第17話 その名の意味
ゲブラー共和国からの帰りの馬車の中。
会談では壁際に控えていたグリムが、思い出したと口を開く。
「この前変な奴に会ったんですよね」
「変な奴とな?」
「ええ、無粋な奴で、急に出てきて急に消えたんですよ」
「ほう?握手はしておいたか?」
アスタロトにからかわれたグリムは、少しイラっとして「してません」と、ぶっきらぼうに言い放つ。
青年は笑って、グラスに注がれた酒を飲んでいた。
グリムが言葉を続けるまでは。
「名前は聞きました。アダムって変な名前で……」
――パリンッ
アスタロトが持っていたグラスに罅が入る。
「今……なんと?」
「……教皇サマ?怖いんですけど」
アスタロトの顔から笑みが消えていた。
初めて見る彼の真面目な表情に、グリムは引きつりながら答える。
「だから、アダムって名前らしいですよ。聞いたことでもあるんですか?」
「……。ああ、お出ましか……」
青い青年は独り言のように呟いた。
「何?知り合いなんです?」
「知り合いではあるな。知り合いたくはなかったが」
奥歯にものの挟まったようなアスタロトの言いようにグリムが痺れを切らした。
「じゃあどんな奴なんです?」
「死神だよ」
アスタロトは筆舌に尽くしがたい目で空を見据える。
その瞳には何の感情も無かった。
「いつだってただ一人を付け狙う死神だ……。奴さえ大人しかったなら、前の世界でもうまくやれたのかもしれない」
しかしその声には、恨みの様な響きがこもっていた。
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