第414話◆肉の暴力
「俺達そろそろ昼休憩するから、職員サン達は先に行っちゃってもいいんだよ?」
「ハハハ、僕達もそろそろ昼休憩にしようかなって思ってたところですよ」
そろそろ昼ご飯にしようと足を止め準備を始めたところで、一緒に進んでいた職員パーティーのリーダーさんとアベルが妙に爽やかな笑顔で話している。
どうやら職員さんパーティーも同じタイミングで昼飯にするようだ。
狩りは少なめで効率よく快適な進行をしようと思えば、だいたい同じようなルートになるので仕方ない。
ゴマを回収した後はとくに何事もなく進み、十一階層への入り口手前までやって来た。
十階層は田畑を荒らす害虫に時々出くわすくらいで、非常に平和な階層だった。
まぁ、その害虫君達はちょっと大きくて、人間くらいバリバリ食べちゃいそうなサイズで、やばい牙が生えていたりするんだけどね。
もしかして、君達も食べられる虫だったりする? そうだよね、食材ダンジョンだもんね。虫も食材だよね? 食うか食われるかというやつかな!?
……採取専門の冒険者を呼び込むには、まだまだ問題がたくさんありそうな階層であった。
十一階層は亜熱帯気候の果樹園らしく、気温と湿度が高いことが予想されるため昼飯は十階層で済ませてから十一階層に入る予定だ。
十階層の通路は畑の間を通る農道のようになっており非常に歩きやすく、十一階層手前では畑が途切れ広場のようになっているので、昼休憩をするには丁度良い場所なのだ。
通行人の邪魔にならない場所に魔物除けの結界をリヴィダスに張ってもらい、テーブルとイスを出してランチタイムだ。
開けた場所なので食事風景大公開になるが、俺達以外にもここで休憩をするパーティーもいるので気にしない。
今日の昼飯はマンモスの肉の骨付きステーキ。
あばら骨を残したまま分厚くカットした子マンモスのバラ肉を、朝方の見張り番の時にこんがりと焼いて、熱を通しやすい金属を紙のように伸ばしたもので包んでおいて、中までしっかり火が通った頃合いを見て収納に入れておいたのだ。
寒い場所に棲息しているので脂肪がたっぷりだ。そして小型の個体を選んだので肉も柔らかい。
なお大きなマンモスは牙だけ回収して、解体しないで買い取ってもらった。最近解体に追われていたから、少しくらい楽をしてもいいよね。
マンモスの成獣からは脂が大量に採れるため、未解体のままでもわりと快く買い取ってもらえるのだ。牙は色々使い道が多くて高い部位なので、売らずに残しておいた。
小さな個体の肉といっても、人間が食べるには十分大きい。
あばら骨の形を残したまま肉にくっついた状態で、肉を分厚くカットしたのでものすごいボリュームだ。
その見た目はまるで肉の斧。そう、トマホークステーキである。
一般人から見たらまるで猛獣のエサかってくらいの大きさなのだが、俺達冒険者は体が資本である。
そして魔力を使うとやたら腹が減るので、冒険者みんなよく食べる。
つまりちょっとしたハンドアクスくらいのサイズの骨付き肉なんてペロリである。
「お、いいねえ、これぞ肉! 肉の鈍器! 肉の暴力!」
おかわりと言われるのも面倒くさいし、余っても収納に入れておけばいいのでこれでもかってくらい焼いて、大皿に豪快に盛ったトマホーク肉をカリュオンが両手に一本ずつ持ってめちゃくちゃハイテンションになっている。
「わかる、これぞ肉。こういう焼き方だとシンプルな味付けでも十分いけるね。肉だけのシンプルさも悪くない、野菜なんていらない」
いや、アベルは野菜食え。
アベルに限らずこのメンバーを放っておくと野菜を食べようとしないので、さりげなく野菜を摂らせないといけない。
「ほら、これなら野菜も摂れるだろ。食後に飲んでおくんだ」
ゴリラなのに野菜を食べようとしないゴリラどものために俺が用意したのは、トマトやニンジンの入った野菜ジュース。
それだけだと野菜感が強いのでリンゴとハチミツそしてルチャルトラで採って来たバナナが入っている。更にミルクと氷を加えて冷たくまろやか。
これなら青臭くもなく、甘くて冷たくて口当たりもいい。アベルは野菜をデザートっぽくすればコロッと釣られるので案外チョロい。
肉から飛び出している骨の部分を握り、豪快にマンモスの肉に齧り付く。
