―44― 渦巻く陰謀

「アンリがダンジョンの出入りをしている?」


 部下の報告にギジェルモは眉をひそめる。

 ここ数日、取り巻きたちにアンリを捜索するよう命じていた。その報告をたった今、受けたところだった。


「どっかのパーティーに拾われたのか?」


 と、一番ありえそうな事態を想像する。

 この町でアンリが『永遠のレベル1』と呼ばれていることを知らぬ者はいない。モンスターに傷を負わすこともできないアンリがパーティーに誘われることはないと思っていたが。相当な物好きでもいたのだろうか。


「いや、それがソロで活動しているようです」

「あん? どういうことだ?」


 取り巻きの言葉に首をかしげる。もし、本当にソロで活動しているなら、すでに死んでいなきゃおかしい話だが。


「俺たちも信じられなくて、何度も確かめたんですけど、一緒に行動している人は見つけられなかったんすよ」

「アンリが一人でダンジョンの中を走っているところを見たっていう目撃証言があがっているんです」


 と、次々と報告があがる。


「しかも、アンリが一人で〈人狼ウェアウルフ〉の素材を換金しに来たらしいですよ。換金所の者にお金を渡したら話してくれました」

「アンリがソロで〈人狼ウェアウルフ〉を倒したって言いたいわけか! そんなわけ、ねぇだろうが!」


 ギジェルモは思わず怒鳴ってしまう。

 すると、子分は「そうですよね……」と恐縮した様子で頷いていた。


「くそっ、そもそもアンリをこの手で捕まえたってやつはいないのか?」


 こんな探偵の真似事なんかしなくても、直接この手でアンリを捕まえて喋らせてしまえば済む話だ。


「それが、アンリを捕まえようとしても逃げられしまって」

「俺も一度見かけたとき捕まえようとしたけど、逃げられちまった」


 確かに、ちょこまかと逃げ足だけは速いやつだったことを思い出す。それでも、レベル1の冒険者を捕まえられないのは情けないとしか思えないが。


「親分、一つ報告があるんですが……」

「まだ、なにかあるのかよ!」


 苛立ったギジェルモは声を荒げる。

 それにビビりつつも子分は話し始めた。


「前、親分たちとアンリから〈水晶亀クリスタルタートルの小盾〉を奪ったことがあるじゃないですか」

「あー、そういえばそんなことあったな」


 取り巻きの一人が武器屋に入っていくアンリを見かけ、偶然近くで飲んでいたので嫌がらせをするために待ち伏せをしたんだっけ。


「てっきり俺たちは盗品だと思っていましたが、武器屋の主人に無理矢理吐かせたんですが、なんとアンリがお金を払って購入したらしいんですよ。しかも、〈水晶亀クリスタルタートルの小盾〉以外にも武器を何点か購入しているみたいです」

「どういうことだ……?」


 流石に困惑する。

 アンリにそれだけの金を稼ぐ手段があるとは思えない。


「都合の良い採掘場でも見つけたんですかね?」


 と、部下の一人がそう言う。

 確かに、それならあり得ない話ではない。

 モンスターを倒せないアンリが金を稼ぐ手段としてありそうなのは、鉱石や薬草の採取ぐらいだろう。


「おい、誰かアンリが鉱石なんかを換金しているって情報を握ったやつはいないのか?」


 そう聞くと、取り巻きたちは一様に首を横に振る。アンリをパーティーから追放した直後は、アンリがあちこちの換金所に出没しているという噂は聞いたが、最近はそういう話はめっきり聞かなくなった。だからこそ、ギジェルモはアンリは死んだと思っていたのだが……。


「どこかで働いているってわけでもないんだよな?」

「もしそうなら、俺たちの耳まで届きますよ」


 そりゃそうだ。この町のことなら、ある程度把握しているつもりだ。

 だが、そうなるとアンリの行動が益々不可解だ。


「とにかく、アンリを捕まえて俺の前まで引きずり出してこい!」


 それさえできれば、あとは殴ってでもすれば全部吐くだろう。


「「了解です!」」


 と、取り巻きたちは返事をし、それぞれ散っていった。


「これはなにかありそうだな」


 アンリはなにかを隠している。

 ギジェルモの嗅覚がそう断定していた。

 その秘密が金儲けに使えるんだとすれば、どんな手を使ってでも白日の下に晒してやる。


「グヒヒッ」


 ギジェルモは下卑た笑みを浮かべていた。


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