第39話:シーカーとしての実力

 装備を注文した翌日ノエルはエイリスとリーナを連れてセルタス商業区異跡に来ている。名目上はエイリスの護衛と言う形で幾つかの車両を自動運転で追従させている。

 ノエルが戦闘要員となりリーナがエイリスの補佐兼予備戦力となっている。エイリスは自前の強化服と銃を持っているので気休め程度の戦闘能力を持っているが基本は異跡に行っての高額異物を選別して荷運びする為に来ている。


 名目上はエイリスの護衛と言う形での依頼だが指令系統はノエルが握っている。ノエル及びフェンリルはこのセルタス商業区異跡に詳しく戦闘を避ける方法も知っている。

 ノエルの案内の元向かうのはセルタスモールだ。まだ大量に異物が残っており金銭的余裕のないリーナが主体となって荷運びをすることになっている。

 いつも通りの狙撃を済ませたノエルはそのままセルタスモールの荷物搬入エリアと思われる場所に車両を停車する。


「さて、まずは回復薬があるらしい2階に行きましょう。その後3階の大型の大型の異物はその後で」


「それなら私が行くわ。あそこにそんなに人数を割かなくても良いでしょう?それなら二人で高値で売れそうな異物を選んで運んでおいたらどう?」


 エイリスの提案にノエルが気を効かせて出来るだけ稼がせる方向ですすめる。ノエルは一応十分な貯金もあるので二人を優先させた。今回の報酬の分配方法は依頼への貢献度をエイリスが判断し基本等分という事で話が決まっている。フェンリルの地図データは無償提供だが強化服のエネルギーや弾薬は経費としてそれらを抜いて異物を全てエイリスが買取ったその買取の金額が今回の報酬となる。


 この報酬の算出方法は仲の良くないシーカーグループでやれば大問題に発展する方法だが。今回のメンバーであれば大した問題は無いと考えこの報酬の配分方法が採用された。


 ノエルは黙々と回復薬を持たされた保存用大型の保存袋に次々と入れる。今は時間的余裕もあるので出来る限り入る様に考えて詰め込んでいく。


『良かったのですか?無償の善意も同然の事をして』


 フェンリルからそう言われたノエルは改めて自分のした事を考える。


『そうね、確かに私らしくは無いかもしれないわね。でもたまには慈善活動をしてみたら最近の不運も解消されるかもしれないじゃない?最近は人に襲われてばかりだったもの、少しは運を回復したいわ』


 そんな返答をされたフェンリルは返答に困ってしまった。

 フェンリルは管理人格だ。運などという物はあまり考慮に入れていないが、確かに最近のノエルはノエルを狙ったシーカーに襲われたりと少々不運と言えるだろう。今回の件でノエル本人が致命的状況に至っているわけではないし、ノエル本人がそれで満足して友好関係を築けるなら得になると考えたのならば無理に反対する必要は無いと考え、これ以上は何も言わなかった。


『ノエル?一つ言っておきます』


『何?』


『私はノエルが経済的にも生存率的にも危機に陥った場合ノエルを優先します。強制的にも強化服や身体を操作しその危機から脱するための行動します。例えリーナやエイリスが死ぬとしてもです。よろしいですね?』


『分かってるわ。私も自分を優先する。自分の身を投げだして助けるなんて幻想を持ってないし。ヒーロー志願者でもないわ。今回の件も恩を売っておくためってだけよ?目の前で落ち込まれて次の日死んでたら寝覚めが悪いもの』


『それなら私からは何もありません。精々私達も死なない様に致しましょうか、寝覚めが悪いですから』


 ノエルはかなりの数を袋に入れると一回に止めた車両に詰め込むため歩き出す。このショップ内は幸い警備ロボも巡回するロボも居ない為棚り美味しい異跡と言えるだろう。そのアドバンテージ活かして大量の


