できるみたいだ」
「じゃあ、ダンジョンの壁の中にも店を呼べるの?」
「たぶんできると思う」
基本的に障害物があっても、物理法則を無視して呼び出せるようだ。
ちなみに、夕方になって店を送還すると、屋根がめり込んでいたはずの天井は何事もなかったかのように元通りだった。
二階には六畳と八畳の部屋が二つ付いていた。
八畳部屋の方には押し入れもあり、中には布団まで入っている。
「これで、どんな事態に陥っても住むところだけは確保できそうだな」
「キッチンもお風呂もあるもんね。あのお風呂に二人で入るのはきつそうだけど……」
二人で入る想定なの!?
それはいろいろと大変そうだ……。
「ごめんくださーい?」
表からお客さんの声が聞こえてきた。
店舗が新しくなったから戸惑っているようだ。
それはそうか、ダンジョンの中にいきなりこんな家が建ってしまったら驚きもするだろう。
「はーい!」
小走りで店へ行くと、四人ほどのお客さんが外から中を覗いていた。
「いらっしゃい、入って、入って」
「おはようございます。どうしたんですか、これ?」
「今日からここが駄菓子のヤハギだよ。これからもよろしくね」
「あ、新商品が増えている」
そう言って、冒険者の一人が手に取ったお菓子はこれだ。
商品名:レタス太郎
説明 :一口サイズのサクサクとした食感が楽しめるスナック菓子。サラダ味。
食べると一時的に素早さが上昇する。
値段 :30リム
これは俺が昔から好きなお菓子だ。
食感がいいし、軽くつまむのにもちょうどいいサイズである。
ビールなどにもよく合うのだ。
「お菓子にレタスが入っているの?」
冒険者が首をかしげながら訊いてくる。
「いや、レタスは入っていないんだよ……」
「サラダ味って何?」
「それは……説明するのが難しいんだ。まあ、あっさりとした塩味というか……」
「だったら塩味って書いておけばいいのに」
「気持ちはわかるけど、それは言っちゃいけない約束なんだ」
「はあ……」
なんだかんだで、その冒険者はレタス太郎を買ってくれた。
「ええっ、何これ!?」
騒がしく入ってきたのはメルルとミラだ。
「おはよう。新店舗へようこそ」
俺は両手を広げて二人を迎え入れる。
「ふああ、相変わらずユウスケさんの魔法はわけがわからないわね」
「本当に常識外れです。どうやったら家を召喚できるというのですか?」
俺に言わせれば魔法それ自体が常識の範疇から大きく外れているぞ。
「あれ、奥もあるのね。見てもいい?」
座敷を覗こうとしたメルルをミシェルが止めた。
「二階は夫婦の寝室だから入らないでね!」
いつの間にそうなった!?
妙なことに布団は一組だけで、なぜか枕は二つあるんだよね……。
本当に魔法って不思議だ。
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