第425話◆最後のパーツ
「うおおおー!! カメ君ナイスウウウウウウ!!!」
「カーーーッカッカッカッ!!」
カメ君が沖から連れて来た小型のシーサーペントをフィーーーーッシュ!!
いやーーーー、釣りって楽しいなああああああ!!
「島暮らしも悪くないな? しばらく住み着いてのんびりしたい気がするぜ」
ドリー達に何も告げず来てしまったという状況でなければ、のんびりバカンスを楽しみたいところだ。
昼飯のカレーを平らげた後は少しのんびりと休憩タイム。
腹がいっぱいで苦しいし、休憩も重要だ。
動く時は動く、休む時は休む。冒険者でなくとも仕事はメリハリを付けるほうが捗るのだ。
というわけで、食事の後は出発予定の時間までのんびりと釣りを楽しんでいる。
カメ君が獲物を連れてくる、俺が釣り上げる。時々やばいのが混ざっている時はカリュオンが倒してくれる。
なんとも平和で効率的な釣りタイムである。
昼食後、俺が釣りを始めたのを見て、カメ君が海に入って行ったかと思うと魚を連れて来始めて入れ食いが始まって、時々シーサーペントやクラーケンの小型のものも混ざっている。飯のお礼かな? 義理堅いカメだなぁ。
入れ食い状態の釣りはすごく楽しいけれど、カメ君大丈夫? 自分をエサにしていない? ホントにエサになっちゃわない?
え? そんなヘマはしないかな? 頼もしいなぁ!!
最初のうちは害のない魚や小型の魔物だったのだが、だんだん大きな魔物を連れて来るようになって、釣るより先に陸地に乗り上げてくる状態だ。
もはや釣りではないのだが……いや、ある意味釣りなのだが、釣り竿を武器に持ち替えて対処している。
だんだん大きな魔物を連れて来るようになってカメ君は非常に楽しそうである。
俺、これと似たような状況を知っているぞ!
アベルがトレインをする時、最初のうちは控えめで、だんだんこの程度はいけるだろうと強い奴を連れて来るようになって、最終的にボスクラスを連れてくるやつ。
しかしここは遠浅の海のようなので、やばいくらいでかいのが来ることはないだろう。
先ほどから少し大きめの魔物が乗り上げて来ることがあるが、それも俺より少し大きいくらいなので、シーサーペントやクラーケンにしては小型なほうだ。
うっかり食べやすいサイズのバハムートを連れてきてくれないなぁ。
あれ? カメ君が海に潜ったまま戻って来ないぞ? 大丈夫か? まさか本当にエサになっていないよな?
おーい、カメくーん!!
バシャーーーーッ!!
なかなか戻って来ないので海を覗き込んだら、カメ君が海中から勢いよく飛び出して陸地に上がって来た。
「お帰りカメ君。カメ君は釣り名人だなー、今度は何を連れて来たんだい?」
「クァッ!?」
海から飛び出して来たカメ君がヨチヨチと走って俺の後ろに隠れようとしたところで、海から伸びてきた吸盤だらけの触手がパシッとカメ君を捕まえた。
これはタコ……じゃなくてセファラポッドかなー? なかなか戻って来ないと思ったら結構大きいのを連れて来たな。
「おっとぉ?」
カメ君を掴んだ触手をカリュオンが掴んで、海から触手の主を引っ張り上げた。
海の中から出てきたのは頭から足の先まで入れると三メートルちかいセファラポッド。
カメ君にしてはでっかいのを連れてきたなー、セファ焼きがたくさん作れるなー。
「釣りだけど釣りじゃないんだよなぁ」
カリュオンが引っ張り上げたセファラポッドを俺が剣で足から頭部分を切り離しておしまい。流れるような役割分担である。
釣りといえば釣りではあるが釣り竿が全く仕事をしていない。
「カメッ子のおかげで大漁だったなぁ」
「カッカッカッ」
自らをエサにした見事な釣りを褒められて、カメ君は満足げである。
「よっし、そろそろ出発時間だな。カメ君が手伝ってくれた分はカメ君に渡すからなぁ。一緒に行動して一緒に狩りをしているから、カメ君も俺達のパーティーメンバーだ」
「カッ!? フシュゥゥ……」
今回の釣りの成果はカメ君の活躍のおかげだからな、ちゃんとカメ君にも分け前を渡さないとな。
「あ、持てない? そうだよなぁ、じゃあカメ君の取り分はカメ君が持てそうなもので海ではとれないものにするか」
「カッ!」
そしてこの後の道中、カメ君は俺の肩の上でひたすら果物やお菓子をもちゃもちゃと食べていた。
尻尾の次は右の後ろ足、その次は左後ろ足。ここまでは移動距離があまりなく左右の後ろ足の回収はすぐに終わった。
回収する都度、甲羅にくっつけて甲羅しかなかった像はだんだん亀の形に近付き、残りは頭だけとなった。
亀のケツのあたりから頭まで移動するのは少し距離があったが、それでもあまり大きくない島、夕方前には頭の部分にあたる岬に到着した。
祠から見える広い海。太陽は西の水平線へと近付いていた。
そして目の前には今日一日ですっかり見慣れた光景――大量の土砂が入り口からあふれる祠。
少し違うのは他の祠と違い、頭部の祠は他の祠に比べ随分大きく二階建て構造。中央の神殿っぽい建物ほどの広さはないが、一階は俺とカリュオンが中に入って動き回っても狭く感じないくらいの広さがあった。
一番奥には海の見える窓、その前に設置された祭壇の上で像の頭部と思われるものが燃えていた。
そんな今までとは少し違う大きな祠だったがやることは同じ。
すっかりお馴染みとなった物量消火を終えた俺の手の中には、亀っぽい像の最後のパーツがあった。
亀の頭……じゃなくて鮫!! えぇ? サメエエエエエエ!? 鮫の頭!?