『そう言えば。フェンリルの事って誰にも言っていないし秘密にしてるけれどこれで良いのよね?』


『そうですね、特に何も言わなかったのですが管理人格を所有していると発覚すれば。自由が奪われ厳重な警備のある施設に入れられるでしょう』


 そんな事を言われたノエルは。自分が研究所に入れられた自分を想像して思い切り嫌悪を顔に出す。


『ですが管理人格なら恐らくバレますね。ですがそれはそれで最初からいる前提で話を進めた方が良いでしょう。それだけ交渉のテーブルに乗りやすくなりますから』


『そう言うものなの?そこら辺詳しくないのだけど』


『その辺は場数と言われますし管理人格相手なら私に任せて貰ってもいいです』


『それなら任せるわ』




 ノエルが回復薬の詰め込みを終わらせ3階に上がったノエルは周囲の状況を確認し二人の方へ向かう。情報収集機器が収集したリーナとエイリスの位置情報をフェンリルがノエルの視覚情報に上書きし透過しているように見せる。

 まだ異物収集を続けているようで遠くで異物を異物保護袋に入れる作業を続けていた。ノエルが作業している二人の所に着いた時には大型の有機転換炉を運んでいる最中だった。


「あっ、丁度いいところに!ノエル!ちょっとこれ運ぶの手伝って」


「いいけれど…車に乗るかしら?」


「多分私が用意したドレットライトなら乗ると思います」


 その後も高性能な強化服の性能を発揮したエイリスとナノマシーンと強化服の性能を活かしたノエルの二人で大型や中型の有機転換炉をドレットライトに運び込んだ。その間にリーナは他の情報端末やエネルギーパック、有機転換炉程ではないが大きめの異物をテキパキと車両に積んでいく。

 リーナはそもそもノエルよりもシーカーとして先輩であり異物捜索において高額そうな異物を探し出し、効率的かつ素早く運び出していく。こういった点は戦闘ばかりしてきたノエルには無い物だ。


『やはりリーナはシーカーとしてはノエルよりも格上なのだという事が分かりますね。見習ってください』


『言われなくても分かってるわ。異物捜索としての技術は回数をこなさないと駄目ね』


 シーカーとしての実力は何もモンスターを倒す事だけではない。異物を収集する技術も重要なファクターである。

 戦闘能力だけなら中堅に近づいたノエルだがシーカーとしての実力という点ではノエルは全く足りていないのである。ノエルは数度異跡に潜っただけで、素人を少し脱しただけの異物捜索技術しかない。

 その点リーナはしっかりと異物を選別し、高価そうなものを選んで保存袋に入れていく。同じことをノエルがフェンリルの補助抜きで覚えるのはだいぶ先の事となるだろう。




 休憩を時折挟みながらも三人は警戒を怠らず異物の搬入を終わらせた。

 中には衣類をメインに販売する店舗もあった、ノエル達は目を輝かせ異物回収のバックに詰め込んだ。


 異界の衣類はノエルのワンピースドレスを始め強靭で、それでいて肌触りがよくそのほとんどが高級品だ。女性のシーカーは性能も確かに重要だがやはり見た目を気にする事も多く、異物の強靭な下着を手に入れようと躍起になる事も珍しくは無い。

 それはノエル達も同じだった。ノエルは服屋がある事は事前に知っていたが優先度が高くはなかった、衣類は消耗品だったしそこまでの興味がなかったと言うのが大きい。だが今回大量に異物を収集できる機会もあり、最近ちゃんと気にし始めているので報酬の対象外として、それぞれ好きな服を持ち帰ることを提案する事にした。それに二人は了承し撤退予定時間までの間に好きな服を持って帰ることにした。幸い三人とも好みは全く違うので取り合いになることも無くむしろお互いに服を勧め合う形で衣服を収集した。



 異物収集を終えてノエル達はエイリスの家に戻ってきた。

 先日欲に目が眩んでノエルに大量のシーカーが挑んで返り討ちにあった事はそれなりに情報が出回っていた。そのおかげか今回の異物収集を無駄な戦闘も無く終わらせることが出来た。

 あまりにもノエルの事を調べようとした者が多かったようだがノエルは表向きの情報は大した事をしておらず。精々先日の防衛戦に参加した程度の事しか分からなかった。ノエルとレイブン財団との依頼等はレイブン財団側で情報統制が行われている


「本当にありがとう、この恩は必ず返すわ!」


 リーナがエイリスの家で異物の総額計算を待っている際にそうノエルに頭を下げた。


「シーカーとして無知だった私にちゃんと教えてくれたから今私は此処に居るのよ。それに口調もね?色々貴女のおかげだったから多めに恩を返しただけ。だから私が死なないうちに返してね?」


「勿論よ。そう遠くないうちに倍返しで返すわよ」


「期待せずに待っているわ」

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