―80― 続・三巨頭会議
レイドモンスター。
それを一言で語るのは難しい。
過去、様々なレイドモンスターが出現した歴史があるが、どれも説明し難い特徴的な個性を持っていた。
ただ1つ、明確な共通点を語るなら、レイドモンスターを放っておくと、国一つが簡単に滅ぶ。
だから、そうなる前にレイドモンスターを倒す必要がある。
「まず、経緯から説明させてもらうわ。数ヶ月前、トランパダンジョンに隠しボスがいるんじゃないかっていう噂が流れたでしょ」
「それは把握していた」
確かに、そんな噂が流れたのはゲオルグも知っていた。
しかし、隠しボスなんているはずがない、とゲオルグは判断したのを覚えている。なぜなら、この町には昔からダンジョンがあり、数多くの冒険者たちに攻略されてきた。なのに、今更未知の隠しボスが見つかるなんてあり得ない、そう思ったのだ。
「そこで私は隠しボスが本当にいるのか調査することにした。理由は興味本位が半分と、なんらかの功績を残せば、この町の影響力を強められると思ったから。だけど、流石に一人じゃ不安だから、〈ディネロ組合〉から何人かの冒険者を雇ったうえでトランパダンジョンに潜ったわ。結果、隠しボスは見つけたものの、私以外は全滅」
彼女が今、口にしたことは冒険者ギルドを介してゲオルグも知っていた。ただ、一つだけ疑問があるが。
「オーロイア殿、一つだけ質問をいいかな?」
「ええ、別に構わないわよ」
「なぜ、隠しボスを見つけて君だけが生き残れたのかね? 別に、隠しボスの討伐に成功したわけではないんだろう?」
本来、ボスの部屋に一度入ったら、倒すまで出ることは叶わないはず。
なのに、彼女は一人で部屋の外に出ることができたらしい。それがどうにも不可思議だ。
「ええ、隠しボスを倒していないのに、私だけ生きて外に出ることができたわ。ただ、その前後の記憶を失っているせいもあって、原因までは特定できていないわね。恐らく、トランパダンジョンは転移トラップがたくさんあることで有名なダンジョンだから、その類のトラップを偶然踏んで脱出できたと推測しているけど」
と、オーロイアが説明するが、ゲオルグはまだなにか隠しているようにも思えた。
とはいえ、これ以上追求しても、なにか出てくるとは思えないので、納得した仕草をするが。
「ここからは私が説明したほうがよろしいと存じますので、大変僭越ながら口を挟ませてもらいます」
と、ずっとオーロイアの後ろに立っていた〈ディネロ組合〉リーダー、エックハルトがそう言った。
オーロイアが目もくれず「ええ、お願い」と口にしていたことから、事前にこうなるよう打ち合わせていたのだろう。
「オーロイア様から隠しボスの情報を受け取った我々は早速、攻略すべく動き出しました。その上で、一つの事実が浮かび上がりました。どうやら隠しボスは数ヶ月前に出現したようです」
「つまり、なにかね? 今まで、隠しボスは存在すらしていなかったということかい?」
「ええ、ゲオルグ様の言うとおりです」
確かに、合点がいく話ではある。
かつてたくさんの冒険者たちがトランパダンジョンを攻略していたのに、それまで隠しボスの存在を確認できなかったのは奇妙な話だと感じていた。
だが、そもそも隠しボスが最近現れたというなら納得だ。
「とはいえ、今までいなかった隠しボスが唐突にダンジョンに出現するのは奇妙な話ではありますから、我々は攻略を急ぐことにしました。事前に、オーロイア様から頂いた情報もあり、隠しボスが非常に強力であることも把握していましたので、〈ディネロ組合〉の持つ最強勢力で挑むことにしたのです。幸いにも、隠しボスのエリアには人数制限もありませんでしたしね」
普通、ボスエリアには一度に入れる人数が決まっている。ガラボゾの町にあるダンジョンなら、最大6人までとなっているのが一般的だ。
「それで無事、倒すことはできたのですが、困ったことに初回クリア報酬が最悪なことが書かれていた情報だったのです」
そう言って、エックハルトはテーブルの上に大きな石版を置く。その石版には文字が彫られていることが遠目にもわかる。
「ちっ、やっぱり同じやつだったか」
と言って、ワルデマールも石版を懐から取り出す。
つまり、ワルデマールも隠しボスを討伐してきたということなんだろう。
「ええ、詳細については石版をお読みになればわかると思いますよ」
言われたとおり、ゲオルグは石版を手に取り、なにが書かれているか目で追った。
『宵の明星が輝くとき、獰猛な魔物がこの町に出現するであろう。この町の全戦力を用いてかかってくるが良い。さもなければ、この町は消滅するであろう』
書いてあることは非常に単純なことだ。
宵の明星が空に浮かぶのはおよそ2週間後。その日にレイドモンスターがこの町に出現する。もし、倒せなければこの町は消滅する。
「すでに、私共では非戦闘員の方の避難を始めています。もし、よろしければ、あなた方にも協力を賜りたい」
「ええ、それはもちろんだとも」
ゲオルグは了承する。
町の危機ならば、〈緋色の旅団〉のボスとして協力を惜しむつもりはない。
「ふんっ、俺はもうこの町の人間じゃねぇ。協力してほしいなら、他のやつに頼むんだな」
ワルデマールはそう言うと乱暴に立ち上がり、用は済んだとばかりにどこかに行こうとする。
彼が非常に腕の立つ冒険者だということをゲオルグは知っているため、協力してもらえたら戦力として非常に助かるのだが、彼の言い分にも一理あると思ったので、無理に頼むつもりはない。
他の者もそう思ったようで、退席する彼をとめる者はいなかった。
「大きな懸念点といえば、ギジェルモの不在でしょうね」
エックハルトの言葉にゲオルグも同意する。
レイドモンスターは全員で協力しないと倒せないモンスターだ。その点において、〈ディネロ組合〉と〈緋色の旅団〉においては問題はないだろうが、〈名もなきクラン〉は現状、リーダーが不在である以上、まとまるのは難しい。
先代のワルデマールがリーダーを務めてくれるなら、その問題も解決するのだろうが、さきほどの発言から、そうする気はないのだろう。
誰かいい人材がいればいいのだが、とゲオルグは静かに考えていた。
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