―45― もっとレベルをあげたい

「もっとレベルをあげたい」


 次の日、僕はそう口にしながら冒険者ギルドに向かっていた。

 ファッシルダンジョンのコボルトなら、苦労なく倒せるが、同じモンスターばかり倒しているとレベルが上がりにくくなる、という話がある。事実、昨日はそれなりの数のコボルトを倒したが、一度もレベルが上がらなかった。

 となれば、今まで一度も倒したことがないモンスターを相手にすべきなんだろう。

 例えば、今まで行ったことがあるパイラルダンジョンの人喰鬼オークやプランタダンジョンの巨大蟻ジャイアント・アントなんかが候補としてあがるんだろうけど、どちらも耐久力が高いモンスターなため、今の僕ではどっちも倒すのに苦労しそうだ。

 もっと、自分にあったダンジョンがあればいいんだけど。

 そんなことを呟きつつ、冒険者ギルドのダンジョンの情報が貼ってある掲示板を眺める。


「あ、いいのがあった」


 と、一つの掲示板を見て僕はそう言った。

 ここならレベル上げにちょうどよさそうだ。


「よぉ、アンリちゃん。こんなところでなにしてるんだよ?」

「――ッ」


 瞬間、後ろを振り向く。

 そこにはギジェルモの取り巻きの一人が立っていた。

 冒険者ギルドに入るさい、ギジェルモの仲間がいないことを確認したはずだが。僕より後に入ってきたか。


「実はアンリちゃんに教えてほしいことが――」


 話し終わるのを待たないで、僕は全力疾走でその場から逃げる。


「おい、待てよ――!」


 という言葉が聞こえるが気にせず走り続けた。


「ふぅ、一体なんの用だったんだろ?」


 冒険者ギルドからある程度離れ、後ろから追われていないとわかった上で、僕は立ち止まった。

 ギジェルモの仲間に関わったら、ろくなことにならないのはわかっているため、こうして逃げたが、今更僕になんの用があるというんだろうか。


「まぁ、いいか」


 どうせまた、僕からなにかを奪おうってことに違いないし、考えても仕方がない。

 それより、ダンジョンのことを考えよう。

 ラピドダンジョン。

 それが僕がこれから攻略しようとしているダンジョンだった。

 難易度はE級。攻略の目安はレベル13の冒険者が6人といったところ。


「グキュッ!!」


 早速、中に入ると現れたモンスターが牙を向けてきた。

 殺人角兎ジャッカロープ、巨大な角をもった兎型のモンスターで、このラピドダンジョンのメインモンスター。

 僕は、突撃してきた殺人角兎ジャッカロープの攻撃をさけつつ、短剣で切り裂く。

 斬られた殺人角兎ジャッカロープは、その場で動かなくなった。

 殺人角兎ジャッカロープは素早いが耐久力が低いモンスターとして知られている。だから、攻撃力が低い僕でも一撃で倒すことができた。

 まさにここは僕に向いているダンジョンだ。


 それから軽快にモンスターを倒しつつ、ダンジョンの奥へと進んでいく。今はレベルを上げたいので、出会ったモンスターは可能な限り、倒すようにしていった。


「これ以上、入り切らないな……」


 倒した殺人角兎ジャッカロープから魔石を取り出しつつ、素材袋に入れようとしてそのことに気がつく。


「もっと大きい袋を用意しておくべきだったかな」


 これ以上大きい袋を持つと動きが鈍くなると思い小さい袋を持ってきたが、後悔するならやっぱり大きい袋を持ってくるんだった。


「〈アイテムボックス〉みたいなスキルがあればなー」


 世の中には物をいくらでも持ち運びできるスキルがあるらしい。しかし、珍しいスキルのため持っているだけでパーティーの勧誘が絶えなくなるんだとか……。

 ないものねだりをしても仕方がないため、僕は素材を諦めて立ち上がる。


 ◇◇◇◇◇◇


 レベルが上がりました。


 ◇◇◇◇◇◇


「あっ」


 何体目かになる殺人角兎ジャッカロープを倒したとき、メッセージが表示された。

 これでレベルが8になったというわけだ。


「順調、順調」


 と口ずさみながら、僕はさらに奥へと進んでいった。


 気がつけば、目の前にボスエリアに続く扉が現れた。


「入るかどうか悩む……」


 ボスモンスターは一度入ったら、倒すまで外に出ることが許されない。

 しかし、僕の場合は壁を抜けるという裏技があるため、もし倒せないと判断しても外に出ることは可能だ。

 だが、ここのボスモンスター相手に壁抜けを使うのは難しいだろう。僕が壁をすり抜けるには、ボスモンスターに投げ飛ばされる必要があるが、ここのボスモンスターに限ってはそういったことが期待できそうにない。

 今まで、このダンジョンに来なかったのも壁抜けができないからだ。

 

「よし、やろう!」


 と、僕は中に入ることを決意する。

 今の僕なら倒せる相手のはずだ。

 そして、僕は自分の力で扉を開けた。


 毒大羽虫マリポーセ。毒の鱗粉を纏った巨大な蝶のようなモンスター。

 冒険者ギルドの情報によると、宙を舞いながら毒の鱗粉を風に乗せて飛ばしてくる。その攻撃に入るさい、毒大羽虫マリポーセは一度空中で停止するため、よけるのはそう難しくない。

 厄介な点は、僕は飛び道具を持っていないため、毒大羽虫マリポーセが空を飛んでいる限り攻撃ができないってことぐらいか。


「今は耐えるしかないな……」


 毒大羽虫マリポーセの風の攻撃をひたすらよけ続けていた。このままよけ続けていれば、いつかは地上にいる僕に攻撃しようと突撃してくるはず。その瞬間を狙うしかない。


「今だ――」


 いつまで経っても攻撃が当たらない僕に業を煮やした毒大羽虫マリポーセが苛立ちながら、地上に突撃してきた。


「〈回避〉」


 僕は攻撃が当たる直前にスキルを発動させ、横に回り込む。そして、短剣で羽を斬り裂いた。


「これでもう空は飛べないはずだ」


 羽に大怪我を負った毒大羽虫マリポーセは地面に墜落して、ジタバタし始める。

 こうなってしまえば、もう怖くはない。

 そこから一方的に僕が攻撃を繰り返すのみだった。気がついたときには、モンスターは倒れていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 レベルが上がりました。

 レベルが上がりました。


 ◇◇◇◇◇◇


「やった!」


 格上のモンスターを倒したからだろう。二つもレベルがあがった。

 これで僕のレベルはなんと10だ。

 レベル10になってやっと初心者を卒業したと見なされるのが冒険者の風習だ。これで僕も少しは一人前になれたのかもしれない。


 ◇◇◇◇◇◇


 アンリ・クリート 13歳 男 レベル:7→10(UP!)

 MP:96→99(UP!)

 攻撃力:30→41(UP!)

 防御力:61→66(UP!)

 知 性:68→72(UP!)

 抵抗力:66→70(UP!)

 敏 捷:1165→1172(UP!)

 スキル:〈回避〉〈剣技〉〈物理攻撃クリティカル率上昇・特大〉(修復中のため使用不可)


 ◇◇◇◇◇◇


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