ホワイトデー①

「藤沢」


3月13日。帰りのHR後。

俺は藤沢のクラスに立ち寄った。


「どうした?」

「お前さー、夏川のお返し、どうする?」

「え?何の?」

「明日。ホワイトデーだろ」

「ああ・・・・」


とたんに、藤沢の顔がうっすらと赤くなる。


ほんと、分かりやすい男だな、藤沢。

今時こんな奴、いたんだな。

つーか、そんなに夏川が好きなら、さっさと告ればいいのに。


「それなら、もう買った」

「マジで?!」

「ああ」


藤沢は、顔の赤さをどんどんマシながら、照れた様に視線を忙しなく動かしている。


「ふーん、そっか」

「ていうか、何で四条が知ってるんだよ」

「え?」

「俺が夏川にチョコ貰った事」

「何でって、本人が言ってたからな」

「えっ」


藤沢の驚いた顔に、俺はすんでのところで言葉を飲み込む。

ここは言わない方がいいだろうな。

俺も夏川からチョコ貰ったなんてことは。


「あいつ、楽しみにしてるんじゃないか~、藤沢からのお返し」

「そっ、そうかな」

「ああ」


本当は、藤沢がまだ夏川のお返しを買ってないなら、一緒に買いに行こうかと思って誘いに来たのだけど。

仕方ない。

1人で行くしかないな。恥ずかしいけど。


「じゃあな」


軽く手を上げて帰ろうとする俺に、藤沢が声を掛ける。


「四条、お前俺に、何か用があったんじゃないのか?」

「ん?・・・・いや。ホッケーの練習、頑張れよ」

「ホッケー?俺、ラグビー部だけど」

「あ、そうだっけ。じゃ、ラグビーの練習、頑張れよ」

「・・・・なんだそれ」


気の抜けた藤沢の言葉を背に、俺は昇降口へ向かった。


そうだった。

藤沢は、ラグビー部だった。

1回聞いたけど、忘れてた。たぶん、また忘れると思うけど。

それにしても、どうするかなぁ、夏川へのお返し。

言いたかないけど、中学までは、かーちゃんがいたからな。

コッソリかーちゃんに頼んでたんだよな、お返し。

かと言って、何にすればいいか、かーちゃんに相談するなんて、恥ずかしくてできねぇし。

あ~、今年は自分で考えるしか、ねぇのかぁ・・・・


「しじょー」


昇降口の手前に、悠木が立っていた。

どうやら俺を待っていたらしい。


「どうした、悠木」

「これ」


無表情のまま、悠木が手にしていた白い封筒を俺に差し出す。


えっ?!

まさかの、ラブレター?!

・・・・いやいや、ナイナイ。

悠木に限って、それはアリエナイ。


「なんだ?」


受け取りながら尋ねると。


「明日、夏川さんに、渡してほしい」

「えっ?」

「しじょーから、って」

「はぁっ?」

「頼む」


ダサメガネ越しに、悠木はじっと俺を見ている。

真剣な顔で。


別に、いいけど。

断りはしないけど。

お安い御用だし。

・・・・悠木の、頼みだし。


「中、見てもいいか?」

「だめだ」

「えーっ」

「だめだ」


頑なに断る悠木の顔が、何故だかうっすらと赤くなっている。


なんだ?

どういうことだ?


「オレ、明日休むから」

「なんで?」

「仕事」

「そっか」


じゃ。

と言うと、悠木はそのまま教室の方へと戻って行った。


なんなんだ、これ。

見るな、と言われると、見たくなるのが心情ってもんだけど。

・・・・なんか、見ない方がいいような気もする。

つーか、見てはいけないような気もする・・・・


溜め息を吐きつつ、俺は悠木から預かった封筒を、そのまま鞄にしまった。

そして。


「どうすっかな~・・・・」


1人呟き、夏川へのお返しを買いに行くべく、学校を出た。

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