第126話【チート能力者の悪意③】
――話は少し遡る。
「俺様こそが真の王になるべきなのだよ」
町の中心部から少しばかり外れた一軒の家の中でひとりの男が周りにそう宣言する。
「そのとおりでございます。神の目を持つ神の代行者『ゴッツァイ』様」
その場には数十人からの男女が頭を下げてゴッツァイの前にひざまずいている。
「俺様の占いによると別の町でどんな怪我や病気も治るとまがい物の治療で民衆を洗脳する悪魔のような治癒士がこの平和な王都へと入り込んでいる。
その者は今まさに人気だけで能力のない女王と結託して王国民を洗脳しようとしている。
これに異を唱える事が出来るのは神の目を持つこの俺様しかいないだろう!」
ゴッツァイがそう叫んで右手を突き上げると周りの人間達も同様に右手を突き上げて「そうだ!そうだ!」と同調する。
「あのような正体の分からない野郎を取り上げる今の女王には早々にご退場して貰って俺様の未来を見る
「お願いします! ゴッツァイ様の
その場に居る者たちはゴッツァイの能力で洗脳状態に陥っていた。彼が黒と言えばそれが例え白であっても黒と答え、本来ならば間違っている事さえ正しいと信じ込んでしまう『ゴッツァイ神格化洗脳』である。
初めはただの占い師だったゴッツァイだが、神から授かった目は見た者の不安を読み取る事が出来たのでそれを指摘し、さらに煽る事により彼の言う事が全て正しいと信じ込んでしまうように洗脳されていったのだ。
「では作戦を授けよう。ここに集まっている者たち以外にも数多くの同士が王都中に散らばっていることだろう。
今回の作戦に適している人材を選別し、俺様からの勅命――つまり神命を授けよう。
それを確実に実行出来れば神の代行者である俺様の直属幹部に……つまり神の下僕となれる事を約束しよう!」
「うおおおおお!!
ゴッツァイ様! バンザイ!」
その場に居た者たちはそう叫びながら我こそはと作戦への参加を表明した。
* * *
「――女王様!!」
僕は思わずそう叫んだが突然の事に何が起きたか分からず先程まで紅茶を出してくれたメイドを見ると氷のような冷たい目で倒れた女王を見下ろしていた。
「この国のために……」
女王を刺したメイドはそう呟くと懐から取り出したもう一本のナイフを自らの胸に突き立てた。
「ああ――これで私もゴッツァイ様のお役に立てて神の元へ……」
そう呟きながらその場に倒れ込んだ。
「早く治療を!」
先に正気に戻り動いたのはリリスだった。
「ふたり同時には治療は出来ないけど女王様は絶対に助けなければならない。
だけど自決したメイドも行為の真相を知るためには死なせる訳にはいかないわ」
リリスの言葉に僕はふたりに対して状態を確認するが重症のメイドに対して女王陛下は即死の状態だった。
「仕方ない、メイドを回復させてから女王陛下を蘇生させる!
リリスは彼女を治療したらすぐに自決をさせないように拘束をしてくれ!」
僕はそうリリスに叫ぶと倒れているメイドを仰向けにしてすぐに治癒魔法をかけた。
「――
時間が惜しいのでいつもより早いペースでの魔力注入を進める。
「――よし! このくらいで良いだろう」
重症だったメイドの傷が塞がったのを確認した僕はまだ気を失っている彼女をリリスに頼み女王陛下の蘇生を試みた。
「緊急事態なんで許可は取ってないですけど後で痴漢罪で死刑とか言わないでくださいね」
「そんなこと言う訳がないでしょ!」
僕の呟きに突っ込むリリスに僕はひとつ大きく深呼吸をして女王陛下の胸に両手をあてて力強く魔法を唱えた。
「――
魔力の注入が始まると凄い勢いで魔力を吸い取られる感覚がする。
(蘇生魔法はこれで3度め、1度目はリリスに、2度めはオクリ村のミナさんに……。
リリスの時は気が動転して魔力の注入をやりすぎて後遺症を治すのに一騒動あったよな。
ミナさんの時は冷静に処置をしたけど魔力量がギリギリだったから倒れたっけ。
今回もかなりきつい状態になるだろうけど、この人は国にとって必要な人だからなんとしてでも蘇生を成功させないと……)
どれくらいの時間がたったのだろうか、蘇生魔法に必要な僕の中の魔力はほぼ尽きているのに蘇生が終わらない。
「陛下! 陛下!」
「駄目です! 今は蘇生中ですので触らないでください!」
女王陛下に触れようとした側近をリリスが大声で静止する。
先に治療した実行犯のメイドを拘束したリリスが部屋を飛び出して側近の者を呼んできていたのだ。
「しかし……」
戸惑う側近の女性を静止したリリスはまだ何か言いたげな彼女に「こっちに拘束しているのが陛下を刺した犯人です。彼女も陛下を刺した後に自らの胸を刺して自決をしようとしましたがナオキの治癒魔法で一命を取りとめています」と部屋で何が起こったかの説明をした。
「なんとそんな事が……」
側近の女性は信じられないとばかりにまだ意識のないメイドを見つめる。
やがて女王陛下の身体が強く光を帯びて治癒魔法も最後の段階に入ろうとしていた。
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