第423話◆ごり押しこそ正義
「ふーーーー、やっぱごり押しは正義だな!!」
「ハハハ、まさかこんなところで雪の塊が役に立つとは思わなかったな! でも、カメッ子はちょっと寒そうだな」
「カーッ!!」
俺の肩に乗っているカメ君が、前足でペチペチと俺の頬を叩いた。ごめんて。
祭壇の上の燃えさかる炎。
その中のこぶし大の何かを取り出そうと、とりあえず炎に水をかけてみたが少し小さくなった程度ですぐに元の大きさに戻った。
まぁ、そんな予感はしていた。だが!! 水がだめなら収納にストックしている雪で埋めてしまえばどうだ!!
フハハハハ、埋めてしまえば燃えるだけの酸素もなくて消えるしかなかろ!!
む? 雪が溶けた? だが、火は小さくなっている。このまま埋め立てればそのうち消えるのでは。
いくぜ! 雪崩消火!! お前が消えるか俺の雪崩がなくなるか!!
――そして、雪をかけてもかけても雪を溶かし燃える炎との根性比べが始まった。
アベルやシルエットがいたら、氷魔法や沌魔法を使ったガチ魔法対決で炎を消していたのだろうが、俺は魔法を使えないしカリュオンが攻撃系の強力な魔法を使っているところは見たことがない。
つまりごり押し、消えればいいんだよおおおおおお!!
まさに物量。ごり押しこそ正義。プチ雪崩分くらい放出したところで、炎は消えた。うむ、なかなかの強敵であった。
祭壇は雪で埋まった。しかも炎が消えるまでに溶けた雪で足元がべちゃべちゃになっているが結果良し。
炎が消えて少し寒くなったけれど、気にしない。
やー、炎と一緒に燃えていた何かも埋まっちゃったから掘り返さないといけないなー。
ま、埋まっていると思われる部分は熱で雪が溶けているからだいたいわかるから問題なし。
痛っ! カメ君どうしたの!? なんで俺の頬をペチペチすんの!? そんなに寒かった? ごめん! ごめんて!!
「お、あったぞ」
雪の中から出てきた拳ほどの大きさの真っ黒な物体を拾い上げた。
火を消すためにぶちまけた雪で祭壇は埋まってしまったが、炎君が最後まで抵抗していたため、だいたいどの辺に燃えていたものがあるかはすぐわかる状態だった。
熱でべちゃべちゃになっている雪の中から見つけ出したのは、鉱石でできた像の一部だと思われるもの。
「んん? なんだこりゃ? 燃えすぎてコゲコゲになっちまってるなぁ」
目的のものが見つかったので、俺と一緒に雪を掻き分けて祭壇を掘り出していたカリュオンが作業をやめて俺の手元を覗きこんだ。
俺の場合掘り出すというか収納で回収したというのが正しい。溶けて水っぽくなってるのでなんだか汚い。
「うーん? 焦げているというか元々黒い鉱石じゃないかな? これが祭壇に書いてあった像の一部かな? なんだろう亀の甲羅っぽい?」
雪の中から掘り出した岩石を拭いてみたが、焦げて黒いというよりも元からそういう色だった感じだ。
大きさのわりに軽く、少しスカスカした感じであまり高価な鉱石ではなさそうだ。まるで溶岩が冷えて固まったような質感だが、何故か鑑定は弾かれる。
安っぽく見えても何か意味ありげなものだし、古代竜シュペルノーヴァにまつわる神殿ならもしかすると非常に珍しいものかもしれないな。
像の一部だと思われる鉱石についている汚れを落としてみると、黒くてわかりにくいがどうやら亀の甲羅のような形と模様をしている。像というのは亀の像なのだろうか。
愚亀の地図に亀の形をした島、亀の甲羅の形をした像のパーツ。
そういえばコイツも亀だな。
「ケッ」
カメ君の方を見ると何故かため息をつかれた。
亀だらけ謎だらけだがカリュオンが解読したように、地図に記されている順序で島を回るとこの島から脱出できると信じて進もう。
「地図に書かれてある順番で行くと次は左の前足だな、その次が右前足、尻尾の順番だな。そんでもって右後ろ足から左後ろ足に行って最後に頭。ちなみに俺達が野営してたのは右の脇腹辺りだな」
神殿の床に座り込んで地図を広げカリュオンがこれから進む順番を指で示す。
屋根の上から島の全体を確認できたので進む方向もわかった。
「むあー、島自体は大きくないが行ったり来たりで面倒くさいな。まぁトラブルがなければ夕方までには最後まで回れるかな」
床に座り込んで地図を見ながらポリポリとクッキーを齧って小腹を満たしておく。
あまり腹は減っていないのだが、この神殿の中は魔物が入って来ず安全なようなので、この後の進行を確認しながら小休憩だ。
祭壇付近は雪まみれなので、祭壇から離れ入り口付近で座り込んでいる。
シュペルノーヴァを祀ってある神殿を荒らしてしまった感があるが、あんな仕掛けにした方が悪い。
「おう、グラン、もうちょっと腹に溜まるものないか? できれば肉か魚」
「ん? さっき朝飯を食ったばっかりなのにまた食うのか?」
朝飯を食ってまだ二時間も経っていない気がするけど!?
