第170話 リベンジ

 翌日。山田と真奈美は鈴木部長室に入った。

 リベンジである。


 真奈美は臆することなく堂々とSOMの分析を説明した。

 しっかりと論理だった説明を受けて、簡単には押し返せなくなってきた鈴木部長の表情は、これまでのかったるいものではなく、険しいものとなっていた。


「市場規模はわかった。それを掴んでいく方法が必要だ。市場調査や販路確保の状況は?」


 山田が冷静に答える。


「それを固めていくために協業を早期に開始していく必要があります」


 鈴木が苦々しい顔でうなった。


「……鶏と卵だな。出資して協業をしないと、出資妥当性判断に必要な具体的な策は見出せないか。これをCFOがどう捉えるか。やはり、具現化できなければ出資はだめだと言われるのではないか?」


(――きた!)


 二人は、鈴木が術中に落ちたタイミングを逃さなかった。


「鈴木部長。事業本部では、明日の経営会議にて本件の効果も含めた下期経営計画を提案しようとしています」

「ですから、経営計画の審議にて、CFOのご意見も確認できるかと思います」


 鈴木は、はっとした表情で二人を見た。

 決定権を自ら手放したことに気付いたが、もはや手遅れだった。


 苦々しい表情、そして何かを飲み込む表情……いくつかの表情が移り変わった後、鈴木は落ち着きを取り戻して答えた。


「……じゃあ、明日の経営会議の結果を待とう。そこで合意が取れたのであれば、おれも稟議を回付する許可を出す」


 それは、事実上、鈴木部長を漸くクリアした瞬間だった。


 部長室からでた二人。

 真奈美は声を出さないように気を付けながら、満面の笑みで両手で作ったガッツポーズを山田に送る。

 山田も、右手のこぶしを力強く握って笑みを返した。

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