痴話喧嘩③
「悪い、藤沢」
「ああ」
頭を抱えている藤沢に一旦断りを入れてからスマホを見れば、発信者は悠木。
あれ?あいつ今日仕事じゃ・・・・
そう思いながらも電話に出ると。
”しじょー、どうしよ・・・・”
困り切った悠木の声が聞こえてきた。
「えっ?どうしたっ?!」
”夏川さん・・・・”
「はっ?」
悠木は暫く黙り込んだ。
すると、スマホ越しに、女の泣き声が聞こえてきた。
え?泣いてるの、夏川?!
「つーかお前、仕事は?」
”早く終わった。しじょーのとこ行こうと思ったら、夏川さんから電話あって”
「今、どこにいるんだ?」
悠木が答えたのは、家の近所のファストフード店。
てことは。
夏川のやつ、店の中で大泣きしてるってことっ?!
ウソだろ、あの夏川がっ?!
「今から連れて来られるか?」
”うん”
「じゃ、待ってる」
”・・・・ありがと”
電話を切り、俺はまだ頭を抱えたままの藤沢に言った。
「悪いけど、俺の部屋に行っててくれるか?」
「え?なんで?」
「これから、夏川来るから」
「・・・・えっ?!」
「悠木と一緒に」
状況が全く飲み込めないようで、暫くの間藤沢は、目をパチクリさせて俺を見ていた。
「だから言っただろ。藤沢の前でルイの話なんかするなって」
【ルイ】のところで、悠木がビクッと体を震わせたのが、視界の隅に入った。
そっか、そうだよな。
悠木は【瑠偉】だもんな。
あー、紛らわしい。
藤沢がようやく事態を飲み込んで俺の部屋に入った直後、悠木に連れられた夏川が俺の家にやって来た。
出迎えた俺は、藤沢の靴に気付き、慌てて下駄箱の中に放り込んで、2人を出迎え、リビングに通した。
泣いたままの夏川からは話を聞ける状況でも無く、悠木から大体の状況を聞いた俺は、今、夏川に説教をしているところだ。
「なんでよ・・・・ルイはルイじゃない。大好きな有名人の話するくらい、いいじゃない。なのに、なんであんなこと言われなきゃいけないのよ・・・・」
聞くところによると、どうやら藤沢は夏川に
『そんなに好きなら、ルイと付き合えばいいだろ』
と言い放ったらしい。
・・・・正直、それもどうかとは、思うけれども。
でも、ルイの話をしている時の、夏川のあの浮かれっぷりを知っている俺には、夏川大好きな藤沢の気持ちも分からなくはない。
おまけに藤沢は、ルイの正体も知っている。
心情的には、複雑この上ないだろう。
ま、俺には敵わないだろうけど、な。
夏川の言いたい事も、分からなくは無いんだ。
芸能人の誰それが好き!
なんてのは、良くある話で。
彼女がそんな事を言ったからといって、イチイチ芸能人相手に嫉妬する彼氏なんて、そう多くはないだろう。
さて。
夏川にはどう言えば分かってもらえるだろうか。
考え始めてすぐ、ふと、思い浮かんだ。
あの、元日の朝の光景が。
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