第424話◆魔力は美味しい

 祠の扉が開き中に入るとすぐにムアッとした熱を感じ、目の前には甲羅部分の時と同じように祭壇の上に炎に包まれた何か。

 祠自体の大きさが、俺とカリュオンが一緒に中に入ると肩が当たるくらいの小さな祠なので、祭壇も小型のものだ。

 試しに水をかけてみたが、まぁた消えない系だ。

 はー、仕方ねーなー。しかし雪は溶けて面倒くさかったので、今回は土砂を突っ込んでみた。

 砂や土は消火の常套手段!! 俺は何も間違っていない!!

 いったん祠の外に出て、祠の中に向けて土砂をドッシャアアアアアア!!

 後は収納で土砂を回収するだけ!!!

 簡単楽ちんお手軽合法消火作業!!

 俺、こう見えて効率重視だからさー、できれば楽して成果を得たいわけよ。







「ふーーーーーー、ごり押しはやっぱ正義だな!!」

「グランはさっきも同じことを言ってたな。ま、ごり押しは正義だけどな!!」

「カー……」

 一仕事終えた俺の肩の上でカメ君のため息が聞こえた。

 え? 雪は後始末大変だったから今回はやり方変えたけど、ダメ? 雪よりかなりマシくない?

 目の前には入り口から土砂が溢れた祠。俺の手の中には黒い鉱石でできた爬虫類系の前足――鋭い爪が生え、水かきも付いていてすごく亀の足っぽい。

 ミッションコンプリートッ!!


 祠の中に土砂を詰め込み無事消火完了!!

 雪と違って溶けないのでベチャベチャにならないのは良かったが、今度は燃えていたものがどの辺りに埋まったかわからず回収に少し手間がかかった。

 土砂を少しずつ収納に回収しながら掘り出したので地味に面倒くさかった。雪崩と土砂崩れ、一長一短だな。

 


「さっきの神殿っぽいとこで像を直せって書いてあったんだよな?」

「ああ、甲羅の置いてあった祭壇には、パーツを集めて修復すればここから出ることができるって書いてあったぞ」

「それじゃあ、この前足と甲羅をくっつければいいのか? よっし、そういうことなら俺の得意分野だな! 任せとけ!!」

「カッ!?」

 ハハハ、カメ君、そんな心配せず俺に任せておきたまえ! 

 俺の土砂消火法で無事に左前足部分を回収したというのに、カメ君は納得いかない顔をしている。


 祠に詰め込んだ土砂を回収後、小休憩ついでに祠の前に座り込んで甲羅の左前足のような部位を見比べていた。

 俺の横ではカリュオンがバケツを外してボリボリとクッキーを口の中に突っ込んでいる。その肩にはカメ君。

 カリュオンにクッキーを分けてもらいながら不安そうに俺の手元を見ている。

「安心しろ、グランは大雑把なところはあるが器用で物作りは得意なんだ。壊れた装備だってちょちょいって直しちまうんだぜ? 像の修理くらい楽勝楽勝」

「フカァ……?」

 おいカメ、その疑うような反応はなんだ!?

 ちょいちょいって直しているわけではないが、まぁ石像をくっつけるくらいならたぶん大丈夫。

 合成スキルで鉱石を少し溶かしてくっつけてもいいし、装備を修理するための接着剤も素材に合わせたものを各種取り揃えている。


 くっつける前にまずはよく観察。向きを間違えてくっつけたら大変だからな。

 ふむふむ、甲羅から前後の足と頭と尾が割られたようにもぎ取られている感じか。

 像だけれど痛そうだなぁ。

 甲羅だけだと前後はわかりにくいが、割れ目をよく見れば左前足と割れ方が噛み合う部分がわかる。

 これでくっつける場所を間違えることはない。

「ここかなー」

 とりあえず形を合わせてみようと、噛み合いそうな部分を仮に合わせてみるとピタリと嵌まった。

 燃えていたせいだろうか、やや鉱石が欠けて隙間がある。これは似たような色で接着剤になる素材を使って埋めてしまうか。

 こういう作業は好きだしわりと得意な方だ。

 直せって、指示だったみたいだしくっつけてしまっていいよなぁ?

