―40― ナイフを卒業する!

「いい加減、ナイフから卒業したいな……」


 オーロイアさんと別れ、冒険者ギルドへ行く途中思ったことを口にする。

 僕が武器として使っているのは魔物の解体で使うナイフだ。

 本来なら冒険者になったとき〈剣技〉や〈弓技〉など、その人に向いた武器のスキルを与えられる。

 だが、僕は〈回避〉という外れスキルしかもらえなかったので、こうして今でもナイフを使っているわけだ。

 無理矢理、短剣を使うってこともできないことはないけど。

〈剣技〉を持っていないと、剣そのものが持つ『攻撃力プラス100』といったステータスの恩恵を受けることはできないが、剣の切れ味が失われるわけではない。だから、使おうと思えば使えるが、もったいないことをしているような気がして、やっぱり剣を使うことに抵抗がある。


「だけど、新しいスキルを入手するのって難しいんだよなー」


 新しいスキルを手にするのは、一番最初のステータスをもらうとき、もしくはダンジョンの報酬の〈習得の書〉を使うぐらいだ。あとは、いくつかの条件が揃うことで手に入るスキルもあるらしいが、詳しいことまでわからない。


「んー、特に行きたいダンジョンないんだよなー」


 それから冒険者ギルドに行き、ダンジョンの情報を眺めるが、ちょうどよさげなダンジョンは見つからなかった。

 やっぱりトランパダンジョンに行き、〈習得の書〉をもらおう。そして、〈物理攻撃クリティカル率上昇・特大〉をさらに成長させる。もしかしたら、特大の上は存在しないってことでなにも起きないかもしれないけど。

 そんなわけで僕はトランパダンジョンに向かった。


 ふと、トランパダンジョンの攻略中、道中、遭遇する冒険者がいつもより多いことに気がつく。そういえば、オーロイアさんが隠しボスのことをギルドに報告したんだっけ。それが本当なのか確かめに来ているのかもしれない。


「「グギャァアアアアア!!」」


 途中、接敵した子鬼ゴブリンの群れと戦う。まだまだ僕のレベルは5と低い。倒せる限りのモンスターを倒して、レベルを上げないと。


「ふぅ」


 と、残り一体となった子鬼ゴブリンを倒したときのことだった。

 ピコン、とメッセージが表示されたのである。


 ◇◇◇◇◇◇


 剣を使った討伐が規定回数を超えたため、スキル〈剣技〉を取得しました。


 ◇◇◇◇◇◇


「えっ」


 思わぬメッセージに硬直する。

 まさか、欲しいと思っていた〈剣技〉が手に入るなんて。

 確かに、条件が揃うと手に入るスキルの存在は知っていたが、〈剣技〉もその一種だったとは思いもしなかった。

 確かに、コボルト子鬼ゴブリンをたくさん倒してきた。正確には剣ではなくナイフを使ってたけど。まぁ、ナイフも剣の一種ということなんだろう。

 それにしても、剣でモンスターをたくさん倒せば〈剣技〉が取得できるなんて聞いたことがないが、他の冒険者は知っているのだろうか?

 まぁ、普通は最初にステータスを入手した際に、手に入るようなスキルだしな。他の武器に適性がある人は、わざわざ剣なんて使わないだろうし、意外とこのことって知られていないのかもしれない。


「これで、強い剣を使うことができる」


 例えば、〈旅立ちの剣〉を装備すれば、攻撃力がプラス100される。それだけで、相当の戦力アップを期待できる。


 その後、無事ボスエリアの手前まで辿り着くことができた。

 運よく一度も転移トラップを踏まないでここまで来れたのは初めてな気がする。


「〈回避〉!!」


 そして、水晶の巨兵クリスタルゴーレムの攻撃をわざと受けて報酬エリアまで壁抜けをした。


「よしっ、〈習得の書〉を使おう」


 もうすでに、宝箱から報酬を取り出していた。

 さて、一体なにが起きるんだろう。

 ワクワクしてきた。


 ◇◇◇◇◇◇


 スキル〈物理攻撃クリティカル率上昇・特大〉の所持を確認。

〈物理攻撃クリティカル率上昇・特大〉のレベルアップを実行。

 予期せぬエラーが発生しました。

 問題を検出しています。


 ◇◇◇◇◇◇


「ん……?」


 見たこともない文言に首をかしげる。

 問題というからにはなにか良からぬことが起きたってことだろうか?

 見た感じ、スキルになにかしらの不具合が起きてるみたいだけど。

 スキルやステータスに不具合が起こるなんて、聞いたことないが、思い返せば僕は壁抜けという、他の人とは違うスキルの使い方をしていたから、もしかしたらその代償なのかもしれない。

 この前も〈名称未定〉という謎のアイテムを手に入れたし、あれも不具合の一種なのかもしれない。

 困ったなぁ、と思いながら待ち続けていると、新しいメッセージが表示された。


 ◇◇◇◇◇◇


 見つかった問題:存在しないスキルの取得を実行

 これらの修復を実行致しますか? なお、修復には数日以上の日数がかかると予想されます。

    『はい』  ▶『いいえ』


 ◇◇◇◇◇◇


「えっと、『はい』を押すしかないよな……」


 迷わず『はい』を押す。

 すると、また新しい文言が現れる。


 ◇◇◇◇◇◇


 修復の準備をしています。

 修復を開始しました。


 ◇◇◇◇◇◇


 それから、数分ほど眺めていたがメッセージが変わることはなかった。

 数日かかる、と言っていたし、これは待つしかなさそうだ。


「とりあえず、今のステータスを確認してみようか」


 と、言いつつステータス画面を開く。


 ◇◇◇◇◇◇


 アンリ・クリート 13歳 男 レベル:5

 MP:94

 攻撃力:23

 防御力:57

 知 性:66

 抵抗力:64

 敏 捷:1160

 スキル:〈回避〉〈剣技〉(NEW!)〈物理攻撃クリティカル率上昇・特大〉(修復中のため使用不可)


 ◇◇◇◇◇◇


「修復中のため、使用不可……」


 と、書かれている文言を口に出して読む。

 どうやら〈物理攻撃クリティカル率上昇・特大〉が使えなくなってしまったようだ。代わりに〈剣技〉を入手したので、攻撃力を上げるためにも強い剣を入手する必要がありそう。


 強い剣といえば、ファッシルダンジョンの初回クリア報酬〈旅立ちの剣〉を真っ先に思いつく。

 だけど、〈旅立ちの剣〉は刀身が長く、高い敏捷を活かしたい僕とは相性が悪そうだ。

 今まで、ナイフを使っていたことだし、短剣のような刀身が短い武器のほうが僕には向いている気がする。


「そうと決まれば、武器屋に行こう!」


 と、僕はわざわざ拳をあげて、そう宣言していた。


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