第303話◆秘密の階段
棚の奥の穴は小さな子供なら楽に通れるが、俺が通るにはちょっと頑張らないといけない。
装備を外し匍匐前進をして、なんとか抜ける事ができた。
おかげで、埃まみれである。
やっとの事で穴を抜けて、照明用の魔道具で先を照らすと、左右を石の壁に挟まれた細い石の階段が上へと続いている。
足元には、穴とほぼ同じサイズの厚みのある木の板が倒れているので、先ほどの音はこれが倒れた音だと思われる。
一応、元の位置に戻しておくか。
木の板を穴に嵌め終わって階段の方を向くと、女の子が階段を足取り軽く駆け上がって行くのが見えた。
「おい、走ると危ないぞ」
女の子が階段を駆け上がると、それと一緒に、階段の壁に付けられている小さな照明が、順々に薄い光を灯して行く。
照明を持ち歩く必要はなさそうだな。
照明用の魔道具を収納にしまい、外した装備を取り付けながら、階段を進む女の子の後を追う。
周囲の気配を探ってみるが、これと言って生き物の気配はない。ただ、上の方から少しじっとりとした感じの魔力が、流れて来ている感じがする。
この階段は、どこまで続いているんだ?
階段を進めば、ところどころ蜘蛛の巣がかかっており、足元にも埃が積もっている事から、この階段はしばらく誰も使っていなかった事が伺われる。
成人男性が一人通れる程度の幅の階段は両側を壁に挟まれおり、壁の中もしくは部屋と部屋の隙間を通っている階段だと思われた。
意図して作られた隠し階段なのだろうか、それとも改築や増築を重ねているうちに、隙間に埋まって使わなくなった階段なのだろうか。
時々踊り場があり、そこで階段の向きが変わりながらどんどんと上に上がって行く。
左右を壁に挟まれ同じような光景が続く細い通路内で何度も向きが変わり、方向感覚がなくなってくる。
しかも、なんだか階段を上がるにつれて魔力が濃くなってきたぞ。
何となく嫌な予感がする。
俺の前を女の子が軽い足取りで階段を上って行く。元気だな!? ははは、これが若さってやつか!?
この階段はどこまで続くのだろうね、お兄さんちょっと疲れてきたよ。
ただひたすら上へと続く階段、左右は壁だけで出口は見えない。
新手の筋トレかってくらいしんどいな。アベルがいたら絶対プープー文句を言っていそうだ。
しばらく上っていると、階段の終わりが見え、右手の壁に木製の板が嵌められている箇所があるのが見えた。
あそこが出口か? 戸棚の下の入り口よりは広いが、それでも人の頻繁な出入りを想定したサイズではない。
ここまで来ると、下にいる頃から感じていた魔力がかなり濃くなっている。
この先に何か魔力を吐き出している物がありそうだな。侵入者避けか? 警戒はしておいた方がいいだろう。
女の子は大丈夫だろうか?
濃い魔力に心配になるが、平然とした顔で階段を上りきって、出口らしき板の前に立っている。
幼女強いな。
板を外すと石壁にぽっかりと穴が空いているが、その先は棚の裏板のような物が見え、大きな棚で出口が塞がれているのがわかる。
しかし、その裏板には手を掛ける場所があり、そこに手を掛けて引っ張ってみれば簡単に外れた。
その先は、下の入り口と同じように棚の一番下の段らしく、ごちゃごちゃ物が入っている。
そして裏板を外した直後、先ほどから感じている魔力が更に濃くなった。おそらく、すぐ近くに魔力の発生源があるはずだ。
出口の向こうに人がいた場合、こんな所から侵入してしまうと不審者だと思われそうなので、棚の向こうに人の気配がないか確認をする。
人はいなさそうだなぁ、なんか色々ごちゃごちゃ物が置いてある感じがするから、倉庫か何かだろうか?
とりあえず、中の物を出さないと通れないな。
高価な物があったらまずいから、壊さないように丁寧に取り出さないとな。
通った後また元に戻すの面倒くさそうだなぁ。あ、この通路に入る時にどかした物、そのまま置きっぱなしで来てしまったな。帰りに直しておこう。
んんん? なんか高そうな魔道具が箱にも入れられずそのまま突っ込まれているぞ。
ぐええええ、これが魔力の発生源かっ!!