 幸い魔力を含んでいる類の鉱石のようで、合成スキルを使ってみたらその部分が柔らかくなったので、接着する面に魔力を通して柔らかくしてペタッ!

 微妙に欠けている部分は似たような色の魔粘土を足して、自然に見えるようにするか。

 継ぎ目が残っている部分はヤスリで綺麗にみがいて、鱗の細工が少し欠けたり削れたりしているのも直したいな。ついでに足の爪とかも研いで鋭くしたいな。

 やべぇ、ちょっと楽しい。


「グラン、くっついたなら次に行こうぜ。昼までに尻尾まで行くんだろ?」

 ついつい細かい作業をやりたくなってきたところで、カリュオンに声をかけられて我に返った。

 そうだ、のんびりしている時間はない。

 太陽の位置を見ると昼までにはまだまだ時間はあるが、今日中にみんなのとこに戻らないといけないから時間のかかる作業は諦めよう。

「悪い悪い、つい楽しくなっちまった。そうだなぁ、細かい作業は全部のパーツが集まって時間があったらだな」

「フンフン」

 くっつけた亀っぽい像を収納に入れておこうと思ったら、カメ君が俺の手元を覗き込んできた。

「どうだー、綺麗にくっついただろー。他のパーツもちゃんとくっつけてみせるから安心したまえ。完成したらカメ君とはお別れになるけどな」

 カメ君は可愛いのだけれど、今日中にこの島を脱出したいのであまり情が湧くと困る。

 海の生き物だし、うちにはすでに色々住み着いているから絶対お持ち帰りはしてはいけない。

 俺よりカリュオンに懐いているが、カリュオンは生き物を飼うようなタイプじゃないし、やはりカメ君とは島を出る時にお別れだ。


「よっしゃー、残りのパーツもサクサクっと集めますかーーー!!」


 収納に亀っぽい像を収めてカメ君を肩に乗せて立ち上がり大きく背伸びをした。

 まだまだスタートから二箇所目。これから回らないといけないところの方が多い。

 サクサクっと集めて、島から脱出するぞおおお!!










 左前足に続いて右前足も無事に回収。その後は尻尾、これもチョロかった。

 びよーんと長く先端がヒラヒラとした衣のような尻尾部分を回収し終わって甲羅にくっつけた頃には、ちょうど太陽が頭の上にきていた。

「亀だと思ったら尻尾は長いのかー。そういえばカメ君も尻尾が長いな」

「フッ!?」

 カメ君の尻尾は長くて先端が魚の尾びれっぽくなっている。一方、像の尻尾も長くて先端がヒラヒラしているが、カメ君のものより更に大きなヒラヒラで観賞用の魚のようだ。

 この島の亀は足は川の亀っぽくて、尻尾は長くて魚の尻尾系なのかな?

 生き物って地域で特徴があるもんだし、そういうものなのだろう。ダンジョンの中だし気にしない気にしない。


 島の尻尾部分にあたる地形は前足の部分より長細く、そして曲線状に海にはりだしており、その曲がって出っ張った部分に祠があった。

 まぁ、その祠は現在、火を消すために俺が詰め込んだ土砂で半分くらい埋まっているけれど。

 最初はドン引きしたような表情をしていたカメ君も、雪崩と合わせて四回目ともなればすっかり慣れてしまったようだ。

 結局、雪崩消火はやめて回収が楽でカメ君も寒くない土砂消火を使っている。


「おう、腹も減ってきたし予定通り昼飯だな! 昼飯は何にするんだ?」

 右前足を回収した時も果物を齧っていたよな? というか道中もちょいちょい南国フルーツ回収していたよな?

 俺も回収していたけれど!!

「海といえばやっぱこれかな! カレー!!」

 カリュオンと二人だから、一人当たりの見張り番の時間も長くなったので、見張り中に時間を持て余してカレーを作ってしまったのだ。

 ここならカレーの匂いで周囲に迷惑はかからない!! 合法カレー!!

