第386話◆追加でちょっとだけ
ドリーの解体は解体というかぶつ切り。
カリュオンはハーフエルフなのでああ見えて俺達よりずっと年上で、魔物の解体はわりと上手いのだがスピード重視で大雑把。そして飽きっぽい。
アベルは下手ではないのだが、血なまぐさいとか、装備が汚れると言ってやりたがらない。
リヴィダスはダメだ。申し訳ないが俺が知っている誰よりも不器用である。お母さん、ゴリラ達の世話で疲れたでしょ? ゆっくり休んでて?
シルエットは安定。もしかして俺より上手いのではなかろうか? 妙に動物を捌くのが上手いのは、やっぱ俺より冒険者歴が長いからだろうか?
ゴリラ達が大暴れをしたせいで、ランポペコラがすごい数だし、普通のヤエルだけではなく巨大ヤエルもあるしでちゃんと整理をしておかないと、王都のダンジョンの時みたいに収納が溢れたら困るので、夕食の後大急ぎで解体作業だ。
って、ゴリラ達が暴れた結果のヤエルも俺が解体するのか!?
え? 角を片方くれる? しょうがないなあ……。
新しいダンジョンだけあって、セーフティーエリアの簡易解体場の設備は新しくて使いやすい。
一人で全部解体するのは辛いなと思っていたら、他のメンバーも手伝ってくれると言うので手伝ってもらうことにした。ドリーとリヴィダス以外。
カリュオンは途中で飽きてどっか行ったけれど少し手伝ってくれただけでもありがたい。
シルエットは魔物解体はわりと好きなのか、パーティーを組んだ時は毎回快く手伝ってくれる。今回もいつものように雑談をしながら一緒にランポペコラを捌いてくれている。
今回はアベルもめずらしく手伝ってくれた。お仕置き激辛ピザが効いたか!?
あまり大きくない魔物だし血抜き用の魔道具もあるのでサックサクと、ランポペコラと普通のヤエルの解体だけは終わった。
収納の整理大事、すごく大事。
そして残った巨大ヤエルこと憤怒の山羊。コイツどうしよう……、今日は見なかったことにしよう。
ちょっと行きたいところもあるし?
解体作業が終わった後は見張り役を残して休む時間なのだが俺は一人で散歩へ。
どうせ俺の番はいつものように最後だからな。
セーフティーエリアのすぐそばにもプラクスが生えているのでもう少し集めておきたい。
色々試して見たいから、山ほどないと不安で眠れそうにないのだ。
目標は眠くなるまで、納得するまで集めていたら眠くなるはずだ。
プラクス以外にも高原限定の植物も見られて、せっかくなので持って帰って弄ってみたい。
「あまり遠くに行きすぎないのよ? 変な生き物がいたら無闇に触らないこと。採取に夢中になりすぎて周りへの注意を忘れないようにね。変なものに追いかけられるようだったら、谷底にでも落として逃げてくるのよ? どうしても振り切れなかったら素直にセーフティーまで戻ってらっしゃい」
「うん、大丈夫だよ。ちょっとセーフティーの周囲で薬草を摘むだけだから、遠くには行かずにすぐ戻って来るよ」
リヴィダスは心配性だなぁ。
解体作業の後出かけようと思ったら最初の見張り役に見つかり、色々と釘を刺されてしまった。
熟練ヒーラーはお母さん気質なイメージがあるのはきっとリヴィダスのせい。
あ、睨まれた! じゃあちょっとだけいってきまーーーす!!
ダンジョンにはずっと同じ時間帯の環境が続くものと、時間が流れているように周囲が変化するものとある。
このダンジョンの三階層はずっと昼間のようで、時計を持っていなければ時間の感覚がおかしくなりそうである。
ずっと同じ時間帯が続くのならまだしも、外部の正しい時間とはずれた環境の階層は入る時も帰る時も時間の感覚がおかしくなる。
ドリー達が大暴れしたヤエルの住み処やランポペコラの住み処はセーフティーエリアのすぐ近くだ。
そろそろ岩山も元に戻ってヤエルも復活しているだろうなぁ。近寄らんとこ。
今回はそちら側ではなく反対側。
こっちにもプラクスは生えているし、あちら側にはなかった薬草も生えているようだ。
「これはララマニィか。ちょっとだけつまみ食いしても大丈夫かな」
以前アベルとドリーが食べて大変なことになったコフィアの実のようなことはない植物なので、綺麗に拭けば大丈夫だ。怖いから一応鑑定するけど。
ララマニィは標高の高い場所に生えている低木で、赤い小さな実を付ける。
この実は甘酸っぱくて美味しく体力回復系のポーションの材料なのだが、中にある種には麻痺毒がある。
まぁ固い皮に覆われているので無理矢理かみ砕いたりしない限り大丈夫だ。
うっかり飲み込んでしまうと、食べた量によっては全身が麻痺してしまい非常に危険である。
実以外にも葉にも同様の毒があるので、誤って食べないように注意しなければならないのだが、麻痺毒は色々と使い勝手がよいので持ち帰って加工をする。
またララマニィは成長が遅いため、小さな木だが年輪が詰まっており弓の素材として優秀である。
ダンジョンのララマニィはどうなんだろうなぁ。
斧を取り出して一本根元から切ってみるといい感じに細かい年輪が詰まっているのが見えた。
よし、お持ち帰り決定!!
ダンジョンのものだし根元から刈り取ってもそのうち生えてくるよな。
弓以外に木工細工にも使えそうだし、何本か貰って帰ろう。
これだけ年輪が詰まっていたら鈍器にしても痛そうだなぁ。鈍器はあまり使わないのでしょぼい木の鈍器しか持っていないから、帰ったら新しいのを作るか。
低木だというのに頑丈なララマニィに斧を叩き付けていると気分は木こり。
あまり木こり作業をすることはないので案外楽しい。ほどほどで切り上げて休まないといけないのだが、楽しすぎてやめ時に困る。
このままずっと木こり作業を続けていると、木こりロードになってしまうかもしれないなどと思い始めた頃、背後に俺よりも大きな生き物の気配がすぐ近くにあることに気付き、そちらを振り返った。
危ない、採取に夢中になりすぎて周囲の警戒が緩くなっていた。いや、それなりに警戒はしていたのだ。
しかしここまで接近されるまで気配は感じなかった。殺気がないのも気付くのが遅れた原因だ。
「ふえ!? ラト? あれ? 違う?」
気配の方を振り返るとラトにそっくりな大きなシャモアがゆっくりとこちらに向かって歩いて来ていた。
シャモアの顔なんて見分けがつかないから、大きなシャモアは全部ラトに見える。
カモシカの類かもしれないが、ラトにそっくりなので多分シャモアだ。
ラトとの大きな違いは、その毛の色――日の光を浴びてキラキラと光る淡いブラウンの毛は眩しい金色に見えた。
「って、お前それでよく生きてるな!?」
そのラトの色違いのような金シャモアの背中から肩に掛けて、木の矢が何本も刺さりダラダラと血が流れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます