第3話:美月との出会い

 それから数年後。何度も恋をしては別れてを繰り返し、やがて本気の恋をすることを諦めていた頃、モヒートというバーで一人の女性と出会った。それが今の恋人の美月だった。


かいさん聞いてくださいよぉ…」


「はいはい。聞いてますよ。あぁ、お客さんいらっしゃい」


 話を聞くと、その日彼女は付き合っていた女性に振られたばかりだった。私が小百合ちゃんにフラれたのと同じ理由で。それを聞いて私は、今夜は相手が居ないから丁度いいと思った。


「……私も同じ理由で女の子にフラれたことがあるので気持ち分かりますよ」


「……そうなんですか……」


「男も好きになれる女は駄目ですよ。結局、最終的には男を選ぶんで」


 その頃の私は愛に怯え、愛に飢えていた。寂しさを埋めてくれる人なら誰でも良かった。彼女のことも、最初は弱みにつけ込んで利用するだけのつもりだった。しかし


「……全ての人がそうでは無いと思います。私の友達に、海外で同性と結婚したバイセクシャルの女性がいるんです。だから、決めつけないでほしいです」


私の言葉が癪に触ったらしく、嫌われてしまった。


「……おっと、それは失礼」


「あと私、初対面でほいほいついていくほど軽くないですよ。遊びたいなら他をあたってください」


 そう言って彼女は私が握った手を振り払う。「残念でしたねお客さん」とバーのマスターに笑われ、悔しくて、その日はウイスキーを一杯だけ飲んで店を後にした。




 それから数日後、駅で雨宿りをしていると、彼女とばったり会ってしまった。彼女は私と目が合うと去っていったと思いきや、コンビニに入り、傘を買って小走りで近づいてきた。


「あの、どうぞ」


「……今、お金持ってないんですけど……身体で払えばいいですか?」


「そういう冗談言うならあげませんよ。濡れて帰ってください」


「ははは。すみません。冗談です。……わざわざありがとうございます。お金はちゃんと……あー、ごめん。札しかないや」


「じゃあいいです。お釣り出せるほど小銭ないですし。そのまま傘もらってください。それじゃあ私はこれで」


 傘を押し付け、歩き去ろうとする彼女。彼女との縁をここで途切れさせるのは勿体無い気して、思わず引き止めてしまう。


「待って、お金払います」


「え。良いですよ。お釣りないですし」


「要りませんよ。お釣りは。代わりに……」


「……離してください。警察呼びますよ」


「い、いや、身体で払えとは言いませんよ。言わないから」


 彼女に強引に千円札を握らせる。


「お釣り代わりに、連絡先ください」


 私がそういうと彼女は冷ややかな目で私を見たが、ため息を吐きつつも連絡先をくれた。


「意外とあっさり連絡先くれるんですね?」


「……なんとなく、あなたとここで縁を途切れさせるのはもったいない気がしたので」


「えー?なんですか?私のこと狙ってるんですか?遊びたいならいつでも大歓迎ですよ」


「遊びません」


 この時も、今も言わないが、今思えばこの時すでに彼女の優しさに惹かれていたのかもしれない。


「私は、本気の恋愛しかしないって決めてるんです。今まで私を弄んだ彼女達と同じことはしたくないので。付き合っていない人と肉体関係を持つことはしません」


 こうして私と彼女の、友人というには微妙な関係が始まった。

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