第173話 経営会議

 真奈美からすれば元上司である経営管理部部長が司会を務めている。


「それでは、宮津精密への出資検討状況について、MA推進部から説明をお願いします」


 真奈美のような係長レベルが経営会議で説明を担うことも、珍しいがないわけではない。

 とはいえ、何しろ社長以下幹部勢ぞろいという錚々たるメンバーを相手にしなければいけないシチュエーションだ。冷汗が止まらない。


 鈴木部長は当然自分から説明する気は毛頭ないらしくだんまりしている。

 事務局席では、ついこの間まで一緒に仕事をしていた仲間たちが不安そうに心配している。


(これは悲劇だ。やはり13日の金曜日だからか……)


 ……小巻の不謹慎な発言を思い浮かべると、なぜか少し心が落ち着いた。


 山田が『大丈夫』といわんばかりの安心した笑顔で真奈美を促した。

 真奈美はごくりとつばを飲み込むと、意を決して説明を開始した。


「それでは、状況説明をさせていただきます。お手元の資料をご覧ください……」


 宮津精密の概要。

 出資契約の概要。

 出資の目的、建付け。


 シナジーや協業はすでに片岡本部長が話しているだろうから割愛し、現状の検討状況を正確に伝えることに注力した。


「……という経緯を経て、最終契約につきまして宮津精密様との内容合意に至りました。この後、投資委員会に向けて社内手続きを進めていこうと考えております」


 報告を終えると一気に緊張の反動が押し寄せてきた。

 重役を前にひとりで説明する役目は重かった。

 両方の膝が震えている。でも、とにかくなんとかやりきった。


 役員から質問が始まった。

 これについては、山田が落ち着いてひとつひとつに回答していった。


 真奈美は、役員と山田のやりとりを聞くうちに、なんとか落ち着きを取り戻していった。


(……山田チーフの安定さは、やっぱりすごい。こんなときにも緊張しないのかしら)


 こうして一通りの質問が終わったかに見えたが……

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