「安全なところにいるうちに補給できるだけ補給しとく方がいいだろ? それにここの魔物はそこそこ手応えがあるから腹も減るんだ」
カリュオンはどっからどう見てもチートなタンクだが燃費が非常に悪い。
あの鉄壁のような防御は魔力依存らしく、ハイエルフの血筋で有り余る魔力を垂れ流した上にある代物だが、魔力消費の反動でめちゃくちゃ腹が減るらしい。
ヒョロっとした体のどこに入るんだってくらい飯を食うブラックホール系エルフである。
見ているだけで食費が心配になってくるが、Aランクの冒険者の報酬とドリーのパーティーでの収入とでめちゃくちゃ稼いでいそうである。
「すぐ出せるもので腹に溜まる肉魚料理なんてあんまストックしてないぞ」
とりあえずすぐに出せてそのまま摘まめるものとなると限られてくる。
今朝方見張りをしながら暇潰しに揚げていた、フェニクックのナゲットがあるのでそれをカリュオンの前に出した。
「さっすが!」
「フフフンッ!」
そのフェニクックのナゲットに釣られてカメ君が俺の肩から飛び降りて、ポテポテと皿の方に歩いていった。
コイツ、ちっこいくせに食い意地が張っているな。
「お前も食う? フェニクックの魔力は火属性だけど平気か? ま、水は火に強いもんだから平気か」
「フフンッ!」
カリュオンがフェニクックのナゲットをカメ君に渡すと、それをもちゃもちゃと食べ始めた。
素材が宿している魔力は調理後も残っている。
少々苦手な属性だとしても気にするほどのことではないが、生命力の弱い小さな生き物が強力な魔力を含んでいるものを食べると、魔力の影響で具合が悪くなることもある。相性の悪い魔力だとなおさらだ。
カメ君は見るからに水属性だけれど大丈夫なのかな? フェニクックはあれでもBランクの魔物だけれど平気か? 普通に食っているから大丈夫か。
「やーっぱ、腹が減ったら肉だよなぁ。はー、マジでハーフエルフでよかった。草ばっかりだなんて食った気にならないからなぁ。魔力は圧倒的に多くても、それを補う食が草ばっかりだったら食っても食っても腹が満たされないからな。だからハイエルフはヒョロヒョロガリガリなんだぜ?」
それは本当なのかカリュオンの主観なのか、よくわからないエルフうんちくだな?
あと、草じゃなくて野菜じゃないかな!?
「フンフンッ!」
一つ目のナゲットをペロリと平らげたカメ君は二つ目をカリュオンにお強請りしている。
カメ君はすっかりカリュオンに懐いちゃったなぁ。そのナゲットは俺が作ったんだけどなぁ。
「お? お前もわかるか? 肉は美味いもんな? いくら伝統ある純粋なハイエルフだとしても肉が苦手だからな、俺は伝統より肉! ハーフでよかった!」
カリュオンがハイテンションでカメ君に肉語りをするもんだから、カメ君がキョトンとした表情になっている。
しかしカリュオンを見ていると本当に肉や魚を美味そうに食うので作りがいがある。
それにエルフと人間のいいとこ取りをしたようなスキルと戦闘スタイルで、ハーフというかまさにハイブリッドである。
羨ましいな、おい!?
少し肉っぽい間食タイムが終わったら、神殿を出て亀島の左前足にあたる岬へ。
神殿からそこまではジャングルの中を通って一時間ほど。
前方からくる魔物はほとんどカリュオンが受け止めてなぎ払っている。
俺はカリュオンの討ちもらしと、背後からの奇襲の処理。いい感じに二人で分担して、今のところスムーズに進めている。
ジャングルが途切れ、海に突き出した岬には小さな灯台のような祠があった。その入り口は先ほどの神殿らしき建物と同じく青銅の扉だ。
ここに亀っぽい像の二番目のパーツがあるのかな? 場所的に左前足だろうか?
地図の全ての場所を回ると像が完成するのなら、場所に応じたパーツが配置されていそうだ。
地図を広げ祠に近付くと、中央の建物の時と同じように地図がピカリと光り、島の左前足部分に書かれていた文字が地図から剥がれ、祠の扉へと吸い込まれていった。
そして、閉じられていた青銅の扉がゆっくりと開いた。
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