―38― 謎の場所

「うっ……」


 僕は声をあげて、自分が倒れていることに気がついた。

 確か、影と戦って隠しボスの部屋の壁をすり抜けたんだ。直前の記憶を思い出しつつ、僕は立ち上がる。


「ここ、どこだ……?」


 目の前の光景を一言で現すなら、暗闇だ。

 空もなく地面もない。地平線の彼方まで暗闇が続いている。


「ダンジョンの狭間はざま


 ふと、頭によぎった言葉が口をついて出る。

 聞いたことがあった。ダンジョンの外観は一見小さな建物に見えるが、実際中に入ると、決まって巨大な迷宮になっている。つまり、外から見た面積と中の面積が一致してないというわけだ。

 そのため、ダンジョンの中は、現実とは次元の異なる空間と言われている。それってつまり、ダンジョンの壁に穴を開けても外にでることができず、なにもない空間に辿り着くってことだ。それをダンジョンの狭間と冒険者たちは呼んでいた。

 そう、目の前に広がっているこの暗闇こそがダンジョンの狭間なんじゃないだろうか。


「そうだ、オーロイアさん!」


 そうだった。オーロイアさんと一緒に壁をすり抜けたんだった。そのことを思い出しつつ、暗闇のせいで何も見えないため地面をペタペタと手で触りながら、なにかないか確かめようとする。


 プニッ、と柔らかい感触が手を伝わった。なんだろうこれは? と、プニプニと柔らかいものを触りながら正体を確かめようとする。


「ふぇ」


 突然、甲高い声が聞こえた。


「うわっ!」


 驚いた僕はそのまま後ろに転倒した。


「もしかして、オーロイアさん?」


 どうやら僕が触っていたのはオーロイアさんの体だったみたいだ。だけど、声をかけても返事がないことから気を失っているみたい。

 それより、さっき触っていたのは随分とプニプニ柔らかかったけど、オーロイアさんのどこを触っていたんだろう……? まさか、無意識のうちにセクハラとかしていないよね……。うん、深く考えないようにしよう。


 もう少し周囲の情報が欲しいなと思い、僕は手でなにかないか探ろうとする。

 すると、壁のようなものが近くにあった。

 恐らく、この壁を僕たちはすり抜けたのだ。だから、この壁の向こう側にはさっきまで戦っていた隠しボスがいるはず。


「困ったな。これじゃあ地上に戻れそうにない」


 壁をすり抜けるには、モンスターに投げ飛ばされる必要がある。だけど、この暗闇にはそんな存在がいるようには思えない。


 と、次の瞬間キラリ、と遠くでなにかが光ったような気がした。

 光ったということは、そこにはなにかがあるってことだ。


「行ってみよう……」


 光の正体がなにかはわからない。

 とはいえ、このまま立ち竦んでいてもなんの手がかりも得られそうにない。

 だから、僕は迷いなく光の正体を確かめるために向かうことを決めた。


 まだ気を失っているオーロイアさんを置いていくわけにもいかないため、背中に背負ってから僕は暗闇の中をひたすら進んでいく。

 それから僕は途方も無い時間を歩き続けていた。周りの景色が暗闇のまま変わらないから、余計そう思ったのかもしれない。途中、光との距離があまりにも縮まる気配がないため、空に浮かんでいる星を目指して歩いているんじゃないだろうか? と、考えたりもした。それでも僕はひたすらあるき続けた。

 そして、体力が限界を迎えそうだというとき、光のあるところまで辿り着くことができた。


「魔石……?」


 光の正体を見て、僕は真っ先にそれを思い出す。

 モンスターを倒せば体内に必ず眠っている魔石。目の前の物体はそれに近いと思った。

 だけど、今まで見てきたどの魔石よりも神々しい輝きを持っており、一回り大きい気もする。

 魔石のような物体は宙に浮きながらクルクルと回転して、歪な円形をしている魔石と違って、目の前のそれは立方体の形をしている。その立方体の周りには衛星のように、これまた小さな立方体が回っていた。

 じっくり観察してみると、魔石とは大分異なった形状をしているな、と考えを改める。

 魔石じゃないとしても、これの正体には見当がつかないけど。


「そうだ、ステータスを確認すればいいんだ」


 ふと、そのことに思い当たる。

 所持したものなら、〈鑑定〉スキルがなくても、正体を確認できる。

 だから、僕は立方体の物体に手を伸ばそうとして――


 ◇◇◇◇◇◇


【警告】

 未実装データを入手すると、重大なエラーを引き起こす可能性があります。それでも入手致しますか?

    『はい』  ▶『いいえ』


 ◇◇◇◇◇◇


「なに、これ……?」


 突然表示されたメッセージに戸惑う。

 未実装データー? 重大なエラー? どちらもピンとこない言葉だ。

 とはいえ、警告と書かれている以上、ここは慎重に考えたほうがよさそうだ。

 ふと、僕は周囲を観察した。

 暗闇が延々と続くだけで、この空間にはこの光以外にはなにもないことがわかる。

 なにが起きるかわからないけど、他にてがかりがあるわけでもない。だから、わずかな可能性に賭けて僕は『はい』の位置まで手を滑らせる。


 ◇◇◇◇◇◇


 未実装データを入手しました。


 ◇◇◇◇◇◇


 と、メッセージが現れた瞬間、眩い光を放ち始めた。

 目が焼き切れるんじゃないかと、思うぐらい眩しいので僕は腕で必死に目を覆う。


「えっ……」


 気がつけば、僕はダンジョンの外にいた。

 背中にはまだ眠っているオーロイアさんがいる。そして、右手にはあの立方体の物体があった。


「結局なんだったんだ……?」


 重大なエラーとか言っていたが、特にそれらしいことは起きていない。

 起きたことといえば、こうして無事ダンジョンの外に飛ばされことだろう。


「一応、解決したってことでいいのかな?」


 謎は残ったままだけど、無事こうして帰ることができたんだ。だから問題は解決したってことでいいんだと思う。


―――――――――――――


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