第10話 肉の戦い
俺たちは対ベルフェゴールに向けての作戦会議を開くことにした。
薄暗い地下通路の中で作戦会議が行われる。
「まずベルフェゴール本体に近づくにあたり王城に行く手前の障害をかたさなくてはならない」
「あの肉壁は邪魔ですからのう」
神官が頷く。
肉壁か、あの城を覆っていたものだろうか?
「そんなに硬いのか?」
「ああ、肉は扉を塞ぎびくともしない、それに素早く動いて刺し殺そうとしてくる」
なるほど。
だが一体ベルフェゴールの目的は何なんだ?
ベリアルが言っていた『あの方の復活』のために血を集めているのではないのか?
住人を洗脳して外から来たものを殺す。
血液集めではなさそうだ。
「肉壁については救済者のクロイがどうにかしてくれるようだ」
「ああ、俺に任せてくれ、といっても実物を見ないとどのくらいで切れるのかがわからん。一度肉壁まで案内してくれるか?」
レノンは頷く。
「もちろん俺が付き添う。護衛も何人かつけて行こうと思っている」
「ほうそれは頼もしいな」
「王城に入ってからの話だがここは元王子の俺が道案内をする。そこからは高位の神官以外はここに戻って身を隠しておいてくれ」
「分かりました王子」
神官たちが皆頭を下げる。
俺は片手剣を磨き少しでも切れ味をあげようとしていた。
武器の手入れは息をすることよりも大切だ。
それは俺の師匠から教わった教訓みたいなもんだ。
しかし何かを見落としている気がする。
ただ漠然とそう思う。
俺はベルゼブブがいた世界を思い出す。
やつのいる世界には虫型のストレンジがいてベルゼブブ自体も虫のような体をしていた。
そして《腐敗魔法》と《瞬間移動》、《眷属召喚》などを使っていた。
後で調べるとそれは地球でのベルゼブブの伝説と酷似していた。
今回も一緒ならどうだ。
ベルフェゴールは怠惰の名を与えられた悪魔だ。
その姿は醜くストレンジにもその特徴が顕著に現れていた。
そして何だったかな。
ベルフェゴールは一体どんな悪魔だったか思い出せない。
洗脳と心を操る能力はもう確認した。
だがまだあったはず。
俺は必死に思い出そうとするが思い出せない。
「いいかクロイ?」
レノンが話しかけてきた。
俺は考えに夢中で何も聞いていなかった。
「すまん。聞いてなかった」
「じゃあもう一度言う。王城に入ったらすぐに王座の間に行く。おそらくベルフェゴールはそこにいるからだ。そして今選抜した能力の高い神官がお前の戦闘のサポートをする。俺はクロイと一緒に戦う。そういう作戦だが問題ないか?」
「ああ、だが一つ頼みがある」
「なんだ?」
「ルスペルカも連れて行っていいか?」
レノンは驚いた顔をしたあと信じられないとばかりに俺を見る。
「その子はまだ子供だぞ。とてもベルフェゴールと戦えるとは思えない」
自分でもおかしいことはわかっていた。
でももう危険な目にあってほしくない。
「俺の近くが一番安全だ。俺を信じてくれ」
レノンはしばらく黙り思いを巡らせる。
そしてため息をした後に俺を見る。
「お前は正気なのか? 子供を危険なところにわざわざ連れて行くなんて」
レノンは少し怒っているようだった。
それは俺もわかっていた。
今から行くところは危険だということは。
しかし俺の考えは変わらない。
「俺が守る。俺がルスペルカを守り通す」
「お前の意見はいい。問題はルスペルカ自身だ」
レノンはルスペルカに尋ねる。
「お前はいいのかルスペルカ?」
するとルスペルカは大きく頷く。
「いいよ。だっておじさんと一緒にいれば安全だったもん」
「ほんとにいいんだな」
「うん!!」
するとレノンは信じられないというふうな顔をした後呆れ顔で俺を見る。
「どうなっても知らんぞ」
「責任は俺が持つ」
するとレノンは装備を整えると歩き始める。
それに続き神官たちもついていく。
俺はその後からルスペルカとともに後を追う。
俺はルスペルカを見る。
ルスペルカは頬を膨らまして怒っているようだった。
「なんで私が戦えないのよ」
「お前はまだガキだ。誰かを傷つけたことのない人間が誰かを傷つけるような真似をさせたくなかったんだろヤツは」
「ふーん」
「だがお前は鍛えればいい
するとルスペルカは嬉しそうに歩く。
つないでいる手から嬉しさが伝わってくる。
「私、おじさんみたいになれるかな?」
「いやなれない。相当努力しないとな」
すると一人の神官が近づいてくる。
「可愛いお子さんですな」
「いやこの子は俺の子供ではない」
「ああ、それは失敬。謝罪ついでに飴玉をあげよう」
神官は飴玉をルスペルカにあげる。
こいつ飴玉を渡したかっただけか。
ルスペルカは嬉しそうに飴玉をもらう。
俺は神官に尋ねる。
「お前の名はなんだ?」
「私はエイドと言う。高位神官をしている。よろしくおねがいしますクロイさん」
「うん。ときにお前には子供はいるのか?」
するとエイドは悲しそうな顔をする。
「娘はベルフェゴールに呪われました。突然神を殺すと言い出し私に向かってホークを突き刺そうとしてきた。だから私は逃げたんだ」
「……。それはすまん」
「いやいいんだ。クロイさんがベルフェゴールを倒してくれたら娘も元に戻るはずだ」
「ああ、俺は必ずベルフェゴールを殺す。この命に変えてもな」
するとルスペルカが俺に質問する。
「そうだ、おじさんは魔法は使えないの?」
「俺の魔法が知りたいのか?」
「うん!!」
「まあ子供に話すような魔法じゃない」
「意地悪」
俺は少し微笑む。
ルスペルカなりに明るい話をしたかったのだろう。
それにしても狭い地下通路だが敵がいなさそうで助かったな。
しかしなんでこう胸がもやもやするんだ。
何かを見落としている気がする。
俺はここの地形を考える。
道は狭く4メートルの幅、王城と繋がっていているが肉壁で今は王城との通路は塞がっている。
上には洗脳された住人たち。
そして下水が流れている。
うん?
