第169話 経営計画

「あ、あの、ちょっと変な考えが頭によぎっただけで……」


 真奈美は慌てた。思わずつぶやいた独り言が拾われるとは思っていなかった。


「聞かせてください。私も気になります」


 片岡もTVの向こうから追い打ちをかける。

 真奈美は恐る恐る、口を開いた。


「あ、あの、例えば、今回のプロジェクトを経営計画に組み込んでしまえば、投資委員会の前に経営会議での審議事項となるなーっと……」


 片岡は、はっとした表情を浮かべた。


「なるほど……投資委員会に上申するためには鈴木さんの許可が必要。でも経営会議なら鈴木さんと関係なく直接幹部に説明できるということか」

「あ、でも、経営計画に入れれば即座に事業本部の経営ノルマとなります。未達の場合は責任問題になりますので……」


 経営管理で経営会議を運営してきた真奈美は、そのあたりの仕組みは十分理解している。経営計画の達成可否は事業本部全体の部門評価に直結する。

 真奈美は恐れおののいて下を向いたが……


「佐々木君、今ちょうど、下期経営計画の審議を準備していたな」


 通常、6月の経営会議で次の下期経営計画の第一回審議が行われる。


「はい。13日金曜日の経営会議で審議予定です」

「……明後日か」

「片岡本部長……まさか本気で?」


 通常、このタイミングで経営計画に大きな修正が入ることなどありえないのだが……


「……うん。やろう。酒井さん、いいアイデアだ。ありがとう」

「で、でも……」

「心配するな。どうせ出資したら背負わなければいけない責任だ。任せてくれ。よーし、面白くなってきたぞ。でも、鈴木さんにも仁義は切らなきゃな。事業本部は本気だと伝えてください」


 がははははは。片岡は自身の責任をもって前に運ぼうとしている。


 真奈美は、本当にこのような提案をしてよかったのか不安に感じ、山田に視線を向けた。


 山田は『大丈夫』という笑顔を真奈美に送った。

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