毎度お馴染み土砂消火で手強い炎を消した後、土砂を回収して埋もれている頭の部分パーツを回収したのだが、何故か鮫。
胴体と手足はすごく亀。尻尾は少し魚っぽくはあるけれど、それでもまぁ亀に生えていても違和感はない。
「鮫だなぁ~」
「ああ、どっからどう見ても鮫だよなぁ。しかもちゃんと、頭の部分と割れ目が噛み合うんだよなぁ」
頭部は鮫の頭というか鮫の体。
亀の体から頭の代わりに鮫がにょきっと生えている感じだ。
そのフォルムから、首の長い亀の頭部だけ鮫になっているように見えるのだが、明らかに亀の首ではない部分がある。
首の左右には鮫のえらのような切れ込みがあり、三角のヒレが飛び出している。そして背中にも特徴的な鮫のような背びれ、どう見ても甲羅から飛び出しているのは亀の首ではなく、鮫の体と頭である。
何これ、くそ強そう。
「とりあえずくっつけてみようぜ。割れ目はぴったり合うんだろ?」
「ああ、割れ目はちゃんと合ってるから、像の頭部はこの鮫で間違いないと思う」
割れ目が合致するということは、パーツとしては間違いないのだろうが、なんだろうこの生き物。
形状からして、海の神獣っぽさがあるなぁ。どこかの地域の主か守り神?
じゃあなんで、バラされて燃やされていたんだ?
まるで何かを封印しているように。
はたしてこれをくっつけても大丈夫なのだろうか?
不安が胸を過った。
しかしこれをくっつけなければこの島からは出られない。
うう~ん……。
「念のため、何が出てきてもいいような体勢にしといてくれ」
「なんとなく大丈夫な気がするんだよなぁ。ま、用心に越したことはないな」
「カッカッ」
カリュオンからは呑気な返事が返ってきた。カメ君もうんうんと頷いている。
ここまで平和だったんだ、ここはカリュオンの勘とカメ君を信じて何事もなく終わってパーティーに合流できると思いたい。
そして、これをくっつけるとカメ君ともお別れかな。
たった一日だけだったけど、なんとも感情の豊かなカメ君で、すっかり情が移ってしまい別れが寂しく思えてくる。
しかし、俺達は仲間のところに帰らなければならないし、海の魔物であるカメ君を連れて帰るわけにはいかない。
意を決してパーツの継ぎ目を合成スキルを使って柔らかくした。
「じゃあ、くっつけるぞおおおおおお!!」
自分に言い聞かせるように気合いを入れてペタリ。
ペッ!!
「え?」
「像がなんか吐き出したな? 紙か?」
何が起こってもいいように構えていたが、首のくっついた鮫亀の像から丸められた紙が吐き出されただけだった。
広げてみるとまたしても知らない文字。
「また海エルフ語か?」
「だなー。像を祭壇に置いて満月の夜を待て――だってさ」
は?
「俺、昨夜一度も月を見てないけど?」
「安心しろ、俺も見てない」
いや、全く安心できないし。
西の水平線にかかりかける太陽のすぐ上、今にも消えそうなほど薄く細い白い月が見えた。
満月って約半月後じゃねーか!!!
やばい、さすがにやばい。半月も行方不明になるといろいろやばい。
残してきたメンバーがめちゃくちゃ心配しそうだし、死んだと思われそうだ。
冒険者をやっていると、ちょっとした事故に遭遇し年単位で行方不明になってひょっこり帰ってくるとか、わりとよくある話なので半月程度の行方不明は短いほうだが、それでもダンジョン内の海しかない階層で行方不明は最悪の事態を想定されて大騒ぎになってしまうのが容易に想像できる。
アベル作のストーカーバッグでなんとかならないか? 何なら装備に三姉妹の覗き見機能も付いている。
……空間魔法で歪んだ場所だったらそれも正常に作動しない可能性があるな。
無人島で強制スローライフはすごく楽しそうだが、状況が状況だけにそんな呑気なことを言っている場合ではない。
すぐに戻れないとしてもなんとか連絡手段はないだろうか。
「満月まで戻れないのもやばいけどさ、祭壇が埋まっちゃってるのもやばくね?」
「クァ~……」
「ああーーっ!!」
誰だーーーー!! 祭壇を埋めた奴はあああああ!! 俺だーーーーー!!
この後、祠に詰め込んだ土砂を回収して掃除が終わる頃にはすっかり日が暮れていた。
無闇に建物の中に土砂を詰め込んではいけない、覚えたぞ!
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