食べやすいサイズの料理もいいが、たまにはこういう野性味のある料理も悪くない。しかもこれだけのボリュームだと、超肉を食っていると気分がすごい。
ハーブ系の薬草で臭味を取り、塩と胡椒を振って焼いただけのシンプルな味付けの若いマンモスの柔らかい肉から、ほどよくのった脂がジュワッと口の中に流れ出してくる。
肉の固さも臭味も気にならないように下ごしらえをして焼いたので、豪快な見た目に反して食べやすい仕上がりになっている。
少し脂身が多いのもまたマンモス肉の美味さだ。
今日はあまり戦っていないので、今日の摂取した脂は明日以降消費すればいい。
「焼いただけの肉のはずなのに妙に美味しそうに見えますね。テーブルまで出して、それにその飲み物……そこだけオープンカフェのように……」
俺達の近くで地面に腰を下ろし、串に刺した魔物の肉を焚き火で炙っているギルド職員さんが、チラチラとこちらを見ている。
「いやー、うちのメンバーは非常に優秀でなぁ、こうして食事面からメンバーのコンディションを管理してくれるんだよ。はっはっは」
豪快に肉を食いちぎりながら話すドリーは、超機嫌が良さそうだ。
ドリーも肉好きだしな。肉が多いと機嫌が良くなる者ばかりのパーティーである。
「グランが料理をすると、肉を焼いただけでも料理になるからね」
肉を焼けばそれだけで十分料理だが!?
「グラン君、やっぱ君、採用試験を受けて冒険者ギルドの職員になってよ。点数が足りなくても、僕のコネで絶対合格にするから。その多彩な能力、冒険者ギルドで活かそう。君ならきっと現場で大活躍だ」
職員さーーん、コネって言っちゃってるよ!!
てか、現場で大活躍なら冒険者のままでいいのでは!?
「いやいや、俺は田舎でのんびり小動物を撫でながらスローライフを送るのが夢なんで、ギルド職員はちょっと」
好きな時に働いて、好きな時に自分の時間が持てる。冒険者という職業が俺の性に合っているのだ。
将来的には少し不安はあるが、ちゃんと引退後の貯蓄も作っておこう。マイホームと手に職があれば食い逸れることはないはずだ。
「そーだよ、グランはご飯を作るのに忙しいから、冒険者ギルドの職員なんかやってる暇はないよ」
アベルよ、それは助け船なのか? まるで俺が飯屋でもやっているみたいだな!?
「うむ、暇があるならうちのパーティーと一緒にダンジョンに籠もらないといけないから職員は無理だな」
ダンジョンは好きだから誘われると嬉しいけれど長期間はちょっと……。
「そうそう、グランがギルド職員はちょっと似合わないよな? 冒険者の悪いお手本になりそう」
おいカリュオン、それはどういうことだ。バレると怒られそうなことは内緒にしておいてください。つい先日のプリモジロ君爆発炎上事件とかとくに。
「そうよねー、グランはちょっとした書類を書くのも面倒くさがるから、事務仕事はむいてなさそうね」
お母さんよく見ているな。書類を弄るのが苦手なのは本当のことなのでそこは反論できない。
「しつこい男は嫌われるわよ~。グランは自由人だから才能が発揮できるのよ。自由すぎて才能が斜め上に吹き飛んでいくこともあるけど、そこがいいのよ?」
いや~、お師匠様に褒められると嬉しくて照れるうう~。
「むぅ、さすがドリーさんのパーティー、結束が固い。勧誘は難しそうですねぇ。知識も多そうだし、料理もできる、そしてそのマジックバッグ、うちの部に欲しかったなぁ」
「残念だったねぇ。グランが嫌だって言ってるから諦めてねぇ」
「ええ、そういうことなんでせっかく誘ってもらったのに申し訳ない」
そうそう、サラリーマンはもう前世でお腹いっぱいだからな。
あれ? サラリーマンってなんだっけ? うっ!? またうっかりくだらないことに転生開花を使ってしまった。
やだ、残業やだ。働きたくないでござるー、仕事に行きたくないでござるー、あ"ぁ"ー……仕事大好き。
はっ! うっかり転生開花の反動で心が闇に包まれるところだった。
恐ろしいギフトだぜ……転生開花。
マンモス肉は多めに焼いていたので、この後職員さんパーティーにもお裾分けをした。
賄賂を渡したので次の買い取りは少し高めでお願いしたい。
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