「カレーってあれか、前に王都のダンジョンにいった時に作ってたすごい匂いの奴」

「そうそう、今回はレッサーレッドドラゴンの小腸を使ったドラモツカレーだ」

 あんだけでかいのだから、少しくらい小腸をちょん切って食べてもバレないバレない。

 もちろん米もちゃんと炊いてある。


 カメ君はカレー大丈夫かなぁ? 別のものがいいかなぁ?

「フンッ! フンッ!」

 作って熱いまま鍋ごと収納に突っ込んだカレーを収納から取り出すと、カメ君が鼻息を荒くしながら後ろ足で立ち上がって首をニョイーンと伸ばした。

 前足を大きく上に伸ばして、これはクレクレアピールだな!? 魔物だしカレーくらい平気かー。

「カメ君の分もあるから安心していいぞ。レッサーレッドドラゴンの肉を使ってるけど平気かな? 水属性系の別の何かにするか?」

「フンッ!」

 前足で力こぶを作るような仕草をしたので、たぶん大丈夫の合図なのだろう。

 亀なのにジェスチャーが豊富だなぁ。ちっこいけれど実はご長寿亀なのかな?



「ドラゴンの内臓かー、ポーションの材料のイメージしかなかったけど、食ってみると歯ごたえも良くて美味いな。さすがにドラゴンの内臓はポーションにしてなくても魔力を食ってる感あるなぁ」

 少し癖のある部位を使ったのだが肉好きのカリュオンは気にいってくれたようだ。

 少し歯ごたえのあるコリコリ食感。肉の脂と共に染み出してくるドラゴンの魔力。

 質の良い魔力を持つ生き物の肉はだいたい美味い。

「ああ、料理していくうちに魔力も抜けていくから魔力酔いするほどは残ってないけど、やっぱランクの高いドラゴンの魔力が蓄積される部位は、素材の持つ効果の影響が体に出そうだ。これは火属性のドラゴン系だから身体強化ポーション程ではないがしばらく筋力が強化されるかな?」


 ポーションにせず料理してしまえば素材の効果はほとんど消えてしまうのだが、ランクの高いドラゴンの魔力が蓄積されやすい部位ともなると、調理方法によっては効果が僅かに残ることがある。

 身体強化のポーションは効果が大きいものほどきつい副作用も出やすく使いどころが難しい。素材をポーションにしないで料理にしてしまえば、効果は消えるかほとんど体感できない程度になり、身体強化系ポーションのような副作用の心配はなくなる。

 ただしランクの高い魔物素材は、料理して食べるだけでも僅かながら身体能力ポーションのような効果が出る場合がある。効果は大きくないので副作用の心配もポーションほどはない。


 といっても料理の場合、効果に対する値段効率は最悪なので、普通は身体強化目的で料理にするなんてことはやらない。今回は俺がドラモツカレーを食いたかっただけで、身体強化効果はオマケである。

 自分と相性の悪い魔力はその限りではないが、魔力が多く含まれているものはだいたい美味しいし、質の良い魔力を含むものを食べると、すぐに体感できるほどではないが自分の魔力にも良い影響がある。

 つまり強い魔物は美味しくて体にも良いのだ。


 カメ君用に小さな皿に盛って食べやすいようにカレーとご飯を混ぜておいた。

 口の周りが汚れそうなのは後で拭いてやればいいな。

 口の周りをカレーまみれにしながら皿に頭を突っ込むカメ君は可愛いな。

 ん? おかわり? そうかカレーが気にいったかー、しょうがないにゃあ。

 カメ君はちっこいからなぁ、いっぱい食べて大きくなれよー? ん? 肉に含まれた魔力が多くて酔っ払ったかな? シャックリが出ているけれど大丈夫?

 あ、大丈夫? うん、ガッツポーズも可愛いぞ。


 謎の孤島からの脱出まではもう少し時間がかかりそうだが、しばし休憩。

 こんな状況だが、せっかく綺麗な海が目の前にあるのだから、飯の間くらい海を眺めながらのんびりしたい。




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