夏休み
「ふじさわ~」
「あ~?」
「やっぱさ~」
「え~?」
「海なんてさ~」
「ん~?」
「ヤロー2人で来るもんじゃねぇな~」
「・・・・言うな、四条」
砂浜に座り、藤沢と俺は、ボーッと海を眺めていた。
この夏休み。
初日に、悠木は海外の両親の元へ行ってしまった。夏休みいっぱい、戻って来る予定は無いらしい。
夏川とは、やはりまだ、顔を合わせられる状態ではなく。
基本的に、俺はバイト(と、夏休みの課題)に明け暮れる毎日だった。
親父とかーちゃんのところに帰る予定はあったけど。それだって、たかだか一週間程度だ。
たまに、クラスの友達と遊びには出かけるものの、それ以外の気晴らしと言えば、バイクを気ままに走らせる程度。
そんなある日。
藤沢に誘われて、やってきた海。
久し振りの海に、最初こそ、ヤロー2人ではしゃいでいたものの。
周りを見てみれば、家族連れやらカップルばかり。
たまに、可愛い女子グループもいる事はいるが、藤沢も俺も、ナンパできるような度胸も自信も無い。
・・・・藤沢なら、声さえ掛ければ、全然イケると思うんだけど。
まぁでも、藤沢は、意外に一途そうだし。なんせ真面目だし。
ナンパするような性格では、無いかもな。
何やら空しくなった俺達は、太陽が高度を下げ始めた砂浜で、いつしか2人でたそがれていたのだった。
そんな雰囲気だったからなのか。
相手が、藤沢だったからなのか。
次々と人が帰り始め、まばらとなった砂浜で、俺は気付くと、悠木の話を口にしていた。
「俺さぁ」
「ん?」
「好き、みたいなんだ」
「何が?」
「悠木」
真顔のまま、藤沢が俺を見る。
目が、『今さらなんだ』と言っていた。
俺自身よりも先に、藤沢はとっくに気付いていたようだった。
俺の、悠木への気持ちに。
「辛いな」
「うん」
「どうすんだ?」
「わからない」
「そっか」
そのまま、藤沢はまた、視線を海へと戻した。
藤沢は、いい奴だ。
変な気遣いも慰めもしない。だけど、話はちゃんと聞いてくれる。
だから、やっぱりこのまま黙っている訳にはいかない、と思った。
夏川の事も。
「藤沢」
「なんだ?」
「俺、夏川に告られた」
「・・・・そっか」
あまり驚いた様子もなく、藤沢は海を眺め続けている。
「驚かないんだな」
「そりゃそうだろ」
「え?」
「見てりゃ分かるよ。夏川がお前の事好きだ、ってことくらい」
「えぇっ?」
「俺、お前ほど鈍感じゃないからな」
藤沢は、いい奴だ。
夏川の気持ちに気づいてたクセに、俺のピンチにはいつも助けてくれた。
きっと、今日だって。
俺のこと心配して、誘ってくれたんだろう。
俺、お前の恋敵だったのに。
・・・・俺にその気はなかったけど。
「でも俺、断った」
「うん」
「だから、気まずいんだ、今」
「だろうな」
「藤沢は、どうすんだ?」
「何が?」
「夏川のこと」
ふぅーっ、と大きく息を吐き出し、藤沢は言った。
「今がチャンス、なのかもなぁ」
「えっ?」
「弱ってる所に、つけこむ、ってやつ」
意外だった。藤沢がそんな事を言うなんて。
驚いて見つめる俺の視線の先で、藤沢はやっぱり顔を少し赤くして。
「なんだよ?」
「いや・・・・らしくないなって」
「俺だって、男だぞ?それくらいは、考えるさ。・・・・本気だからな、夏川のこと」
「そっか」
やっぱり藤沢は、いい奴だ。
つけこもうなんて、きっと、これっぽちも思っていないに違いない。
たとえ告るとしたって、正攻法で行くだろう。
藤沢は、そういう奴だ。
ックシュンッ!
少しずつ冷えてきた風に当たり過ぎたのか、藤沢が隣で盛大なくしゃみをひとつ。
「そろそろ、帰るか」
「だな」
「・・・・ありがとな、藤沢」
ニッと白い歯を見せ、藤沢は何も言わず、ただ笑っただけだった。
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