―49― ユニークスキル
ギジェルモとその一味はアンリのことをよく知っていた。
『永遠のレベル1』、それがアンリの蔑称だ。
低い攻撃力のせいでモンスターをまともに倒せないせいでレベルを上げることもできない。
その上、持っているスキルは〈回避〉という弱いとされるスキルのみ。
そして、アンリ自身は役に立たないくせに泣き虫。
だから、当然のようにアンリは取るに足らない存在として見下していた。
斧を使うまでもない。
それがギジェルモの判断だった。
この拳でアンリの顔面を殴ればいい。そうすれば、いつものようにアンリは泣きべそをかいて、俺の言うことを聞くはずだ。
だから全力で拳を振るう。
ブルンッ、と拳が風を切る音がした。
「あん?」
確実に当てたと思っていたが、アンリはそこにはいなかった。
「ユニークスキル」
声の方を振り向く。
そこにいたのはアンリだった。
アンリは瞳孔が開いた目でこっちを見ていた。そのなんとも言い難い表情に思わずギジェルモは戦慄してしまう。
「〈
「――あ?」
まずいッ! 反射的にそう思いながら、斧に手をかける。だけど、アンリのほうが何倍も動きが速い。
ザシュッ、と気がついたときは短剣で体を斬り裂かれていた。
「てめぇ!」
部下の一人が後ろからアンリに対して剣を振るっていた。
それに気がついたアンリが攻撃をかわしつつ、仕切り直しとばかりに距離をとる。
「親分、大丈夫ですか!?」
ギジェルモの怪我を深刻だとみた部下が駆け寄る。
「このぐらい大したことねぇよ」
気丈に振る舞いながら、回復薬を飲みつつ体勢を整える。この程度の怪我なら、回復薬を飲めば数分後には治るはずだ。
「どうなってやがる……?」
だが、不可解だ。アンリの攻撃力なら、ギジェルモの耐久力があれば傷一つつけられないはず。だというのに、こうして怪我を負わされた。
理由があるとすれば、アンリが口にした〈必絶ノ剣〉だろうか? そんなスキル、アンリは持っていなかったはずだが……。
「てめぇら、あいつをなんとかしやがれ!」
ギジェルモは部下に命令をくだす。
まぁ、なんにせよ。これだけの人数相手にアンリが敵うはずもない。決着はすぐにつく。
◆
怪我を負わせることができたか……。
剣に付着した血を見ながら、そんなことを考える。
〈
これが〈物理攻撃クリティカル率上昇・特大〉の修復が完了した後に、新しく手に入れたスキルだ。
ステータスを確認したら、こんな説明がされていた。
◇◇◇◇◇◇
〈必絶ノ剣〉
ユニークスキル。対象の耐久力を無視した攻撃ができる。(剣使用時のみ)
◇◇◇◇◇◇
元々クリティカル攻撃には一定の範囲内までの耐久力を無視することができるという効果がある。
ただ、クリティカル攻撃には一定の範囲内までのという条件がつくのに対し、〈必絶ノ剣〉はそういった縛りが存在しないようだ。
とはいえ、〈必絶ノ剣〉は〈クリティカル攻撃上昇〉と違い、MPを消費するタイプのスキルなため使いすぎは厳禁だが。
ギジェルモのような耐久力の高い相手には使い、それ以外には普通の攻撃をするよう使い分けるべきだろう。
「おらぁ、大人しくしやがれ!」
見ると、遠距離攻撃が可能な弓使いが数人並んで矢を放ってきていた。
「遅い――」
この距離なら〈回避〉を使わずとも一瞬で距離を詰められる。
「なっ!?」
近くに現れた僕を見て、弓使いが驚愕する。その隙に短剣を使って、弓使いの体を斬り裂く。
自分の低い攻撃力では、一撃で殺すようなことはできない。だが、それで問題ない。
殺さないで、じわじわと痛めつけてやる。
ついでに回復されると厄介なため、回復薬の入った小瓶も叩き割っておく。
「てめぇ!」
横から男が剣を振るっていた。
「だから、遅い」
ザシュッ、と剣をすり抜けながら短剣で斬りつける。ちなみに、回復薬を割っておくのも忘れない。
それから僕は、近くにいる者から順々に斬りつけていくことにした。
◆
「な、なにが起きてやがる……?」
ギジェルモは目の前の光景に困惑していた。
夢でも見ているんじゃないかと、そんな予感が頭をよぎるが自分の顔をひっぱたいて、やはり現実なんだと確認する。
なぜか部下が次から次へとアンリの手によって倒されていく。
「ふざけんな……ッ!!」
困惑の後に沸き起こった感情は怒りだった。
それはアンリ自身に対する怒りでもあったし、アンリに好き勝手させることを許している部下に対する怒りも含まれていた。
「俺が直接殺してやる!」
ギジェルモは巨大な斧を持ってアンリに背後から突撃をする。
とらえた……! アンリは他の者に意識を向けていて、こっちを見ていない。この距離なら、確実に攻撃を当てることができる。
ちらり、とアンリが一瞬だけこっちを見た。
「〈回避〉」
「な……っ!」
刹那、目の前からアンリの姿が消えていた。
「〈必絶ノ剣〉」
振り向く。
そこには短剣をすでに振り下ろしたアンリの姿が。
ザシュッ、とギジェルモの右腕が輪切りのように切り落とされる。
「うがぁあああああああああああ!!」
あまりの激痛にギジェルモは喚く。
だが、喚きながらももう一方の手で回復薬をとろうと手を動かしていた。
それをアンリが見逃すはずがなかった。
ザスッ、と回復薬の入った小瓶を斬り裂いてふせぐ。
「あがぁあ!!」
再びの激痛にギジェルモは再び絶叫した。
「アンリ、てめぇえええええ、許さねぇぞぉおおおおおお!!」
ギジェルモの怒りが頂点に達した。
なんとしてでもアンリをぶちのめす。その思いだけで、力が体中から湧き上がってきた。
「うるさい」
対してアンリはわずらわしいものを見るような目で冷たく言い放つ。
なんで、そんな顔をするんだ?
それは、戦っているときにする顔ではない。
気に入らない。
今すぐにでも、その顔をグチャグチャの泣き顔に変えてやる。
そんなことを考えながら、かろうじて動く左手で斧を握ろうとして――
「あ?」
なぜか体が真後ろに倒れていた。
ドスンッ、と体が地面に倒れる。
「な、なにが、起きた……?」
わからない。
なんで体が思うように動かないんだ。
「あ……」
自分の両足がアンリによって斬り落とされたことに気がついたのは数十秒後だった。
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