第174話 担当者の意見
そっと手をあげて発言の機会をもとめたのは、CTOを務める落合常務執行役員兼開発本部長だった。
白馬機工における最高技術責任者である。
技術がわかるだけではCTOにはなれない。会社経営・執行における技術の方向性についてかじ取りを行う経営者、それがCTOだった。
「技術目線では良い会社だということは理解しています。新規技術にも期待できると考えています。ですが、出資すべきかという点については私は素人だ」
落合CTOは真奈美に視線を向けた。
真奈美は、その視線に気づき、緊張を高めた。
「実際にDDで情報精査し、契約交渉を行った、担当者の意見を聞かせてもらえますか」
担当者の意見、すなわち真奈美の意見を求められている。
会場の全員が、その質問の意図を察知し、再び真奈美に視線が集まった。
真奈美が不安そうに山田に視線を向けると、『大丈夫、しっかり答えれば問題ないよ』という表情が返ってきた。
常務からの質問だ。ウダウダ言っている場合ではない。
(……ええい、ままよ)
真奈美は落合に向かい、自分の考えを、思ったままに素直にそのまま述べた。
「宮津精密様のDDを行う中で、非常に誠意がある会社だと感じました。雰囲気も明るく、森社長も人望がある方でした。管理面もしっかりしています」
落合は表情を変えずに聞いている。真奈美は意見を続けた。
「事業本部も提携に期待しています。10億円の出資は決して軽いものではありませんが、出資を機に事業拡大に貢献できればと考えております」
真奈美の発言が終わると、落合の表情が緩んだ。
「わかりました。やはり実際に交渉にあたった方の意見は貴重だ。ありがとう」
こうして、すべての質疑応答を終えた3名は経営会議の席から退出した。
その後の議論がどうなったのか、詳しくはわからない。
あとは、幹部たちの議論の結果を待つだけだ。
MA推進部のオフィスに戻ると、山田は真奈美の肩をそっと叩いて労をねぎらった。
「おつかれさま。ベストを尽くせたね」
「はい……1年分緊張しました」
「ははは。あとは、ゆっくり結果を待とう」
そして、二人はそれぞれの席へと戻っていった。
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