めちゃくちゃ魔力が吹き出していて、魔力に耐性が低い者だと、魔力を浴びただけで卒倒してしまいそうだ。
しかも魔道具から出ている魔力は、なんだか妙にねっとりしているな。呪われた魔道具だったらどうしよう。
棚の中から取り出した、魔道具は俺の拳二つ分ほどの大きさ。
なんだかすごくねっとりというか息が詰まるというか、まとわりつくような魔力を出している。なんだか怪しい魔道具だな!?
ちょっと鑑定するくらいならいいよな?
バチンッ!!
「うわっ!?」
手に取って鑑定しようと魔道具に魔力を通した瞬間、電撃のような衝撃が走って魔道具を落としてしまった。
魔道具には強力な鑑定阻害効果が付与されていたらしく、俺の魔力に反発してしまったようだ。
やっべ、落っことしちゃった。
落とした弾みで、魔道具に嵌められていた黒紫の魔石が外れ、階段をコロコロと転がり落ちて行く。
「やばばばばばば」
慌てて追いかけたが、魔石は一つ下の踊り場まで転がり落ち、真っ二つに割れているのが見えた。
うわぁ……まずぅ……。
魔石が外れた魔道具からはねっとりとした魔力は吹き出さなくなり、沈黙してしまった。
魔石が外れて動力源がなくなっただけで、魔道具本体は壊れていないよな!?
色からして闇……いや、あの感じ沌属性の魔石かなぁ。
沌属性は聖属性の対極になる属性で、その魔石の入手手段は少なく値段が高い。
これは弁償かなぁ、収納の中に沌属性の魔石あったなぁ。とりあえず、割れた魔石と魔道具を持って行って謝ろう。
しかし、沌属性の魔石を使った魔道具なんて珍しいな。
鑑定したいけれど阻害されたしな。あまり体に良さそうな魔道具ではなさそうだったけれど、貴重な物だったかもしれない、どうしよう。
とりあえず、割れた魔石を回収して出口まで戻り、魔石の外れてしまった魔道具も回収。
これ以上うっかり物を壊さないように、慎重に棚の中の物を避け、その中をくぐって壁の向こうへと入る。
その先は倉庫……いや、本を手入れする為の部屋だろうか、それっぽい道具が置かれた大きな作業机が部屋の真ん中にある。
周囲の棚には色々な道具や薬品が置かれ、手入れ待ちの本らしきものが入った箱が専用の棚にずらりと並べられている。
そして、先ほどの魔道具の影響か、部屋の中の魔力が妙にねっとりとしていて気持ち悪い。
こんな所で作業していたら、魔力のせいで無駄に疲れそうだな。
ってここは、一般人は入ってはいけない部屋だよな?
見つかって怒られる前に部屋から出よう。って、随分上まで上がって来たから、この辺りは全部職員専用区画かもしれないなぁ。
それよりも、身分証明も入館料もなしで図書館内に入ってしまったから、そちらもまずいな。
魔石も割ってしまったし謝る事がいっぱいだ。ゾンビに追われたって言えば許してもらえるかな?
おっと、引っ張り出した物や板を戻しておかないと……。
面倒くさいな。今誰か来ると、棚の中に頭を突っ込んで作業をしているのを見られて、不法侵入者だと思われそうなんだけど!?
や、不法侵入者だったわ。
よっし、片付いた! 多分、元通り!!
すっかり、蜘蛛の巣やら埃まみれになってしまった。しかし、本が置いてあるしここで叩いたらまずいよな。くそ、我慢するか。
俺は埃と蜘蛛の巣だらけなのに、女の子は全く汚れていないな? もしかして、浄化魔法が使えるのか?
お兄ちゃんにも浄化魔法をかけてくれないかな? ね? だめ?
物欲しそうな視線を送ってみたが、首を傾げそのままスタスタとドアの方へと歩いて行ってしまった。
ウワ、ヨウジョツメタイ。
おっと、このまま無計画に部屋の外に出てしまって職員さんに遭遇してしまうと、不審者扱いされそうだ。
部屋の外に人の気配は――あれ?
「ちょっと待ったあああああ!!」
背伸びして扉に手を掛けようとした女の子を、ひょいっと抱き上げて扉から離す。
外の気配がおかしい。
人の気配はポツポツとある。しかし、おかしい。
「ちょっと、ドアから離れてるんだ」
女の子をドアから離れた所に下ろし、少しだけドアを開けた。
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