下水。
俺はすべてを思い出す。
そうだベルフェゴールは便器や排泄物を好むという伝説がある。
つまりここはヤツのテリトリーだ!!
「レノン。ここは危ない。挟み撃ちに会うぞ!!」
「何を言っている。まだ肉壁は遠いぞ」
すると後ろからスルスルと何かが飛んでくる。
俺はすぐにルスペルカの頭を下げて身をかがめる。
そして触手のようなものがエイドの頭に突き刺さる。
「なんだ?!」
「クソ!!」
俺は片手剣で触手を切り裂こうとする。
しかしカナリの硬度を誇っていて切り裂こうにも切り裂けない。
エイドは即死だったが触手が次の獲物を狙っている。
俺はコートから料理包丁を取り出し触手を切り裂く。
触手は力なく落ちて動かなくなる。
その間に神官たちがパニックになって前方に走り出す。
それをレノンが止めるよう叫ぶ。
「待て!! 前方にもやつがいるんだぞ!!」
すると前からも触手が伸び神官たちを殺していく。
レノンは腕を構え魔法を放とうとする。
「《フレイムショット》!!」
火の玉が触手に当たりよろけるが大したダメージは負っていない。
「ベルフェゴールは聖なる力に弱い。神官たちは光属性系の魔法を使え!!」
俺は大声で叫んだ。
俺の声で何人かの神官たちは魔法を唱え始める。
触手はものすごい速度で次々と神官たちを殺していた。
しかし神官たちは魔法を唱える。
「《ホーリーアロー》!!」
「《シャイニングレイン》!!」
二人の高位神官が魔法を唱える。
光の矢と雨粒みたいな大量の魔法攻撃が触手に降り注ぐ。
触手はダメージを負いしばらく動けなくなる。
俺はその隙きを突いてナイフで触手を切断する。
切断された触手は力なくその場に崩れ落ちる。
俺は後ろから大声で叫ぶ。
「今だ!! 怯んでいるうちにいけ!!」
言葉に押され神官たちは走る。
その先頭にレノンがいた。
レノンは次に来る触手を神官たちに教え前衛で壁となる。
なかなか強いがこのままでは囲まれて終わりだ。
俺は後ろから伸びてくる触手を切り落とす。
やはり下水を通り攻撃してきていると見たほうがいいな。
ということはさっき作戦を立てていたあの開けた空間は制圧されたと見て間違いないだろう。
俺は前にいるレノンに言う。
「もっと速く!! 後ろから触手が伸びている!!」
「待ってくれ。前からも来てるんだ!!」
このままではまずい。
仕方ない、ダークマターは温存したかったがそうも言ってられない。
俺は料理包丁をコートにしまい、片手剣を取り出す。
そしてダークマターを剣に纏わせる。
能力名は《
剣をダークマターで強化する能力だ。
俺は後ろの触手をある程度切ると一歩踏み込み前方から迫る触手を切り払う。
「前は俺が切り伏せる。神官とレノンは後ろからくるやつを足止めしてくれ。それとルスペルカを頼む」
「わかった!!」
俺は前方から来る触手を薙ぎ払いながら前に押し進む。
すると黒紫色の明かりが見えてきた。
「あれが肉壁だ。クロイ頼む!!」
俺は全身の力を使いダークマターを根源から引き出す。
すると俺の体は硬い皮膚に覆われ頭から角が生え虫のような顔になる。
俺はベルゼブブの能力を開放した。
そして素早い動きで触手を破壊しつつ《眷属召喚》でハエを大量に召喚する。
俺は弾丸のようにハエたちを肉壁に突っ込ませる。
チリも積もれば肉だって破壊できる。
鋼鉄のような肉壁はハエたちによって穴だらけになる。
ハエは俺のダークマターで強化してある。
しかしすぐに再生してきている。
なんて回復力だ。
俺は大声で叫ぶ。
「後ろの触手は無視しろ!! 穴に入れ!!」
俺たちは穴に飛び込む。
「ま、待ってくれぇぇぇぇ!!」
しかし何人かの神官は穴に入れず触手の餌食になった。
神官の悲鳴が聞こえて穴は閉じていく。
「クッ!! まさか下水から侵入してくるなんて」
レノンが地面に拳をぶつける。
俺は周りを見る。
残った神官は2人ほど。
ルスペルカはレノンが守ってくれた。
だがこの人数でベルフェゴールと戦うのか。
しかし俺には切り札がある。
それをどう使うかで勝敗は決する。
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