11枚目 咲いた夜が明けるまで

「ティッ、ティッ、ティッ〜スコティッシュ〜〜♪♪」


「トォ〜トッ、トッ、トッ〜、スイトット〜♬」


そら飲めや歌えや楽しめや。今宵は他言無用の乱痴気騒ぎ。

どんちゃん騒ぎによもや、紙も人の子も関係ない。

猛る火炎の前では全ては同じ。終生、共に踊り続けるのみ。

彼らがいくら騒ごうが、人間の耳には聞こえない。


「同紙は、まだ同紙はいないでティシュか〜??」


「本も、柱も、ティッシュも、箸も!目覚めて皆んなで宴をするトイ!」


この祝いの炎は、多種多様な私たちを歓迎するように勢いを増していく。

今晩は、木から生まれた全ての者たちにとって大感謝祭だ。

現世よりも更に恵まれた来世を迎えるため、位の高い種族になるため

一晩中、天に願いを捧げる。

立ちあがる煙よ、天命を全うし尽くした灰よ、我ら同紙を導き給え。


「シ〜、シッシッ!それじゃあっしらも混ぜて貰おうかな?」


ガサガサ身体を大きく鳴らしながら、快活な女性が近づいてくる。

それは気心知れた同紙であった。


「新聞紙のアネさん達!もちろん!さぁさぁこっちに!」


「よっしゃ派手にいくよ!あんたたし!」


「かしこまり!!!!!!!!!!!!」


そう高らかに叫ぶと、テレビ欄を担当している長女の背後から、12枚の妹たちが出現する。紙面にはスポーツ、経済、地域に政治、企業の株価まで。

大記録を樹立した野球選手の記事を掲載している七女は早速、

雑誌や漫画、賞状といった他の男紙らに声をかけに走る。

高速道路でバスの横転事故を取り上げている二女は泣き叫び、

それを黒酢や青汁、演歌の5枚組セットを宣伝する三女に叱られる。

市長のインタビューがデカデカ載っている十一女は1人、

口角を上げキャンプファイアーを見つめている。

それぞれ性格の異なる13枚により、宴は一層盛り上がる。


「よっしゃ!それじゃあ俺は行ってくるぜ!!」


その声と同時に、キャンバスのタクマが炎の中に突っ込んだ。

呼応するようにプリントやティッシュ、トイレットペーパーや辞書など、

どんどん飛び込んでゆく。火はその度にその姿を増長させ、この部屋を支配してゆく。


「ワシらもようやっと行けるわい…長かったのう…」


柱のトシ爺もゆっくり目を瞑り、近づいてくる火炎に身を預ける。


郊外に建つ木造アパートの一室が、豪華絢爛夜会の現場。


出火原因は、家主のタバコを消し忘れたのだろうと推測される。

深夜であったため、大家を含めた居住者6名全員が死亡。

巨大な羊羹でも産まれたのかと錯覚するほど、建物丸ごと焼き尽くされた。

幸いなことに、近隣の一軒家までは火の手が回らなかった。


天命が降りてきたね。


・罪状:暴食

・死因:集団自決

・来世:ティッシュペーパー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る