第38話:貸一つ

 帰宅したノエルはアドレナリンも落ち着き、急激な疲労感がノエルを襲う。それを回復薬を飲み少々無理矢理疲労感を回復し食事の準備や入浴の用意を始める。


『今日みたいな事は本当にやめてくださいね?』


『分かったわよ。もう…この話5回目よ?』


 ノエルが都市に帰ってくるまでの間にフェンリルはノエルにこれでもかと説教を通り越して懇願をしていた。


『私そんなに信用なりませんか?』


『そう言う訳じゃ無いのよ?ただ…私もし貴女が居なくなったらと思ったら…ね?』


『私は貴女とずっといますよ。これは契約で結んでいますしから。私達管理人格は契約の内容を破ることが出来ませんからね、そんなに心配なら此処で忠誠でも誓いましょうか?』


 ノエルは驚き、食材を切っていた手を止めてフェンリルの方を見た。


『じょ、冗談でしょう?』


『いいえ、本気ですよ?言ったではありませんか。私の本質は本来従順な忠誠心の高さです。これでも軍隊の統括用管理人格ですから』


『そ、そう…じゃあ…まぁ…これからも末永くよろしく?』


『えぇ、よろしくお願いいたします』




 翌日ノエルはエイリスの家にやって来た。異物と昨日の戦利品の売却もそうだが今日はオーダーメイド強化服の製作依頼の為だ。

 オーダーメイドは使用者の身体をかなり精密に検査を行う。血液検査、心拍数、血圧、使用ナノマシーン、筋肉の分布等々多種多様様々な項目を検査しその人に最適化された強化服を生産される。


 ノエルがエイリスの家でエイリスの準備が終わるまで待っていた時だった。玄関のインターホンが鳴る。

 エイリスが出れない状況の様だったので代わりにノエルがインターホンの映像を見るとノエルも知る顔だった。


『リーナどうしたの?』


『ノエル?あーうん。ちょっとね』


 インターホンの主はリーナだった。暗い顔を浮かべたリーナを一先ず知人である事も考え入れる事にした。家主であるエイリスもリーナであれば許すだろうし何かあればノエルが対処できるだろう。リーナは装備を殆どしておらず最低限の武装だけだったからだ。


 戻ってきたエイリスに状況を説明するとエイリスも賛成し家の中に入れた。とりあえずお茶を渡し話を聞き始める。


「それで?リーナはなんで表情になってるの?」


「あーうん。簡単に言うとね、ウルフフラッグ抜けてきたのよ。その時に強化服とか支給されてたやつは持ってかれちゃって。今日は装備を揃えに来たのよ、武器は幸いあるけど強化服がちょっとね…」


 そこまで聞いたノエルは少し考えた。幸い金銭的にはかなり余裕がある。そして今日は丁度オーダーメイド強化服の注文日だ。


「じゃあちょっと私に付き合ってもらいましょうか」


 その言葉の意味を真の意味で理解したのは二人だけだった。一人はフェンリルもう一人はエイリスだった。


「お姉様!?い、良いんですか!?オーダーメイドの相場は知っておられますよね!?」 


「知ってるわ、それに二人分なら何とかなるわ」


 何の話をしているのか何となく想像ができたリーナはみるみるうちに顔を青くし、ノエルの方を向く。


「まさか…」


「えぇ、そのまさかよ。ただし、これは貸よ、何時か返して?」


「何言ってるの!?受け取れる分けないじゃない!」


 そう言うリーナを半ば無理矢理持ち上げてエイリスが用意した車へ運ぶ。エイリスがあわあわしているのを無視してノエルは車の中に押し込んだ。


「ノエル!?私が使っていた装備なんてたかが総額で2億いかない程度よ!?そんなの貰えないわよ!」


「いいじゃない、2億くらいの強化服よ?その代わり何時かこの貸を返してもらうだけよ」




 総合病院で身体検査を二人分終わらせて、そのデータを持って工房へ向かう。

 工房は都市でも壁内にある事が多い。今回の依頼するカスケード工房は少々特殊な工房で異物やモンスター素材を特に使い強化服や義体を作っている。それ以外にも武器等を作っているそうだがある種呪われたような装備を作る為武器をそこに依頼する者は一部の物好き以外は居ない。壁外にある工房ではあるが壁の傍にある事に代わりは無く。基本的には紹介制であるそのため企業や熟練したシーカーからの紹介でないとこの工房には依頼できない。


 カスケード工房に着いたノエル達は早速その工房の扉を開ける。

 独特の薬品のような匂いや、まだ生きた生物モンスターの組織が発する生臭さ等様々なにおいが鼻をつく。

 ノエルが中にいる工房の主と思われる人に声をかける。大きな白いひげを携えたその爺さんはその声に振り返るとノエルの方を見た。


「貴方がカスケードさん?」


「そうだが?あぁ、今日来るって言ってたやつか?」


「そう、私はノエル。それとこっちがリーナとエイリスよごめんなさいね急に追加を連れてきちゃって」


「はっはっはっ構わんぞ?面白い物も見れたしな!」


「えっと、はじめましてリーナです」


「エイリスです、よろしくお願いいたします」


 軽い自己紹介を済ませたノエル達は早速強化服の要望を伝え意見のすり合わせを始める。


「しかし珍しいな、直接来る奴なんて久しぶりだぞ?」


「そうなの?」


「あぁ、要望と使ってほしい素材と生体データだけ送って来やがる。あと金」


「素人意見なのですが。意見すり合わせとかした方が良いものができるのでは無いんですか?」


 エイリスのその質問にカスケードは肯定を示すように頷く。


「勿論そうだ。こっちにも製作可能な限界ってのはあるし異物の性能もまちまちだからな。だからこうやってしっかり会いに来た奴にはちゃんと本気で作るのさ」


 その後それぞれ強化服に対する要望を伝えエイリスからの異物の供与も合わせて装備製作に入ってもらった。その段階でノエルは自分の持つ異物の中で何度も命を救ってもらった迷彩コートを提供した。


「うーむ、こりゃあ良いな。この技術情報本当にいいのか?」


「えぇ、でもあんまり技術流出はしないでよ?」


「あぁ、分かった」


「その代わりと言っては何なのだけど、TSSR対物ライフルの上位機種が欲しいの。私もこの銃にずっと助けられたけど最近ちょっと性能の限界を感じてるから」


「交換条件にしちゃずいぶんとこっちに有利すぎないか?」


「それだけいいのを期待しておくわ。折角工房と知り合えたんですもの」

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